細美武士、人生観の転換から芽生えた“終焉”と“輝き”への想い the HIATUS 15年の特別な歩みも振り返る

the HIATUS細美武士、人生観の転換

モダンジャズの面白さに魅了されたハバナでのライブ体験

――メンバーの心境によって楽曲のアレンジも変わってきたのかなって思うんですけど、改めてthe HIATUSの曲の作り方、成り立ちに関してはいかがでしょうか。

細美:そうだなあ……俺はミュージックラバーなので、どんなジャンルの音楽も好きなんですよね。ポップスもヒップホップもレゲエもジャズもクラシックも。でも、the HIATUSがやっているのはやっぱり特殊ですよね。うまく言語化して語れないので、インタビューに向いていない(笑)。けど、それを好きだと言ってくれる人がいてよかったなと思う。美穂ちゃん(インタビュアー)みたいに子育てしてたりで、野音までは来れない人のほうが多いから、そういう人たちに「the HIATUSの15周年ライブってこんな感じだったんだ」って届けられそうなのでワクワクしています。

――そういう言語化できない音楽性って、近年the HIATUSが続けているジャズクラブ公演ともマッチしていますよね。そもそも、いわゆるライブハウスではないハコでライブしようと思った理由って、どんなところにあったんでしょうか?

細美:以前、矢野顕子さんと一緒に曲を作らせていただいたり(「やさぐれLOVE」)、ブルーノート公演を観に行かせてもらったことがあって。そこでジャズクラブっていうものに初めて触れて、衝撃を受けたんですよね。ごはんも食べられるしお酒も飲めるんだけど、ディナーショーじゃない。その頃はまだバックパッカーもやっていたので、それから旅先でジャズクラブにも行くようになったんですけど、特にキューバのジャズクラブは衝撃的でした。キューバって、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のヒットによって“ジャズミュージシャンになって世界に羽ばたく”ルートが生まれたから、ミュージシャンを志す若者が多いし、ポップスよりルーツミュージックの本格的な嗜好が強い。そのハバナの登竜門とされるハコが郊外にあるんですけど、行ってみたらめちゃくちゃ狭い。入場料は一律、観光客価格で1000円ぐらい。なのにドリンク2杯ついてくるんですよ。

――安い!

細美:ステージも「the HIATUSは上がれないんじゃないかな?」ってくらい狭くて。でもとんでもないレベルだったんですよね。モダンジャズだから、みんなが想像するものとはだいぶ違うかもしれないけど、1小節を3と4と5で割ってるメンバーが同時に鳴らして公倍数で出会うみたいな演奏にちゃんと歌が乗っていて。そんなバカテクかつオーセンティックな音楽を、すし詰めの小さいハコのカウンターでビール飲みながら聴いてました。そういう経験が、the HIATUSの音楽性からさらに制約を取り払っていった感じです。柏倉(隆史/Dr)と一葉(伊澤一葉/Key)は、ずっとそれをやってきた人たちだから自然と噛み合って、近年はmasa(masasucks/Gt)とウエノ(コウジ/Ba)さんもその方向に引きずり込んでいってます。

――それが結実して2024年は『Gobble Up the Groove Tour 2024 - The Jive Turkey Rhythmic Expedition -』という全国ジャズクラブツアーにまで至り、その追加公演が日比谷野音だったわけですけど、この会場を選んだ理由も教えていただけますでしょうか。

細美:「15周年だからそれなりに大きいことをやりたいね」と言っていたのと、たまたま野音の日程が出てきたっていう感じです。野音で自分のライブやるの、初めてだったんですよね。

――the HIATUSにとっても細美さん自身にとっても、野音は初めてでしたよね。開放的な会場に音楽性がマッチして、集大成に相応しいライブの一因にもなったと思います。

細美:そうなったし、ツアーがすごくよかったの。っていうか、the HIATUSっていつもいいツアーをやってるんだけどね(笑)。さっきmasaとウエノさんを引きずり込んだって言ったけど、あの人たちも天才型ミュージシャンなので、ステージで一緒にやっていると爆発するんですね。なんか、アホみたいに面白くて不思議と美味しい料理が出てくるけど、そんなメニューに名前はない……みたいなレストランっていう感じですかね。そういうのをthe HIATUSはやりたい。でも、それを言うと一葉は「いや、売れようよ。マクドナルドになろうよ」って言うけど、「全然そんなこと思ってないでしょ?(笑)」と思って聞いてます。

――(笑)。

細美:俺は音楽は確かに好きだけど、理解も浅いし知識もないんですよね。一葉みたいに音楽理論を勉強したわけでもないし、いまだに「sus4って何のこと?」みたいな感じなので。真似ごとで思いついたことをやっているだけなんですが、それを楽しんでくれる人がいるのは、本当にありがたいし面白いです。

「輝いている最後の瞬間に残すのは、やっぱりELLEGARDENのアルバム」

――さっきmasasucksさんとウエノさんのお話が出てきましたけど、the HIATUSが始まるまで、FULLSCRATCHのMASAさんを見てパンクスだと思っていたし、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのウエノさんを見てロックンローラーだと思っていたんですね。その道を突き詰めていくタイプだと思っていたんですけど、the HIATUSではしなやかに才能を発揮されていて。だから特にmasasucksさんとウエノさんの人選は絶妙だったんじゃないかって、今さらながら思うんですよね。

細美:ウエノさんはなぜか自分ではこの話しないけど、自分から「(バンドに)入れろ」って言ったんですよ。当時、スカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)先輩やウエノさんが飲んだくれていた青山のクラブがあって、俺もちょこちょこ遊びに行っていて。酔っ払ったウエノさんに「細美、エルレ止まったんだろ。次になんかやるなら俺にベース弾かせろよ」って言われて、「わかりました」って。

