日比谷野音、100年の歴史の中で刻まれてきた伝説 特別な会場として定着した背景

 2023年、開設から100周年を迎える日比谷公園大音楽堂(以下、野音)。東京駅と皇居、国会議事堂にも程近い都心に位置し、周囲を高層ビルが取り囲む日比谷公園にある常設のコンサート会場であり、100年の歴史の中で様々な伝説が刻まれてきた。2024年度以降の改修が決定したことは大きな話題を集めており、この会場が強く愛されてきたことがよく分かる。野音はなぜこのような特別な会場として定着していったのだろうか。

 戦前から演奏会は行われてきたが、野音で初めてPA(音響拡声装置)を使用した本格的なライブは1969年の『10円コンサート』だ(※1)。ギタリストの成毛滋がアメリカの『ウッドストック・フェスティバル』に感化されて開催されたこのイベントはタイトル通り10円という破格の入場料に加え、この時代には珍しい事務所やレコード会社の垣根を越えてアーティストが集うライブとなった。言うなれば野外フェスの先駆けであり、ロックバンドのコンサート会場の場として野音が根付くきっかけになった重要なライブと言えるだろう。

 その後もキャロルの解散ライブ(1975年)や、RCサクセションが恒例として行っていた夏のライブ(1981年~1990年)など、伝説的なアクトが次々に続いた。1983年に大規模な改修がなされ現在の会場が完成してからも尾崎豊(ライブ中にステージから飛び降りて骨折したことで知られる)や、小沢健二にとって最初のソロコンサート(1993年)などアーティストの節目たるライブが多く開催されていく。80年代以降は映像として観ることができるようになったライブも数多く、会場の自由なムードが全国的に知れ渡るようになった(※2)。

 野音の会場キャパは約3000人であり、アリーナやスタジアムと比べれば遥かに小さい。ゆえに若手アーティストが本格的なブレイクを掴むまでの経過の中で印象深いライブを開催しているケースも多い。星野源は「夢の外へ」のリリース直前の2012年5月にライブを行い、2017年にはメジャーデビュー直後のSuchmosが勢いを決定づけていた。2019年にはKing GnuやSaucy Dogがアリーナを埋める前に野音のステージを踏んでいる。

Saucy Dog「コンタクトケース」(LIVE DVD & Blu-ray「YAON de WAOOON」2019.4.30 日比谷野外音楽堂より)

 若手アーティストの登竜門として親しまれる一方、1990年からほぼ絶え間なくライブを行ってきたエレファントカシマシのほか、SHISHAMOやBase Ball Bearなど、一定のキャリアを経てからも野音でのライブをシリーズ化しているバンドもいる。自身の歴史と会場の歴史を重ね合わせ、活動の成熟過程を実感できる場所としての側面もあるのかもしれない。

エレファントカシマシ「日比谷野外大音楽堂2022」ダイジェスト
SHISHAMO NO YAON!!! 2021 EAST ダイジェスト

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる