Teleは“残像の愛し方”を見つけて前へと進む 全身全霊で臨んだ横浜アリーナのステージ

ニューアルバム『「残像の愛し方、或いはそれによって産み落ちた自身の歪さを、受け入れる為に僕たちが過ごす寄る辺の無い幾つかの日々について。」』がリリースされる3日前、Teleは横浜アリーナのステージに立った。全国ツアー『Tele Tour 2025「残像の愛し方」』最終公演。この日のライブで彼は、自らの音楽性、芸術性、そして、自身の表現の源やこの先のビジョンに至るまで、そのすべてを全身全霊で叩きつけ、アーティストとしての存在意義を明確に示してみせた。
会場に入ると、アリーナのど真ん中に設定されたステージが目に飛び込んできた。50mはありそうな横長のセンターステージの上には、四方を布で覆ったセットが組まれている。そこに映されていたのは、「残像 ざん-ぞう[-ザウ]【残像】 刺激がなくなった後になお残る、または再生する感覚。」。“残像”の定義を観客に示したうえで、予定開演時間から30分遅れでライブはスタートした。

まずはTeleが部屋のなかでシャワーを浴びている映像が映し出される。〈シャワーを浴びる。言わなければよかった言葉を2つ3つ思い出す〉からはじまる詩が朗読され、映像も動き始める。〈残像は繰り返す、残像は繰り返す〉という言葉からビートが重なり、「待たせたね、横浜アリーナ!」というシャウトから1曲目の「残像の愛し方」へ。幕にリリックが映され、観客は手拍子で演奏に参加する。楽曲の途中でTeleが姿を見せ、会場全体が大きな歓声で包まれる。そのままパフォーマンスするのかと思いきや、すぐに布のなかに戻り、その後も“幕に映された映像+演奏”というスタイルでライブは続く。

セットリストの中心はニューアルバムの楽曲。新曲「シャドウワークス」では影絵のようなアニメーションーー電車の中、仕事場、巨人に破壊される都会ーーを投影。さらに「僕は今から歌を歌う。君の残像になる瞬間!」という声に導かれた「包帯」、「僕らは愛のための愛を歌い交わし」(Tele)「オーライ!」(観客)の呼応が生まれた「初恋」。「少しだけ小さい歌を、アルバムのなかでも小さい歌をやります」と紹介された新曲「あくび」——静謐なバラードナンバーはピアノと歌の編成で届けられ、都会の夜景の映像とともに披露された。「鯨の子」ではハンドクラップと〈灰になってゆこう。〉のシンガロングが鳴り響き、ナチュラルな一体感が生まれた。強靭なベースライン、厚みのあるドラム、鋭利なギターが共鳴する新曲「砂漠の舟」では、Teleとバンドメンバーの演奏シーンがリアルタイムで映し出される。さらに楽曲の後半では黒づくめの男たちにTeleが襲われるシーンも。そして、素朴で神聖なメロディ、〈あなたの下へ僕が花を咲かそう。〉というフレーズが溶け合う「ghost」(アルバム『NEW BORN GHOST』)ではステージセットの幕が風で揺れはじめる。言葉、メロディ、アンサンブル、映像、演出が有機的に絡み合い、すべての楽曲が強く心に刻まれていく。



Teleが「ダ! ダダ゙! ダガダガ! ダガダガダダダダガダガ!」と叫び、それに合わせてドラムが鳴らされるという斬新なセッションから始まった新曲「DNA」からライブの雰囲気は一変。「はじめようぜ、横浜アリーナ! 会いたかったよ!」という言葉とともに幕が1枚だけ開き、薄い幕の向こうにTele、バンドメンバー(奥野大樹/Key、庫太郎/Gt(NENGU)、森夏彦/Ba(Shiggy Jr.)、森瑞希/Dr)の姿が目視できる状態に。「かかってこいよ、横浜!」と煽り、〈僕が僕を信じちゃったんだ。/カルトなんだよ!〉というフレーズを突き刺した「カルト」、ハンドマイクを握ったTeleがステージを端から端まで移動しながら歌った「ロックスター」を重ね、徐々に高揚感を高めていく。

「ここで“まだ踊り足りない?”って次の曲に行こうと思ったんだけどさ。そりゃ足りねえか。何も足りねえか!」と叫び、獰猛なダンスチューン「ブルーシフト」へ。観客の照れや躊躇を一瞬で吹っ切らせてしまうTeleの声は、ライブが進むにつれて熱気を高め、エナジーを滾らせる。さらに「恥ずかしい春を迎えていますか、みなさん!」という最高のMCとともに「金星」を放ち、〈金星、僕だけに抱きしめていさせてお願い。〉というエモすぎるフレーズを観客一人ひとりの胸に届けたTele。ライブアンセムの一つである「バースデイ」(アルバム 『NEW BORN GHOST』)ではメンバー全員のソロ演奏によって(ここでもTeleはメンバーを煽りまくってました)、アリーナ全体のテンションは最高潮へと達した。
「俺ってよく、自由に踊ろうぜ、楽しみ方は自由だって言うんだけど、ちょっと矛盾したことをお願いしていいですか。僕はミュージシャンなので、ありとあらゆる矛盾を抱えてやります」と宣言したTeleは大らかなメロディを口ずさみ、観客の大合唱を引き出す。音楽だけが持ち得る刹那的なつながりのなかで披露されたのは、「花瓶」。ステージの幕がすべて開き、会場全体が一つになった状態で〈全部いやんなった?/忘れようとしたけれどもうダメだよ。〉というフレーズを響かせたシーンは、この日のライブの大きなハイライトだった。



「布の安全確認にすごく時間がかかっちゃって。まずは本当にすみませんでした」というお詫びから始まったMCでTeleは、このライブに至るまでの経緯を語った。去年の武道館公演(『箱庭の灯』)で自分をどう受け入れるか? を考え、現時点を肯定できたと思ったこと。そこからさらに大きい場所に向かおうとしたとき、過去が自分の前に立ちはだかることが増え、そのなかには後悔やトラウマなども含まれていたこと。前回のツアーあたりから狭くて暗いところがダメになり、過呼吸、パニック、手足のしびれを感じるようになってしまったこと。それはおそらく、子どものとき親に叱られるのが怖くてクローゼットに逃げたときの経験から始まっていたこと。今回の横アリでは、過去を受け入れよう、過去を愛そうと思い、“残像の愛し方”というタイトルを付けたことーー。
「過去から逃げるのではなくて、首根っこをつかまえて“ここにあるぞ”と対峙しようと思って。僕は“残像”を、トムとジェリーみたいに、ずっと愛して、ずっと憎んでいこうと思ったんです。そしたら曲ができて、アルバムもできて。ミュージシャンには何かを変える力はないけど、音楽には何かを変える力がある。僕の音楽が、今日という日が、みなさんの残像の愛し方を決める一助になればなと。今日はありがとうございました」
あまりにも誠実な言葉の後に届けられたのは新曲「ひび」。穏やかで朗らかなメロディ、自分自身の“ひび”をモチーフにした歌詞が共鳴し、ライブはクライマックスへとたどり着いた。





















