羊文学「もっと面白いものを作れる予感がする」 アジア&全国ツアーや創作の変化で高まった自由度
“完璧”を目指さなくなった理由
——楽曲としては「tears」(映画『かくしごと』主題歌)、「Burning」(TVアニメ『【推しの子】』第2期エンディング主題歌)がリリースされました。
塩塚:「tears」は去年(2023年)の初めの方に録ったんですよ。
河西:「Burning」は今年の1月くらい?
塩塚:そうだね。去年の12月くらいに原作の漫画を読みながら曲を作っていたので。(タイアップの)お話をいただいてから作る楽曲は、作品と密着していたほうが心に来るものになるかなと思っていて。「Burning」もそういう作り方です。「自分ができるわけない!」というところから始まって、少しずつ「こういうアプローチもあるかも」みたいに考えられるようになって。そういう感じで向き合う時間が多かったですね、今年は。あと、ゆりかちゃんから「こういうイントロをつけたらどうかな」みたいにアイデアが送られてくることもあって。それをハメてみたら面白くなったり、アレンジ面では2人で作る部分が前よりも増えてますね。
河西:いろんなアイデアや選択肢があるほうが可能性が広がるかなと思って、パソコンを買ってちょっとずつやってみようかなと。まだ一歩足を踏み入れただけですけど、アレンジも面白いです。
塩塚:私は結構、歌ベースで考えちゃうんですよ。DTMで作っていても思考が固まりがちだから、「ここに間奏入れたらいいんじゃない?」みたいに言ってもらえると助かるというか。自分が作ったものに対して、客観的な目線が早いタイミングで入るのはすごくいいですね。3人でスタジオに入って作ると、沈黙の1時間みたいな時間があったりするんですよ(笑)。誰もしゃべらなくなって、空気が重くなって。それよりもそれぞれの場所で考えたほうがいいのかも。
河西:そのほうが向いてるかもね。
塩塚:人の意見に対して、自分の中で考える時間も取れるからね。今までは3人で演奏することにこだわって、そこに縛られていた部分もあった気がして。最近は他の楽器を重ねてもいいのかなって思うようになりました。勝手に自由になったというか(笑)、もっと面白いものを作れるような予感がしてます。
——悩みながら試しながら、やっと出口が見えてきたというか。
塩塚:そうかもしれないです。なんていうか、ちょっと適当になれた気がするんですよね。ずっと「失敗しちゃいけない」みたいな感じがあったんです。もちろんミスはあるんだけど、大失敗しないようにすごく気をつけていたし、実際、これまでのミュージシャン人生の中で大きな失敗はしていないと思っているんですよ。曲作りも「1曲1曲、全力でやらなきゃ」という感じだったんですけど、すべてを完璧にやることを目指さなくていいのかなって。
河西:うん。
塩塚:すべて自分の創作だし、“楽曲やステージ=自分”だから、完璧にしたいと思ってたんです、ずっと。でも今は、必ずしもバンドの活動=自分ではなくて、ちょっと距離を置いてみようかなと。もちろん手を抜くわけではなくて、例えばライブでちょっとミスしても、全体としていいものを見せられたらいいと思うようになってきたんです。それでちょっと気持ちもラクになって。
河西:バンドの活動はメンバーだけではなくて、スタッフの方も含めて、みんなでやっているんですよね。自分がやるべきところは納得いくようにやるし、できる限りのことはやりたいけど、完璧を求めるとキツくなるのかなと。人を信頼して、任せるところは任せて、バランスを取りながらやっていきたいなと思ってます。
2024年に刺激を受けたカルチャー
——次のアルバムに向けて制作も始まっているそうですね。
塩塚:「ヤバい!」ってなってます(笑)。普段から作っておくタイプではないし、アルバムとなるとまた別のスイッチが必要なんですよ。今もお話をいただいて作っている曲があるんですけど、それ以外の楽曲はそれこそ自分の創作の部分になるので……まだどうなるかわからないですね(笑)。曲数が11曲くらいのアルバムが好きなんですけど、もうちょっと少なくてもいいのかなとか。それくらいのテンションで少しずつやっていこうと思ってます。
——期待しています。創作にはインプットも大事だと思いますが、今年、印象的だった作品やカルチャーはどんなものですか?
河西:前から好きだったアーティストがいっぱい新譜を出してたんですよ。The Cure(アルバム『Songs of a Lost World』)もそうだし、Pixies(アルバム『The Night The Zombies Came』)とか。The Nationalも12月に新作(『Rome』)が出るし、来年はThe Horrors(アルバム『Night Life』/3月21日リリース)も新しいアルバムが出るんですよ。
塩塚:すごいチェックしてる。
河西:(笑)。好きなバンドの活動が盛んで嬉しいです。
塩塚:私は、やる気が出た作品がいくつかあって。まず、Pavementのドラマーのドキュメンタリー映画(『ラウダー・ザン・ユー・シンク ギャリー・ヤングとペイヴメントの物語』)。人生もかなりめちゃくちゃだし、ドラムは上手いんだけど、キマってるか酔ってるかで叩けないことがあって。ツアーマネージャーの人がリズムキープのためにスネアを叩いてるんですけど、「なんかバンドっていいな」と思いました。
あとは映画『青い春』。映画の中でTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの曲が使われていて、こういうゴリゴリのバンドサウンドってあまり通っていなかったんだけど、いいなって。それから映画『ドゥーム・ジェネレーション』もよかったです。若い主人公たちが強盗して、セックスして、移動して、人を殺して……というのをコミカルに描いてるんですけど、ずっと「人生は虚しい」みたいなことを言ってて。描き方もよかったし、10代の虚しさが30代目前になってより深く理解できた感じがありました。それから本だと、坂口恭平さんの『生きのびるための事務』(坂口恭平 原作・道草晴子 画)もよかったです。
——“いのっちの電話”で知られる坂口恭平さんの新作ですね。何かを成し遂げるためには“事務”の技術を得ることが大事だという。
塩塚:クリエイティブって「なかなかできない」「難しい」という感じがあるけど、作業のように続けることでよくなっていく、みたいなことが書かれていて。そういう考え方はしたことがなかったし、私も挑戦してみようかなと思っています。
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