SUPER BEAVER、Mrs. GREEN APPLE、羊文学、SHE'S……苦悩や葛藤に寄り添う青春/エールソング
今まさに頑張っている人に「頑張れ」と声を掛けること、あるいは何に向けて頑張ればいいのか分からずに悩んでいる人に「夢を見よう」と語りかけることは酷なことであり、不安で、苦しいからこそ、耳を塞ぎたくなる瞬間が誰しもあるだろう。一方で、ここぞという瞬間には誰の助けも借りられず、勝負をかける際の熱量、覚悟は自分自身で生み出すしかないというのも事実。2023年には、悩みもがく人の心に寄り添い、内から勇気づけるような青春ソング/エールソングが様々なバンドから発表された。
SUPER BEAVERが森永製菓「inゼリーエネルギーブドウ糖」のCMソングとして書き下ろした「決心」がその一つだ。〈なあ聴こえているか青春よ/未来とはあなた自身だ/いじけたオトナのうわ言に迷うなよ〉から始まる疾走感溢れるナンバーで、大人から若者へ、バンドから“あなた”へと語りかけるような歌詞は、今の年齢の彼らだからこそ歌えるものだろう。あなたは可能性に満ち溢れているのだと全編通して伝え続ける楽曲になっていて、メッセージを体現するバンドのプレイも力強い。タイトルに掲げた言葉を定義する〈歓ぶための 涙で育つのが 決心〉というフレーズも印象的だ。
BIGMAMAの「17 (until the day I die)」は、青春とエモをテーマに制作したアルバム『Tokyo Emotional Gakuen』の収録曲。バイオリニストのいるロックバンドならではのおいしいところを詰め込んだ壮大な構成のアッパーチューンで、いかようにも変化していけるまっさらな状態に希望を見出しつつ、〈その手綱を他人に預けるな〉と力強く歌っている。ユーモアとともにパンチラインをふんだんに盛り込みながら、“青春”とは何たるかをバシッと定義するソングライティングは作詞・金井政人(Vo/Gt)の真骨頂と言っていいだろう。
羊文学の「永遠のブルー」は、〈昨日見た夢がどうしてもひっかかるな/神様がくれたノートに載ってない未来〉という歌い出しがユニーク。前2曲同様、踏み出した先に待つのは自由だと感じつつ、だけどやっぱり不安なのだと、心の揺れを歌っているのが印象的だ。澄んだ空気の似合う音像や逡巡を思わせるコード進行でも、一歩踏み出そうとしている人の繊細な心情を表現していて、聴く人を励ますというよりも、心にすっと浸透するような温度感。〈強く生きなくちゃ守れないよな/でも陰では泣いてもいいよな〉というフレーズに静かに支えられた人も少なくないだろう。
フジテレビ系バレーボール日本代表応援ソングに抜擢されたMrs. GREEN APPLEの「ANTENNA」は、未知の世界を勇敢に突き進む楽曲だ。そんななか、キーやダイナミクスの操作によって景色の変化を表現しつつ、〈少しずつと変わる/人や季節に疲れてしまうけど/私が私自身を諦めて/痛みに気づけない/未来がただ怖い〉、〈やり直したい過去は無いけど/謝れたら良いな/過ぎ去ったものは戻らないけど/今日を生きる私の銀河〉といった内省を織り交ぜている。滲む憂いを「だからこそ、今を生きる」という宣言の根拠に変えていく論調に、作詞作曲・大森元貴(Vo/Gt)らしさを感じた。
羊飼いの少年が今ある生活を捨て、宝物探しの旅に出る物語を描いた小説『アルケミスト - 夢を旅した少年』から着想を得て、6thアルバム『Shepherd』を制作したSHE'S。同作の序盤に収録されている「Super Bloom」は旅立ちの時を連想させる楽曲。パーティなどで輪に入れず、一人でじっとしている人を指すウォールフラワー(壁の花)というモチーフを用いつつ、〈咲け、花よ 一面に/吸い込んだ雨で美しく〉と高らかに歌うサビに至るまでの展開がドラマティックだ。情景を鮮やかに描くサウンドが、きっとこれまでの苦悩が輝かしい未来へ結びつくはずだと語っている。
一日の終わりに、一人浴槽に浸かりながら考えこみ、沈んでしまう人も少なくないだろう。Omoinotakeの「Ammonite」はそんなシーンから始まる楽曲で、〈仄暗い 湯船に落ちるeye/浮かべない 心は石のよう〉という描写がリアルだ。この曲では、〈僕ら 灰になれば/迷いも 願いも 同じ色/なのに どうして 極彩色の/夢を見る 手を伸ばす 輝きを求める〉と人生の浮力としての“夢”、どうしても夢を見てしまう人間の性について言及している。〈迷い 惑う 螺旋のlife〉とはおそらく人生の表象で、苦悩は尽きないが、それでも少しずつ上昇しているはずだと信じる気持ちは、多くの人の共感を呼ぶものだろう。