岡田奈々「この先の活動も歌も諦めかけていた」 暗闇から這い上がった今、確立した表現と『Contrust』
「裏切りの優等生」「ネット弁慶の皆様へ」など、強烈なタイトルと歌詞が並んだソロデビューアルバム『Asymmetry』を世に放ったのは、2023年10月のこと。あれから1年ぶりとなる岡田奈々の新譜は、またしてもフルアルバムとなった。
「con(ともに)」「trust(信じる)」という単語を合わせ『Contrust』と名づけられた本作は、自分自身に当たる“光”と、その先に落ちる“影”の明暗比をコンセプトにした一枚。前作同様、収録曲すべての作詞を岡田自身が担当しているという。現在の岡田の胸中も感じられる本作の歌詞世界と、この一年をじっくりと語ってもらった。(松本まゆげ)
休養、入院を経て至る現在「表現の世界にいられてよかった」
――前作『Asymmetry』から1年ぶりのリリースとなりましたね。
岡田奈々(以下、岡田):この一年は、ソロデビューで気がすごく張っていて、がむしゃらにやってきたんですが、ペース配分がうまくできず体調を崩してしまって。今年の7月まで、半年くらい休養期間をいただいていました。自分の健康を第一に考えて実家で休ませてもらったり、1、2週間入院をしたりすることもありましたね。2月には都内の自分の家に戻って愛犬と生活できるようになっていたんですが、自分のペースを考えずに無理をすると、人ってすぐにダメになるんだなと痛感しました。
――そこがソロとグループとで、また違うところなのかもしれませんね。
岡田:そうですね。グループ時代のほうが忙しかった気がするんですけど、仲間がたくさんいていろんなことを分担できたし、よくも悪くも替えがきく環境だったので。でも、ソロ活動は自分しかいないから、自分が倒れたら終わりじゃないですか。そこに責任の重さと難しさを感じました。
――今回のアルバム制作をはじめたのはいつ頃ですか?
岡田:5月くらいですかね?
――YouTubeで久々に配信をした時期ですね。
岡田:そうそう、5月に「今度ファンミーティングツアーをやります」という告知の生配信をしたんですよね。その頃からゆっくりと動き出しました。スタッフさんが送ってくださったデモ音源を聴いて収録曲を選んだり、作詞したりして。当時は“シークレット”というテーマでアルバムを作ろうと考えていて、曲もそのテーマで募集していました。
――“シークレット”というテーマにした経緯は?
岡田:なんでだっけ(笑)? でも、自分の内に秘めている部分を、もうちょっと赤裸々にさらけ出したいなと思っていたんです。ただ、制作を進めていくうちに、だんだんと曲の印象や自分の心境が変化していって。最終的に“コントラスト”というテーマに落ち着きました。
――まずは、どの曲から作りましたか?
岡田:リード曲の「残響Alive」です。半年間休養したことでライブやイベントができなくなって、ファンの方に会えなくなってしまった。その時の不安や、「遠くにいかないでほしい」というもどかしさを曲にしました。
――岡田さんとファンの方の絆はとても強い印象です。それでも、「遠くにいかないでほしい」と思うくらいに不安になったんですね。
岡田:はい。さすがに半年も離れたら、いなくなってしまうんじゃないかという不安が大きくて……。でも、その一方で「ファンのために私は生きたいんだ!」という、前向きで強い思いも生まれて。気持ちがドバッとあふれ出して、歌詞がどんどん書けたのを覚えています。
――次に書いたのは、「UNMEI」ということですが。
岡田:この曲はスタッフさんに勧められて、歌詞を書き始めました。テーマは、今年の1月に起きた能登半島地震。日本中が動揺したじゃないですか。
――元日に起きたから余計に、ですよね。
岡田:そうそう。それに自分自身も休養していて苦しい時期だったので、いろんな思いを重ねて書きました。
――だから〈日常が消えた〉という辛い言葉から始まるんですね。〈這い上がれる〉という強い信念も感じられました。
岡田:休養中の私は、この先の活動も歌も諦めかけていたんです。でも、そんな時にマネージャーさんが「一緒に這い上がろう」とLINEを送ってくれたんです。その言葉が私の心にすごく残っていたので、歌詞に入れました。
――あらためて考えても、すごくツラい休養期間だったんですね。
岡田:そうなんですよ。(休養直前の)昨年12月は忙しかったうえにプレッシャーもあったので、頭がパニック状態で。「死んじゃおうかな」という迷いが生まれてしまうくらいしんどかったです。でも、歌詞を書いて言葉にすることで自分の心も楽になって、ストレスも少しずつ軽くなっていきました。表現の世界にいられてよかったです。
アンチに向けた〈君に歌を歌いたい〉というメッセージの真意
――その次に制作した曲は?
岡田:「神様はまだ僕を死なせてくれないから」です。実は、この曲は『僕の心のヤバイやつ』というアニメと、『正欲』という映画からインスピレーションをいただいて書かせていただきました。
――とすると、この歌詞の主人公は岡田さんとはまた違う人物?
岡田:全然違いますね。それに特定の誰かというわけでもないので、誰にでも当てはまる歌詞だと思っています。まわりに言えないようなマイノリティな部分を持っている人って、意外と多いと思うんですけど、そういう人の心に響いたらうれしいなと思っています。『Asymmetry』は、自分を軸にした歌詞が多かったけど、今回のアルバムの歌詞は客観的に書いているものばかりです。ただ……その次に作った「moratorism」は、ちょっと違うんですけど。
――というと?
岡田:この曲は、『Asymmetry』の時期にすでにできていた曲なんです。そこからまた書き直して仕上げたんですが、アンチメッセージのスクショを見ながら書いた歌詞がもとになっているので、当時のダークさや影を感じる内容になっていると思います。ダークサイドに落ちている曲、というか。
――つまりアンチに向けた曲だと。なのに、〈君に歌を歌いたい〉と言っているのが印象的でした。
岡田:矛盾しているんですけど、最終的には前向きな気持ちで終わりたかったんです。最初は「自分も殺したいし、全部忘れてほしい」という思いを伝えたまま曲を終わらせようと思っていたんですけど、この曲にも“光”がほしいな、って。それで歌詞を書き足しました。そのうえで、この十字架を刻みながら生きていくという強い意志を込めています。
――そういった楽曲をこのタイミングで表に出したいと思った、と。
岡田:今このタイミングで出さないと、二度と出せないだろうと思ったんです。たぶん、ここからはどんどん明るい曲が増えていくと思うので。「闇ソングは今のうちだ!」と思って(笑)。
――(笑)では、その次に作った曲は?
岡田:「共犯カメラ」です。私がお酒を飲んだ時のことを歌った曲です(笑)。私、酔うと友達から「化け物」と呼ばれるんですよ。そんな面を持っている私が、シラフの時は「真面目でいい子」と言われるので、その二面性を表した楽曲になっています。「こんな私を愛してください」という、無理なお願いをしている曲ですね。
――YouTubeの公式チャンネルにも、酔ったままプレゼントを開封する動画がアップされていますよね?
岡田:観てくださったんですか! ヤバいですよね、あれ(笑)。
――陽気で楽しそうだなとは思いましたよ(笑)。
岡田:あははははは! 酔うとテンションが上がるタイプなんです(笑)。で、友達にはダル絡みをしちゃいます。若い頃はあとから反省することもありました……。今はそんなことはないですけど。最近は、家でひとりで晩酌をするのが好きなんです。よく「岩下の新生姜」のハイボールを飲んでいます。