アニソン20年の軌跡:シーンの変遷を辿る(4)TVアニメ/劇場版『AIR』“国歌”「鳥の詩」、今なお響き続ける普遍の名曲

『AIR』によって運命が変わったと言える“3人の人物”

 まずは『AIR』によって運命が変わったとも言える、3人の人物について言及したい。

 2000年前後は美少女ゲームにボーカル付きの主題歌が収録されるということがやっと一般化しつつある時代でもあった。Keyにおける前作『Kanon』はストーリーだけでなく音楽でも高く評価された作品だったが、Key所属の作曲家である折戸伸治にとってはこの作品のEDテーマ「風の辿り着く場所」(2006年)が“人生初となる歌曲”だったという(※1)。つまり、当時はまだ“美少女ゲームの主題歌”という分野が確立されておらず、ゲームミュージックの作曲家としてはすでに定評があった折戸でさえも手探りで作っていたことになる。

 「鳥の詩」においても、曲作りの段階でストーリーの全体像を把握していたわけではなかったという。だが、「鳥の詩」はピアノのイントロから始まる抒情性、印象的なサビなどでファンの心を掴む楽曲となった。これが『AIR』という作品に完璧にハマり、ここから折戸はTVアニメ『おねがい☆ティーチャー』オープニングテーマ「Shooting Star」などアニソンも手掛ける人気作曲家になっていく。

 また、Liaが「鳥の詩」を歌うことになった経緯もこの曲の神話性を高めている。『AIR』の主題歌をアメリカ・ロサンゼルスのスタジオで収録することになったのだが、スタジオには日本語ができるスタッフがいなかったため、たまたまそこでレコーディングをしていたLiaがビジュアルアーツとのやり取りをしていた。そして、収録当日に予定していたアーティストが来れなくなるというアクシデントがあり、Liaが代打で歌うことになったというのだ(※2)。

 この曲によってLiaは“クリスタルヴォイスの歌姫”として広く知られるようになる。「時を刻む唄」(TVアニメ『CLANNAD ~AFTER STORY~』オープニングテーマ)、「My Soul,Your Beats!」(TVアニメ『Angel Beats!』オープニングテーマ)などKey関連作品の名曲を数多く歌い、広く知られるアニソンアーティストとなるのはご存知の通り。それも、すべてはLiaと「鳥の詩」の運命的な出会いから始まったのだ。

 そして「鳥の詩」の作詞者であり、『AIR』を企画したシナリオライターの麻枝准。『Kanon』でもシナリオや音楽を担当していたものの、企画/メインシナリオは別の人物(久弥直樹)であった。その才能が広く一般のゲームファンにまで知られたのが、この作品と言えるだろう。

 麻枝の最大の強みは、シナリオライターとして感動的なストーリーを生み出し、かつ作曲家/作詞家としてシーンに完全に合致した音楽を作ることができるという二刀流である点だと言える。シナリオと音楽の相乗効果はもちろん『Kanon』でも見られたが、麻枝による“シナリオ×音楽”という方程式は『AIR』で完全に確立された。そして、TVアニメ『Angel Beats!』やゲーム『ヘブンバーンズレッド』などの後の麻枝作品へと繋がっていくのである。

 『AIR』がここまで愛される作品になったもう1つの要因が、メディアミックス展開である。ゲームとしては大きなヒットを記録した『AIR』だが、アニメ化までは5年もかかっている。メディアミックスには慎重な判断だったとさえ言えるだろう。

 そこで満を持して登場したのが先述のTVアニメと劇場版である。中でも『AIR』と「鳥の詩」の知名度アップに大きく貢献したのが、原作の世界観を高いレベルでアニメーション化した“京アニ版”と呼ばれるTVアニメだ。この作品のヒットによって京アニの評価は高まり、『Kanon』第2作(第1作は2002年に東映アニメーションが制作)、『CLANNAD』とKey作品を次々とTVアニメ化。そして『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』でもブレイクした京アニは不動の地位を築いた。

 『AIR』を語る上で欠かすことができないのがI'veの存在である。「鳥の詩」は『Kanon』の「風の辿り着く場所」と同じく編曲にI'veの高瀬一矢を起用。こうして“謎の音楽集団”と呼ばれていたI'veは名声を上げて、ついには日本武道館公演まで辿り着き、ムーブメントは1つの頂点に達した。Liaも「鳥の詩」を歌唱し、折戸がキーボードを演奏した伝説のライブが行われたのが、奇しくも“2005年”であった。そしてI'veはKOTOKOや川田まみら多くの“歌姫”を輩出し、美少女ゲーム界のみならずアニソンシーンを席巻していくことになる。

 さらに、“この時代ならでは”と言える要素もあった。YouTube(2005年)やニコニコ動画(2006年)のサービス開始である。ネットでは“国歌”と言われる「鳥の詩」だが、その発祥や由来ははっきりしていない。だが、ニコニコ動画で“国歌”というコメントがつくようになり、NHK-FMの『今日は一日“アニソン”三昧』で放送されたこともきっかけとなり、“国歌”という愛称が定着していく。こうしてネットの動画を通してファンが共感するという従来にはないアニソンの楽しみ方が生まれていった。“国歌”「鳥の詩」は、そんな今では当たり前となった光景が誕生したきっかけの1つだったのである。

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