10-FEET、3人らしさ全開のまま遂げたソリッドな進化 未発表曲披露で大いに沸いた『helm'N bass』ワンマン

10-FEET『helm'N bass』ワンマンレポ

 だが、ここで珍事が起きる。流れるように「アオ」に突入したかと思えば、TAKUMAが盛大に歌詞を飛ばし、1番・2番のサビを丸々歌えなくなるというハプニングが発生。演奏が終わった瞬間すかさずTAKUMAがメンバーに苦笑いで謝り、「『アオ』やのに真っ赤になったわ(笑)」と言って会場を爆笑で包み込む。すると、NAOKIが「実は俺もさっき(演奏中に左手を)ぶつけて血出てんねん」、KOUICHIが「1曲目の『火とリズム』の時、屁こいてた」とそれぞれ怒涛の白状タイム(?)へ。ここで客席からリクエストを募り、お詫びに1曲追加で演奏するというのはよくある流れだが……TAKUMAのとっさの提案で、なんと「STREET」という初期の未発表曲を急きょ演奏することに。MCによれば「結成したての頃に作った、デモテープにしか入ってない曲」「この会場でマサ(マネージャー)しか知らへん曲(笑)」ということで、観客もどよめく。終演後、活動したての頃に地元で演奏していた曲だとTAKUMAが教えてくれたが、それにしてもこれは限りなく初披露に近いと言っていいだろう。3人が30年近く前の記憶を手繰り寄せながらかき鳴らされた「STREET」は、初期衝動の詰まったメロディックパンク色の濃い1曲で、まだオリジナリティが確立される前の初々しさが際立つ。とはいえセットリストの中で新鮮な輝きを放ち得る曲だったからこそ、結成30周年あたりで待望の音源化はどうだろうか……。ともかく、ここまで出し切って、徹底的に丸裸になったところからがロックバンドのライブの真骨頂。10-FEETらしさを飛び越えて、“めちゃくちゃ10-FEETらしくてたまらない”瞬間に立ち会えたことが嬉しい。

 さらにフロアからの膨大なリクエストを拾って予定外の「JUNGLES」も披露。奇しくもライブ前半のノリを引き継ぐかのようにヘヴィネス全開な演奏となった。こうなってくるとギアはフルスロットルで上がり続けるばかりだ。リクエストでも人気だった「ライオン」、愛や思い出で情景を描き出すような「シエラのように」を続けて披露した後、今や10-FEETの“二大看板”である「RIVER」と「第ゼロ感」でぶち上げ、ラストスパートに向けて一気に駆け抜けていく。

 TAKUMAは「普段イケてないヤツらでも、ライブハウスで一緒にカッコよくなっていこうな」と呼びかける。10-FEETのワンマンには、たとえTAKUMAの喉の調子が悪くても、演奏面でトラブルがあっても、最後には「来てよかった!」と心から思わせてくれるマジックが不思議と毎回ある。この日だってそうだ。どんな状況でも、1曲1曲演奏を重ねていく中で何かポジティブなエネルギーが生まれてくる。そのエネルギーを強くしているのは25年以上にわたって積み重ねてきた10-FEETのキャリアであり、もっと言えば会場に集まった人の数だけある“人生”そのもの。「その向こうへ」はまさにそんなエネルギーが結晶化したような曲だし、「ヒトリセカイ」の前にTAKUMAが放った「ここまで連れてきてくれたのはお前らや!」という叫びも“10-FEETらしさ”を象徴する心からの言葉だろう。冴えない時こそ、歩幅を合わせて一緒にカッコよくなってくれる10-FEETがいる。一人では無理でも、みんなでちょっとずつ幸せを目指していける。そんな青臭い気持ちを胸張って口にできる。だから10-FEETのライブは特別だ。

 流れを断ち切らずに突入したアンコールで、「CHERRY BLOSSOM」と「back to the sunset」が演奏されて大団円に。終わりたくないという気持ちからだろうか、“今”を噛み締めるように、いつも以上に「back to the sunset」のイントロをじっくり長めに弾いたTAKUMA。こんなにも短くて速い曲なのに涙が溢れそうになるのは、TAKUMAの記憶や優しさが少ない歌詞の中に凝縮されているからだと、口ずさみながら改めて思った。

 ロックバンドとしてますます自由な進化を遂げながら、心の奥底のピュアな想いをちゃんと抱きしめてくれる。どこをとっても10-FEETらしい素敵なワンマンだった。

※:https://realsound.jp/2024/07/post-1711296.html

◾️セットリスト
『10-FEET "helm'N bass" ONE-MAN TOUR 2024-2025』
5月13日(火)Zepp Haneda (TOKYO)
01. 火とリズム
02. VIBES BY VIBES
03. 1sec.
04. STONE COLD BREAK
05. ハローフィクサー
06. gg燦然
07. SHOES
08. goes on
09. nil?
10. 2%
11. helm'N bass
12. Re方程式
13. アンテナラスト
14. 太陽4号
15. アオ
16. STREET(未発表曲)
17. JUNGLES
18. ライオン
19. シエラのように
20. RIVER
21. 第ゼロ感
22. その向こうへ
23. 蜃気楼
24. ヒトリセカイ
25. CHERRY BLOSSOM
26. back to the sunset

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