ポルノグラフィティ、新曲に宿る故郷との絆と時代への問い 『被爆80年プロジェクト』テーマ曲への責務も語る
ポルノグラフィティが25周年の節目に発表した楽曲「ヴィヴァーチェ」。企業との縁や地元への思いを背景に、アップテンポで華やかなサウンドがリスナーの心を揺さぶる本作は、2人が抱える社会への鋭い視点と希望を映し出すメッセージソングでもある。先月には平和への思いを紡ぐNHK広島『被爆80年プロジェクト わたしが、つなぐ。』への参加も発表。キャリアを重ねながら進化を続けるポルノグラフィティの今を新藤晴一と岡野昭仁へのインタビューでお届けする。(編集部)
新曲に込めた希望のメッセージ 多様性の理想と現実
――9月1、7、8日の3日間で開催された、ポルノグラフィティの25周年を記念したライヴ『因島・横浜ロマンスポルノ’24 ~解放区~』の感想から聞かせてください。
新藤晴一(以下、新藤):因島でのライヴに関しては、7月から約1カ月半にわたって開催した『島ごとぽるの展』も含め、自分たちにとってすごく大きなことでしたね。僕らは本当にただの因島の子供だったわけだから、たとえば東京ドームのステージに立つことと、因島で大きな催し、ライヴができたということに対しての実感は、また全然違ったものがあるというか。すごく誇らしい気持ちになりました。
――“凱旋”と呼ぶにふさわしいライヴでしたしね。
新藤:まあ“凱旋”というのは自分たちで使う言葉じゃないけどね。でも、そう言ってくれる人がたくさんいたのは嬉しい限りです。
岡野昭仁(以下、岡野):因島でライヴをやったことで、学生時代にGuns N' Rosesのスタジアムライヴのビデオを観ていたことを思い出したりもしたんですよ。「いつか自分たちもこんなスタジアムでライヴがやれたらいいな」みたいなことを故郷でずっと思っていたので、因島でのライヴからの流れで横浜スタジアムのステージに立つことができたのが自分としてはすごく感慨深かったです。そのストーリーが自分的にすごくしっくりきたところもあったので、総じてよい周年を迎えさせてもらったなという印象です。
――そこで初披露されたのが新曲「ヴィヴァーチェ」。この曲がCMで使用されているカナデビアは因島に縁のある企業なんですよね。
新藤:そうなんですよ。僕らが子供の頃、因島の人口は4万人くらいだったんだけど、そのうち日立造船(カナデビアの前企業名)に勤めている人だけで3~4千人くらいはいたと思う。そういう意味では、因島は日立造船の島だったと言ってもいいくらいで。我々にとってもすごく馴染みがある企業ですからね、今回タイアップをいただけたことはすごく縁を感じますよ。
岡野:うん。うちの実家は日立造船の中で写真屋をやっていたので、日立造船があったから今がある、みたいなことでもありますしね。造船業が盛んだったころは島自体にもすごく活気があったし、子供の頃には船の進水式を見に行ったこともありました。そこから時が巡って、今こうやって音楽でかかわりがもてたことは本当に嬉しいですよね。
――「ヴィヴァーチェ」の作曲は晴一さんですね。
新藤:自分のアトリエで(宗本)康兵とアレンジ作りを一緒にやることがあるんですよ。「こんな曲あるんだけど」ってデモを聴いてもらうと、康兵はその場でピアノを弾きながら「ここはこうしたらどうですか?」とか「こういうリズムがいいんじゃないですか」みたいなアイデアを出してくれて、大まかな形にしてくれるんです。で、ある日、そういった作業をするつもりで康兵を呼んでいたんだけど、僕の中にまったくアイデアがなかった(笑)。だったら予定をバラせばいいんだけど、康兵はすごく忙しい人なのでバラすのはもったいないかなと。おしゃべりをして、ランチをして終わりっていうのもたまにはいいかなと思って予定通り来てもらったんです。
――でも実際はおしゃべりだけでは終わらなかったと。
新藤:そうそう。おしゃべりにも飽きたから、「なんかちょっとやってみる?」みたいな感じで康兵がピアノ弾いて、そこに僕が鼻歌を歌っていって。そんなセッションの中で生まれたのがこの曲です。その場のアドリブで気持ちよく歌いながら曲を作っちゃったのは初めてでしたね。そこから康兵と微調整をしながら1コーラス分のざっくりとしたアレンジまで作っていった感じ。
岡野:自分はそのデモ段階のものをまず聴かせてもらったんですけど、一聴して華やかな印象を受けたというか。こういうアップテンポの曲はポルノとしての武器にもなるし、同時にサビの中のリズムアレンジとかに新しさも感じましたね。で、そこから歌詞の依頼が僕のところにくるっていう。てっきり新藤が書くもんだと思ってたんだけど(笑)。
――歌詞に関してはカナデビアサイドからのオーダーはあったんですか?
