Mrs. GREEN APPLE、人生の苦悩を見つめて“愛”を歌う 研ぎ澄まされたメッセージが大躍進の鍵に

 各種チャートやカラオケランキングを席巻し、2024年に「最も聴かれ、最も歌われたアーティスト」として堂々の存在感を発揮したMrs. GREEN APPLE。DAM、JOYSOUND発表の2024年年間カラオケランキングではともにアーティスト別で首位を獲得し、Spotifyが発表した「国内で最も聴かれたアーティスト」では2年連続で1位を獲得、「国内で最も再生されたアルバム」では『ANTENNA』『Attitude』がトップ2を独占した。バンド結成10周年イヤーとなった2023年の大躍進もまだ記憶に新しいところだが、この2024年も「ミセスの年」と呼ぶにふさわしい活躍ぶりだった。

 『第74回NHK紅白歌合戦』への初出場で2023年を締め括った彼らは、年明け1月から早くもフルスロットルで次なるアクションを開始。1月17日に「ナハトムジーク」をリリースすると、4月の「ライラック」から、「Dear」、「コロンブス」、「アポロドロス」、そして8月リリースの「familie」まで、5カ月連続で配信シングルをリリース。しかもその多くが映画やアニメをはじめ大型タイアップ曲であり、ライブでも早くも代表曲といえるポジションを確立している。

Mrs. GREEN APPLE「ライラック」Official Music Video

 一方、ライブにおいてもトピックがてんこ盛りだった。7月にはノエビアスタジアム神戸と横浜スタジアムで“日本のバンド史上最年少でのスタジアムツアー”となる『ゼンジン未到とヴェルトラウム〜銘銘編〜』が行われた。その前後には、2023年から今年3月にかけてファンクラブ限定ツアー『Mrs. GREEN APPLE 2023-2024 FC TOUR “The White Lounge”』(このツアーはのちに映画化もされた)、10月〜11月にはKアリーナ横浜で10公演に及ぶ定期公演『Mrs. GREEN APPLE on “Harmony”』を開催。いずれも従来のライブとは違うコンセプトを大胆に昇華したエンターテインメントを提示するもので、Mrs. GREEN APPLE、そして大森元貴(Vo/Gt)という人のクリエイティビティが“バンド”や“ライブ”という枠を超えて広がっていることを強く印象づけるものだった。

Mrs. GREEN APPLE – コロンブス【LIVE from ゼンジン未到とヴェルトラウム〜銘銘編〜】
Mrs. GREEN APPLE – ダンスホール from “The White Lounge in CINEMA”

 そんな2024年を締め括るべく、11月29日に最新曲「ビターバカンス」がリリースされた。映画『聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~』(12月20日公開)の主題歌となっているこの曲は、イントロから鳴り響く軽やかなピアノリフとマーチのようなドラムがメロディを前へ前へと押し進める、聴いているだけで心が弾むようなサウンドが印象的なポップチューンだ。フォークロアなフレーズを奏でるギターに、それとユニゾンするように鳴り響くフィドル。いくつもの音色と旋律が織り重なる賑やかなサウンドは、12月に入り急激に寒さを増すこの季節を明るい光で暖めてくれるようだ。『聖☆おにいさん』は下界にバカンスに来たイエスとブッダを主人公に、人間も神も悪魔も巻き込んで展開していく怒涛のコメディだが、そんな映画のムードにも、この曲のカラフルなサウンドデザインはよくマッチしている。

 曲名に使われている“バカンス”という言葉、そして〈休めばいい 休んじゃえばいい〉という最後のフレーズも、もちろん『聖☆おにいさん』のストーリーや設定を踏まえて選ばれたものだろう。だがそこには、じつはとても切実でシリアスな思いが込められているように思う。そしてその切実さやシリアスさは、Mrs. GREEN APPLEというバンドの姿勢や生き様とも密接に結びついているものでもある。「ビターバカンス」は大森が大きく息を吸う音を経て〈息が詰まるような日々が続いたら/休暇を取ればいい〉という歌詞で始まっていく。実際にそう感じている人もたくさんいるだろうが、この〈息が詰まるような日々〉が生きていく上での“前提”となっているところが、ミセスの音楽に我々が心を揺さぶられるひとつの大きな理由だ。この世界は生きていくにはあまりにタフだし、悲しみや苦しみに満ち溢れている。自分を愛することも、誰かに愛されていると実感することも困難だ。その“前提”から、大森は決して目を背けない。むしろそうした世界のありかたを真摯に見つめ、それでもなおそこに生きる意味や愛を見出し、丁寧に掘り起こし、それをポップミュージックに昇華させる……その真摯な態度ゆえにミセスの楽曲は幅広い世代のリスナーの共感を呼んできたし、その姿勢こそが彼らを進化させ続けてきたのである。

Mrs. GREEN APPLE「ビターバカンス」Official Music Video

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