アニソン20年の軌跡:シーンの変遷を辿る(5)歴史を動かした“金字塔”『ネギま!』OP「ハッピー☆マテリアル」の真価を問う

アニソンとファンコミュニティの進化 楽曲がもたらした波及効果

 さて、「ハッピー☆マテリアル」という楽曲を語る上で外せないのが、ネット上で起きた「ハッピー☆マテリアル」をチャート1位にするという運動である。まだTwitter(現X)などのSNSもYouTubeもニコニコ動画もなく、mixiがやっと出てきたぐらいの時代。この運動を主導したのは匿名掲示板だった。

 その背景には、アニソンそのものの地位が今よりも低かったという当時の状況がある。今から20年前はアニメやアニソンというものはまだまだ偏見に晒されていた時代だった。今のように芸能人がオタクであることを公言したり、著名なアーティストがアニソンをカバーして歌ったりするのが当たり前の今からすると、隔世の感があるだろう。

 今で言う“炎上”とは違って、当時は“祭り”という言葉がよく使われていた。「アニソンを馬鹿にする奴らに一泡吹かせてやろうじゃないか」と、「ハッピー☆マテリアル」をチャート1位に押し上げるという機運が熱し、実際にチャート上位に食い込む快挙を成し遂げたわけである。“祭り”という呼びかけから始まった運動ではあるが、「ハッピー☆マテリアル」がアニソンの歴史を動かしたのは事実だ。

 2010年代以降のネット上のコミュニティの中心がSNSになった時代からは、ファンのコミュニティが作品を盛り上げるために自主的に運動することも当たり前になった。こうしてかつての“祭り”は“推し活”へと変化していくことになるのだ。

月替わり構成が生んだ新たな価値

 「ハッピー☆マテリアル」は、“月替わり”でリリースされたことも非常に斬新だった。

 これによって、アニメの主題歌を聴きたいからCDを買うという理由だけではなく、好きなキャラクターや声優が歌っているCDを買うという従来とは違う楽しみ方が可能になった。もちろん作品全体が好きな人や、バージョンごとの違いを楽しみたい人にはすべてを買う選択肢も生まれることになる。現在の言葉で言えば、“推しキャラ”のCDを買ったり、“箱推し”したりするようなもので、推し活の元祖と言えるかもしれない。

【シングル発売記念】ハピマテマラソン【ハッピー☆マテリアル】

 また、『ネギま!』は声優によるライブも行われていた。当時すでにアニメの出演声優によるライブは珍しいものではなかったが、ヒロイン声優31名+ネギ役の佐藤利奈が勢揃いした『大麻帆良祭』(2005年12月10日、千葉・幕張メッセイベントホールにて開催)は当時としてはかなりの大規模のイベントだった。ライブのクライマックスは「ハッピー☆マテリアル」のメドレーで、すべてのバージョンを繋げて31人で歌唱するというもの。熱いライブで声優ファンを掴んだ作品でもあったのだ。

 作品そのものよりもキャラクターや声優を“推す”ことを楽しむ。それはモノ自体を消費するのではなく、高度消費社会が生んだ“情報”そのものを消費するという価値観にも通ずる。本楽曲は『平成アニソン大賞』の企画賞(2000~2009年)を受賞したが、その受賞にふさわしいアニソンの歴史における転換点的な作品だったといっても過言ではないだろう。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる