月が綺麗じゃなくたって。の現在地 40mPらメンバーが語る新作の制作背景、ボカロP×歌い手ユニットの魅力

月が綺麗じゃなくたって。新作の制作背景

「Melon Soda」は結果として「ローダンセ」との差別化を図る1曲に(雪乃イト)

──ここからは楽曲制作についても伺えたらと思います。ツキレイでは、普段ボカロPのお三方はどのように曲作りを行っているんですか?

40mP:ボカロP制作陣3人のLINEグループがあるので、制作はそこへまずメロディのアイデアを持ち寄るところから始まりますね。その中からじゃあこれを作ろうか、という話になった後、作詞は誰が担当で、作曲は誰が担当で、というのを曲ごとに相談して決めています。基本的には、各自が思いついた時に言いたいことを言う感じですね。

──確かに今回の「Melon Soda」と前作「ローダンセ」を比べると、お三方の作詞作曲の役割分担がまったく違うな、と思いまして。その点からもかなりフレキシブルな制作をされているのかな、と推測していました。そうなると、制作はやはり原則メロディ先行で行われる形ですよね?

40mP:そうですね。メロディがあって、歌詞、編曲、みたいな感じになります。

雪乃:さらに正確に言えば、メロデモを持ち寄るって感じでしょうか。人にもよりますけど、メロディとコード進行は最低限あって、場合によってはデモの段階でかなりオケも作り込んでたり、最低限リズムのわかるものだけ用意したり、みたいな。

40mP:「ローダンセ」の時に自分が作ったのはコードとリズムパターンだけで、あとは雪乃さんにお任せしてましたね。「Melon Soda」に関してはデモの段階からネギさんがガッツリ作り込んでくださったので、じゃあそのまま編曲までいきましょう、って。

月が綺麗じゃなくたって。「ローダンセ」

──ネギシャワーさんはデモ制作の際、曲の着想元やきっかけになるようなものはあったんですか?

加賀(ネギシャワーP):明確なものはあまりないんですけど、自分が元々エレクトロ系のポップスを作るのが得意なので、ダンサブルな乗りやすい曲をこのユニットで一度作ってみようかな、という感じで。

──サウンド面は前作からかなり大きな変化がありますよね。いわばユニットの振り幅というか、作風の多彩さをある種アピールする形になったというか。

雪乃:意図的にそうなったわけではなく、偶然というか、結果的にそうなった感じですけどね。ネギさんが出してくださった案がデモ段階ですでにかなりよかったので、次の曲はこれで、アレンジもほぼこのままいきましょう、みたいな。

40mP:これで雪乃さんが全部作詞したら僕やることないしな(笑)、となったので、じゃあ作詞は2人でやろうか、と。そういう形の役割分担でしたね、今回は。

──そんなサウンドの変化感に比べ、歌詞に関してはやや前作とも共通のムードがあるような気がしています。ポップな曲調に反してどちらも底抜けに明るい歌詞ではない、単に幸せな男女の恋物語ではない、と言いますか。

40mP:確かにその方向へ舵を切っている部分はあります。曲調自体は少し可愛らしい雰囲気もあるんですけど、同時にツキレイの方向性としては幼すぎないイメージもあって。“好き”の感情を“好き”ってそのまま伝えるんじゃなく、少し違う角度から伝えるアプローチをするようなイメージにしたかったんです。最終的に“メロンソーダ”というキャッチーなテーマにはなりましたが、好きなんだけどその気持ちに素直になれない、みたいなニュアンスにしていきましたね。

月が綺麗じゃなくたって。「Melon Soda」

──今回の歌詞は40mPさんと雪乃さんの共作ですが、“作詞の共作”はボカロPとしての制作でもかなりレアケースな印象です。

40mP:そうですね。自分は直近でsasakure.UKさんと『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』のオープニング曲を共作しましたけど、多分それがこれまでの中でも初めてだと思います。

雪乃:自分も共作詞は初めてですね。共同での編曲ならよくありますけど。

──慣れない作業で、苦労した部分もあったのではないでしょうか?

