バンドマン実業家が渋谷のど真ん中に“やりすぎ”なライブハウスを作った理由「大事なのはお金の“稼ぎ方”ではなく“使い方”」

湯浅晃平、新規ライブハウス経営を始めた理由

大型LEDビジョンに最新鋭の音響設備、さらに“やりすぎ”なのは?

――そんなSHIBUYA FOWSといえば、そのコンセプトを代表するキーワードに「“やりすぎ”なライブハウス」というのがあります。ステージに大型LEDビジョンを配備し、同規模キャパシティの会場としては異例の音響設備の導入など、“やりすぎ”なこだわりが詰め込まれていることが話題になっています。なぜそこまでこだわりを持っているのか? という部分が気になります。

湯浅:まずLEDビジョンや音響設備に関しては、答えはシンプルです。近年は、音楽と映像を組み合わせた表現にこだわるアーティストも増え、映像演出も兼ねたステージも増えています。またVTuberさんようにバーチャルな方々の活動の場にもしてほしい。純粋なライブだけでなくイベント会場としても活用できるようにという意図ももちろんあります。いろいろな選択肢を用意したくて、LEDビジョンはつけたかったんです。

SHIBUYA FOWS

――音響設備ついても?

湯浅:それも多様な選択肢に対応できるように、と考えました。SHIBUYA FOWSのPAの総合責任者として石川嘉久さんという方がジョインしてくださっているんですが、その方はマキシマム ザ ホルモンのPAを担当されていて、機材選定から本格的にやってくださっています。その結果、最新鋭の設備を揃えると……アンプ、スピーカーからコンソールまで、普通に考えると“やりすぎ”じゃないか? と思えるものになったという。もちろんあまりにもオーバースペックすぎても意味はないのですが、現在のキャパの中で、これだけあればもうすべての音楽が賄えるだろうというラインにはしました。ただ、僕の中で一番の“やりすぎ”こだわりポイントは、実は1階のほうかもしれないです。

――ガラス張りになっている路面店、カフェ兼イベントスペースのSHIBUYA XXI(エックスエックスアイ)ですね。店頭にはデジタルサイネージビジョンを置き、店内にもLEDビジョンが配置されています。

湯浅:はい。このカフェスペースは、地下のライブハウスへの導線として考えました。こちらのビジョンに地下でやっているライブ映像や、出演アーティストの映像を流すことで、ファンの方以外の街を歩いている人が、「ちょっと面白そうだからライブも観てみようかな?」と思えるスペースができるんじゃないかと。

SHIBUYA FOWS

――確かにこれまでのライブハウスは、ライブがあることを知っている人が集まる場所。表に出演アーティストの告知は出ていても、どんな音楽をやっているかが分からないと、フラッと足を踏み入れる気にはなりにくいですよね。

湯浅:そうだと思います。そもそもSHIBUYA FOWSの出発点が、アーティストが自分たちだけではリーチできない層にアピールできるサポートをしたいということから始まっているので、SHIBUYA XXIはその導線を作る場にしたいんですね。ただ、「じゃあ地下のライブに行ってみよう」という時に、入場のアクセスの手軽さが今のライブハウスには欠けているとも思っていまして。一般のお客さんはもちろん、インバウンドの観光客にも入りやすくしたかったので、たとえばSHIBUYA XXIにQRコードを設置して、それを読み込めばその場でチケットが買えて、すぐに入場できるというような非言語型システムも導入しています。

――気になったら、すぐにSHIBUYA FOWSでライブが観られるのはいいですね。

湯浅:ライブハウスに付きもののドリンクチケットもQR決済ができるシステムも用意しています。ただ、全てをデジタルにしてしまうと対応が難しい方ももちろんいらっしゃると思うので、そこは両立させながら今のところはやっていきたいです。

SHIBUYA FOWS

音楽と真摯に向き合い、成長したいアーティストに出演してもらいたい

――現在は2月1日の正式オープンに向けてのプレオープン期間ですが、続々とライブ企画が発表されています。ライブハウスごとに出演アーティストのジャンルのカラーが色濃いところも多いですが、SHIBUYA FOWSはどうなりますか?

湯浅:結論からいうと、オールジャンルですね。ですが、じゃあ誰でもいいのか? というと、そうではなく。まずは音楽と真摯に向き合っているアーティスト、そしてここから先を目指しているアーティストのファーストステップとして使っていただきたい。中堅以上のアーティストでも、新しいファンの獲得の場にしていただけたら嬉しいですし、「音楽で自分自身の本当に表現したいものを表現していくんだ!」というコアな想いを抱く方、僕が思うアーティストとしてのあり方に共感してくださる方なら、ジャンルは問わないです。

――ジャンルではなく、音楽との向き合い方を大切にしたいと。

湯浅:僕もいろいろなジャンルのアーティストを拝見していますし、その中にはアイドルもいますが、ジャンルに関係なく、やりたい表現に芯のある人はカッコいいんですよね。MC一つにも言葉に重みがあって薄っぺらくない。そういう芯のあるカッコよさを持っているアーティストは、いつでもウエルカムです。SHIBUYA FOWSのキャパシティ的には、いわゆるインディーズが主流になると思いますが、最新鋭のLEDビジョンや音響での新しい表現にトライしたいメジャーアーティストからの問い合わせもたくさんいただいているので、今後のラインナップも楽しみにしていただきたいですね。

湯浅晃平(撮影=林将平)

――年明け早々には、SHIBUYA FOWSの新たなマネジメントチーム・YOZIGENの発足と東京出身のロックバンド・Organic Callの所属が発表され、湯浅さんが考えるライブハウスから始まるアーティストサポートの展望もより明確に示されつつあると感じます。先ほども、これからはより大きな規模のライブハウス事業もやっていきたいと話されていましたが、他に今後のビジョンとして挙げられるものはありますか?

湯浅:アーティスト自身が賄えない部分をサポートしていくという意味で、情報発信の場は積極的に設けていこうと考えてます。いわゆるオウンドメディアですね。既存のメディア……特にテレビなどの大きなメディアに出たくても、大人の事情だったり、今の人気のあるなしに左右されてしまいます。それはもう致し方ないと思う反面、僕らとしては本当にいいものを世に発信していきたいですから、そのためにはやはり自分たちでメディアを持つしかないなと。まずはYouTubeやTikTokのコンテンツやウェブサイトの運営などネットメディアから始めて、将来的にはフリーペーパーなどにも広げていければと考えているんです。

――そこも“やりすぎ”かもしれないですね(笑)。

湯浅:はい、シンプルに“やりすぎ”たいですね(笑)。僕がそもそもビジネスで大事に思っているのは、お金の“稼ぎ方”ではなく“使い方”です。いかに社会に対し、そして僕らの事業に関わってくれている人に対して、価値あるもの、価値ある仕組みやプロジェクトが用意できるだろうか? なんですよ。よりお金を稼いで新しいことにお金を投資することも大事ですが、作り上げた場所を使って従業員も含めた多くの人が、自分のやりたいことが見つけられるかが、僕の中では重要です。それにチャレンジできる環境の1つがSHIBUYA FOWSでありたいですし、そこで成長するアーティストに次の目標を提示できるプロジェクトや事業を、今後も用意していきたいです。新たな構想をこれからも発表していくことになると思うので、期待していただければと思います。

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