岡野:ありましたね。“新しい船出”とか“希望”といったテーマ、あとは企業名にちなんで“奏でる”というワードを入れていただけたら、みたいなイメージを受け取っていたんです。その“奏でる”というキーワードから派生して、音楽用語である「ヴィヴァーチェ」という言葉を探し当てた感じでしたね。
――ヴィヴァーチェには“生き生きとした”といった意味がありますよね。
岡野:そうそう。“活発な”とか。その意味を踏まえて、歌詞の内容を広げていきました。今回、ポルノとして久しぶりに歌詞を書く上で意識したのは、ライヴにおいて歌い手としてどうお客さんに向き合いたいかということで。僕は常々、会場に来てくれた人たちが心を動かされるような、前に一歩踏み出せる気持ちになってもらえるような歌を歌いたいという思いが強いんですよね。なので、今回はそういった思いがより強く出た歌詞になったと思います。
――自分らしさを強くもって生きていくことの大切さをストレートに歌った曲であり、全編には聴き手に寄り添う優しさが満ちているように思います。そんな中、2コーラス目のAメロで歌われている〈誰かと寄り添っているほうが/安心なんだろう/なら誰かと足を引っ張り合っても/泣き言を言うな〉というフレーズが非常に印象的だったんですよ。聴き手をピリッとさせる強い言葉だなと。
岡野:あははは。確かにそうですね。世の中的には「自分らしく生きるんだ」とずっと叫ばれているし、多様性という言葉も一般的になっているじゃないですか。それによって生きやすい世の中になるはずなのに、実際は同調圧力という言葉もありますけど、今まで以上にしんどさ、生きにくさを感じることが多いんですよね。同じ境遇にある人がいれば安心するし、誰かに頼ったり、頼られたりするのは素敵なことでもある。でも、そこから抜けられないことからしんどさを感じてしまう部分もあるんじゃないかと。そこには非常にシビアな面があると感じたので、ちょっとピリッとさせてみました(笑)。
――横浜スタジアムで「ヴィヴァーチェ」を披露するときには「窮屈」という言葉を使われていましたけど、まさにそういうことですよね。多様性という言葉に縛られすぎることで感じる窮屈さがあるっていう。
岡野:そうなんですよね。日頃からそんなことを感じていたので、自然と歌詞に出てきたところはあったと思います。
――ボーカルについては、どんな部分を意識されましたか?
岡野:今回は自分で歌詞を書いたので、サウンドやリズムの上でその言葉をどうしっかりと響かせるかということは意識したと思います。あとは自分自身の感覚なんですけど、ここ最近の自分のボーカルはちょっと暑苦しすぎると思うところがあったので(笑)、サビの前半部分はちょっと抑えめにしようとか、その上で最後の「歌えー!」のところで一番伸びやかになるようにしようとか、そういったバランスは考えましたね。1曲の中で大事な爆発点を作ることを意識した感じです。今回は自宅のスタジオで、自分だけのオペレーションでボーカルレックをしたので、時間を気にすることなく、何度も歌い直すことができたのがすごくよかったと思います。