――なるほど。

細美:masaは、ELLEGARDENが休止して俺のメンタルがズタボロだったときに、毎日一緒にいてくれました。たぶんヤバそうに見えてたんじゃないですかね。masaって、普通の人が見えていないところが見える、バイブスみたいなものを感じて生きているタイプだから。毎晩一緒に飯食ってくれて、俺はこいつがバンドにいてくれたら心強いと思って、2人で曲を作り始めて。で、柏倉はmasaが連れてきた。だから、俺が声をかけたのはmasaだけなんですよね。言ってみたらmasaと俺が作ったバンドなんです、the HIATUSって。

――音楽性云々じゃないところで集まったメンバーなんですね。ジャンルで語れない楽曲が生まれるわけだ。

細美:だって俺、当たり前ですけどプロとしてのバンドってエルレしかやったことなかったですからね。バンドって全部が同じ感じだと思っていたけど、ほかの人とやったら全然違った。バンドって100個あったら100通りのルールブックがあるので、エルレのルールブックをそのままthe HIATUSに適用しようと思ったら、ことごとく何も上手くいかなかったですね(笑)。すごくいろんなことを教えてもらいました、the HIATUSのメンバーに。

――この15年で得たものは、本当に数え切れないというか。

細美:そうですね。組んだ頃は5人の中で一番メンタルも弱ってたし、今にも泣き出しそうな顔をしていたんじゃないですかね。それがthe HIATUSの活動を通して、ぶつかり合って、みんなにいろんなことを教えてもらいながら前に進んでいく中で東日本大震災が起きて、そこでTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU/the LOW-ATUS)と出会ってイチから鍛え直されて、フィジカル強くなって。the HIATUSのメンバーともやり合っていくうちにメンタルも鍛えられ、今では一番強いんじゃないかと思ってます。周りから「そんなことない」って言われるかもしれないけどね(笑)。全然負けてないはず。

――いい時期を迎えましたね。

細美:ようやくthe HIATUSとしては横並びで対等にものが言い合えるようになったし、みんな「レコーディングやろうよ」「ツアーやろうよ」ってやんや言うんですけど、俺は長くやっていくバンドだと思っていて。今はどっちかというと、ポップパンクをやってる自分の旬みたいなものが、あと5年ぐらいで終わると思っているんですよね。そこに精力を注ぎ込みたいので、the HIATUSは焦って動かす必要はないんです。ただ、ウエノさんは60歳になっちゃうから「早くツアー組め」と言っています(笑)。

――ELLEGARDENもMONOEYESも楽しみですけど、the HIATUSは人生がより色濃く反映されるバンドだから、今の細美さんの歌とメンタルで作られた新曲を聴きたいですけどね。

細美:すみません。でも、そんなの美穂ちゃんに言われなくてもわかってるよ!

――ですよね(笑)。

細美:冗談だよ(笑)。でも、今みたいに表現力が上がってる状態がずっと続くとは思っていなくて。ボーカルは肉体が楽器なので、今がピークなだけで、経験値をどれだけ重ねても、今の歌が歌えなくなる日はそう遠くない未来にやってくる気がしています。そこまでの間だけですね。そこから先は失った何かで表現していく――今とは違う、「タイトル戦はやらないけどエキシビジョンマッチはやります」みたいなミュージシャンに変身すると思うんだけど、そのときになったら、今の52歳の俺を振り返って「あのときは何もわかってないクソガキだったなあ」って言うかもしれない(笑)。でも今の俺は、自分自身を長く燃えてきたロウソクが消える直前にものすごく輝いている瞬間だと思っているので。その瞬間を逃したくないし、ベストなものを残したくて、それに必死に向き合っているところ。その輝いている最後の瞬間に残すのは、やっぱりELLEGARDENのアルバムだと思っているので、それを向こう何年かで仕上げようと思っています。いずれそこに本気で突っ込んでいくためにも、まず今年の下半期はMONOEYESの10周年に全力で取り組みます。そして、自分のピークの一番の終焉のところに、次のエルレのアルバムを配置できるような運命になっているといいなって思いますね。

――赤裸々に話していただいて、すごく納得しました。ここまで現状を話してくれるミュージシャンはなかなかいないですよね。

細美:一生変わらずミュージシャンを続けていたいっていう人もたくさんいますからね。俺がそうじゃないってだけで。

――the HIATUS、ELLEGARDEN、MONOEYESなど、これからの細美さんの、一つひとつの音楽を楽しみにしています。

細美:はい。おじいちゃんになったthe HIATUSが僕は楽しみです。

※ライブ写真は、the HIATUS『Sunset on the Rails 2024.08.18』より。

『Sunset on the Rails 2024.08.18』

◾️リリース情報
the HIATUS
Live Album『Sunset on the Rails 2024.08.18』
配信:https://lnk.to/SotR240818

受注生産限定盤【CD+Photo Book】
品番:PDCN-1944
価格:4,400円(税込4,840円)
CD:全13曲収録
購入(UNIVERSAL MUSIC STORE):https://store.universal-music.co.jp/product/pdcn1944/
※販売は終了いたしました

<収録曲>
1. Lone Train Running
2. Horse Riding
3. Firefly / Life in Technicolor
4. Sunset Off The Coastline
5. Radio
6. Silver Birch
7. The Flare
8. Unhurt
9. 西門の昧爽
10. Insomnia
11. 紺碧の夜に
12. Tales Of Sorrow Street
13. Ghost In The Rain
<Photo Book>
同公演のドキュメンタリーフォトブック(撮影:三吉ツカサ/Showcase)

the HIATUS オフィシャルHP

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