40mP:いや、結構すんなりだったよね。

雪乃:一度最初に2人で電話して、そこでイメージをある程度擦り合わせたんです。自分の場合は最初に擦り合わせた内容との整合性、みたいな部分にはかなり気を遣いました。

40mP:一番最初にAメロ、Bメロの歌詞案を雪乃さんに出してもらったんですよ。その内容や曲の印象から炭酸、ジュース、みたいなイメージを連想して。そこからお酒か甘い系のジュースをモチーフにしようとなって、最終的にメロンソーダにいきついた形です。

──そのように歌詞の方向性が固まったことを受けて、ネギシャワーさんは編曲面で何かアレンジを加えたりもしたんでしょうか。

加賀(ネギシャワーP):メロンソーダという仮題をいただいた時点で炭酸っぽい効果音を多少足したりとか、その程度ですね。大幅な変更はほとんど加えてないです。でも実はこの曲、最初のデモ段階ではメロディとコードがぶつかりまくった状態だったんですよ。個人的には後で直せばいいかな、と思ってたんですが、雪乃さんに「デモの段階でもちゃんとぶつかってない状態のものを出したほうがいい」とご指摘いただいて。あの時は確か、雪乃さんに全部直してもらったんです。そういった面でも、今回かなり学びのある制作にはなりましたね。コードの作り方やサウンド面も参考にさせてもらったり。LINEグループでお二人の歌詞を作る過程も、なるほど、すごいなって思いながら途中の作業を見させてもらっていました。

──そういった点も、複数人で制作するユニットの醍醐味のひとつですね。続いて、歌い手のお二人にも制作やレコーディング時のことなど伺えたらと思います。

あられ:今回の曲って、前作と曲調や歌詞の雰囲気もまったく違うじゃないですか。私自身まだまだ本格的な収録経験が浅いこともあって、どういう声質で歌えばいいか全然わからず、最初はすごく不安な状態で録音に挑んだんですよ。「ローダンセ」とは違って、今回はぽわとは別日の録音で。私の方が早い収録だったので、ボーカルの指標にできるものもないし、その場で2人での意思疎通もできなかったのですごく心細かったです。ただ、その中でイトさんはじめ、皆さんのディレクションにめちゃくちゃ助けられて。自分1人ではできなかったな、と思いながら、なんとか録音を終えた感じでした。

──ディレクションの面ではどういった内容の指示があったんですか?

あられ:当初、私自身は「ローダンセ」と違って曲の印象を“可愛らしいもの”として受け取っていたんです。なので歌唱も大人の女性というより若めの女の子の雰囲気の方がいいかな、と思ってたんですが、イトさんから「いつも通りでいいよ」って言われて。そういった、歌の解釈面での軌道修正を行いましたね。

吉沢:なので、後追いで収録した僕はあられとの歌のテンション感を合わせる点に注力しました。先にあられが骨組みを作ってくれているぶん、前回と比べての楽さは正直少しあって(笑)。ただ、テンションを合わせること以上に、彼女のちょっとした歌い回しやしゃくり方、歌の取り方なんかをキッチリ合わせることの方が苦労しましたね。今回、曲自体にも全体的にハモリパートがすごく多くて。その点でも、今までで一番あられの歌をじっくり聴いた収録だったかもしれないです。

あられ:私の段階では完成系がまったく見えてないので、超不安でしたよ(笑)。ボカロPの皆さんが「大丈夫だよ!」「いい感じだよ!」って声を掛けてくださったことで、「ああ、ええ感じなんや」って自分に言い聞かせながらの録音でした。

吉沢:あと、僕も皆さんのディレクションにすごく助けられましたね。歌詞を一音一音発する時に、口の使い方というか、わずかな口の開け方の違いなんかで発音の明瞭さが全然変わるんですけど、そういった部分をかなり綿密かつ具体的にアドバイスをいただけて。気持ちの部分以上に技術的な改善を的確に指示をもらえたので、それがものすごくありがたかったです。今までの自分の引き出しにはなかった身体の使い方や歌い方のアドバイスを、第三者の目線からいただけたのはすごく貴重な機会だったな、と思います。

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