Name the Night、記念すべき1stワンマンライブ 温かな愛を捧げた今年最後の満月の夜

Name the Night、1stワンマンライブレポ

 新しい音楽との出会いは日常のふとした瞬間に訪れる。Name the Nightとの邂逅は今年10月。シングル曲「Till Dawn」のリリースを知らせる、当たり障りのないXのポストだった。アーティスト名は寡聞にして知らず。個人名なのかグループ名なのか、音楽性すら見当が付かない。ただ、“夜を名付ける”という、そのアーティスト名が妙に気になり、再生ボタンを押してみた。

 トロピカルハウス的なイントロが次第にボ・ディドリー・ビートのように弾み出し、サビに入るとリズムがブーンバップ風に変化する。間奏にフュージョンみたいなシンセも入ってくるし、2ヴァース目にはラップも飛び出す。興味を引かれ過去曲を聴いてみると、ネオソウル、R&B、ヒップホップ、ジャズ、渋谷系、シティポップ、ニューウェイブ、レゲエなど、年代もジャンルも飛び越えた多様なルーツを音に感じる。基本バンドサウンドだが打ち込みも多用していて、1曲の中に様々なエッセンスが混合。構成は細部まで練られているし編曲も洗練されているが、バンド特有の人懐っこさや粗野な佇まいもある。

 なんだ、この新人!? と思い、プロフィールを探ってみると、精妙な音作りに納得のメンバーだった。ボーカルとギターは「My Sunshine」のヒットを持つROCK’A'TRENCHの山森大輔、キーボードとトロンボーンは同じくROCK’A'TRENCHの畠山拓也、ベースはヒップホップバンドのRhymescientistに在籍していたMIYA、ドラムはASIAN KUNG-FU GENERATIONやPHONO TONESで活動する伊地知潔。全員が20年以上のキャリアを持つ、同世代の妙手たちが集まったアラフォー世代のオールドルーキーだったのだ。

 2023年1月に結成した彼らは、これまでに12曲のシングルをリリース。“すべての夜に名前をつけていく”というコンセプトのもと、満月の夜に楽曲を発表してきた。そんな彼らが1stワンマンライブ『満月の夜、僕らは大きな羊に出会った』を大阪と東京で開催。心斎橋・Music Club JANUSでの公演は11月の満月の日=11月16日だった。今回レポートする東京公演は、今年最後の満月の日となる12月15日にSHIBUYA CLUB QUATTROで行われた。

 夕暮れを思わせるオレンジ色の照明がフロアをほんのり照らす中、開演時刻の18時に流れ出したのは、酔いどれ詩人の異名を持つトム・ウェイツの「Grapefruit Moon」(1973年)。グレープフルーツのようなまんまるのお月様の下で大切な人を追懐する名曲だ。そんな楽曲をBGMにメンバーたちはゆっくり歩いてステージに登場。各々、楽器をチューニングする。その最初の音が鳴り始めた時刻は18時3分。のちに山森がMCで明かしたが、18時3分はこの日の月が最大に丸くなる真の満月タイム。憎いほどロマンティックな凝りようだ。

Name the Night(撮影=山川哲矢)

 1曲目は、夜をテーマにするというバンドのコンセプトが決まってから最初に書いたという「Marginal」。ネオソウルとルーツレゲエを合体させたメロウなグルーヴで観客をName the Nightカラーの夜に溶け込ませていく。続く「Mid Day Moon」の跳ねたビートで会場のテンションを持ち上げたあとは、山森が「楽しむ準備はできてるかい?」と呼びかけ、「Everybody Say Ho~」のコール&レスポンスから「No Stress」に突入。ギターを置いてハンドマイクに持ち替えた山森が陽気なラップ調のメロディで観客の歌声を誘い出し、フロアがハッピーなムードに包まれていく。

山森大輔(Vo&Gt)
山森大輔(Vo&Gt)

 再びギターを背負った山森が、「この日のライブに向けて1年前から準備してきた。ワンマンに相応しい楽曲をビシッと取り揃えてきた」と意気込みを語ったあとは、疾走感のある未発表曲「ECHO」を披露。スペーシーなシンセサウンドとノイジーなギターがトリップ感を高めていく。続いては畠山によるトロンボーンのファンキーなブロウを号砲代わりにメンバー紹介へ。4人はハンドクラップを煽り、四つ打ちのリズムに合わせて1人ずつソロ演奏を繰り出していく。場が温まったところで間髪入れず、前述の「Till Dawn」へなだれ込むと熱気はますます上昇。感情の高揚曲線も右肩上がりのカーブを描く。

畠山拓也(Tb&Sampler)
畠山拓也(Tb&Sampler)

 このセクションが“ブライトサイド”ならば、続く中盤は“ダークサイド”。夜露に濡れそぼる感じというか、Name the Nightの湿り気を帯びた雰囲気やメランコリックな部分、翳りを含んだ情感が展開されていく。カントリー調の「Infantry」はノスタルジーをくすぐる楽曲。「革命のように熱くて、破滅的な恋の物語」(山森)という曲紹介から披露された「ボナパルト」は、熱にうなされたような浮遊感と寂しさに悶え苦しむような激しさが交錯するナンバーだ。続く「Silhouette」はダブの要素を採り入れたサウンドが陽炎のように幻想的。90年代UKのマッドチェスタームーブメントを想起させる「PARADE」は没入感のあるサイケ&アシッドな音で観客をステージに引きつけていった。

伊地知潔(Dr)
伊地知潔(Dr)
MIYA(Ba)
MIYA(Ba)

 その後のMCでは山森がバンド名の由来を説明しながら「僕らの音楽でみんなのいろんな夜を彩りたい。仲間と集まって楽しい夜もあるだろうし、孤独に浸る夜もあると思います」とメッセージ。「夏が終われば秋がくる。秋が過ぎれば春がくる。仕事とか学校とか嫌なことはたくさんあると思うけど、スマホには大好きな曲のプレイリストがあったり、月に一度は必ず満月が空に浮かぶ。一番感じてほしいのはみんなの胸に必ずあって、温かくしてくれて、時には誰かと共鳴しあう……」と話したところで、ギターをつま弾きながら“愛を感じて~、愛を忘れないで~、ラララ、Love”と歌唱。「愛の歌を捧げます」というひと言からピースフルな次曲「Radio La La La」へと繋いだ。

畠山拓也(Tb&Sampler)

 ここからライブは終盤戦。続くアップテンポの「COASTLINE」では畠山が鍵盤を弾きながらジャンプを繰り返し、観客は頭上に手を掲げて大きなハンドクラップで呼応。解放感あふれる「Strange World」では伊地知以外のメンバーがステージ前方に出てきたり、サビの〈Oh, Oh〉を大合唱してボルテージが最高潮に達し、会場がひとつになった。

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