DECO*27×松丸亮吾、初音ミクを取り巻く“変化”の時代 『プロセカ』『ポケミク』で広がるボカロの世界
DECO*27が11月27日に9thアルバム『TRANSFORM』をリリースした。前作『MANNEQUIN』では“初音ミク×アイドル”をコンセプトに新境地を開拓したDECO*27だが、今作ではTRANSFORM=“変身”をタイトルに掲げ、初音ミク像を覆すような実験的な楽曲を多数収録。DECO*27の挑戦が詰まった一枚に仕上がっている。
リアルサウンドでは、ボカロ好きとしても広く知られる松丸亮吾とDECO*27の対談を企画。ここ数年ではスマホ向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』や『ポケミク』といった初音ミクを起点としたコンテンツのヒットをはじめ、TikTokをはじめとするショート動画の流行も受けて、ボカロ楽曲との出会い方や楽しみ方にも変化が見受けられるようになった。本企画では、VOCALOIDカルチャーを取り巻く状況の変化を軸に『TRANSFORM』について語り合ってもらった。(編集部)
「恐ろしい変化をする曲がいくつもあった」(松丸)
ーーまずはDECO*27さんのニューアルバム『TRANSFORM』についてのお話から。松丸さんはお聴きになってどんな印象を持たれましたか?
松丸亮吾(以下、松丸):DECOさんは新曲を出すたびに世間を騒がせている人だし、ここ最近は特に爆発的なヒットを連発していたので、変化を感じさせる曲を作り続ける難しさがあるだろうなと思っていたんですよ。でも今回はアルバム自体のテーマが変化(=TRANSFORM)で、まさに新たな変化を感じさせてくれる曲がズラッと並んでいたので、この人はほんとヤベェなってあらためて思いましたね。
DECO*27:ありがとうございます!
松丸:「この人、どんだけ引き出しあるんだ?」って思いましたよ。しかも、1曲の中で「あれ違う曲始まった?」って思うくらい恐ろしい変化をする曲がいくつもあったりして。最後まで聴き遂げなければという謎の使命感に襲われるアルバムだなと。歌詞も含め、中毒性の高い曲があいかわらず多いですしね。それこそがずっとトップランナーである所以なんだなって思いました。
ーーリアルサウンドでは2021年にもお二人の対談を行っているのですが、その際にDECOさんは「自分は変化を好むタイプ。リスナーに飽きられるのがイヤだし、自分が自分に飽きるのもイヤ」とおっしゃっていて。そこから約3年が経った今、“変化”をテーマにした作品を作ったのには何か理由があったんでしょうか?
DECO*27:これはまだ具体的にはお話できないんですけど、自分の中にはとある目標がありまして。それを実現するためにはまず、今回の変化が必要だったんですよ。前回の対談でお話していたように、僕はこれまでもずっとリスナーに飽きられないように、自分自身が飽きないようにいろんな変化をし続けてきた。そのことは「ヴァンパイア」をはじめ、リリースしてきた楽曲を通して感じてくれていたとは思うんですけど、今回はあえて自ら「変化」というテーマを口にした上で楽曲を聴いてもらい、その上でみんながどう感じてくれるのかを見てみたかったんです。
ーー具体的にはどんな変化を意識して制作に向き合ったんですか?
DECO*27:松丸くんが言ってくれたように、1曲の中でガラッと曲調が変わるところを盛り込んだっていうのがひとつ。あとは今まで以上に曲のジャンル感がバラけていたりとか、(初音)ミクの声や歌い方もかなり変えたものが多くて。これまでもアルバムごとにミクの声は変えてきたんですけど、今回に比べれば軽めの変化だったなと思います。調声に関しても今年初めにリリースした「ルーキー」から変えてますし。Xでも言いましたけど、いきなり100%の変化を見せるのではなく、昔のやり方と今のやり方を徐々に混ぜていって、その割合が1年を通してどんどん変わっていく。そのグラデーションの先にあるのがこのアルバムだと思いますね。
松丸:僕は「サラマンダー」とか「ボルテッカー」のような、いわゆるDECOさんのポップな曲がずっと好きだったんですけど、今回のアルバムを聴いた結果、「ネバーランド」が好きだということに気づいてしまったんですよ。MVも含めて、「めっちゃいい!」って。
DECO*27:あらー! ようこそようこそ。松丸くんは何かに目覚めようとしてるのかも(笑)。
松丸:触れちゃいけない世界観をちょっとのぞき見したくなる感覚っていうのかな。そういう意味では僕自身、このアルバムを通して変化させられてしまったのかもしれない。怖い(笑)。
DECO*27:いやー嬉しい。「ヴァンパイア」や「ラビットホール」、「サラマンダー」「ボルテッカー」のようなポップな曲のほうがリスナーは入ってきやすいんですよ。でも僕はポップ一辺倒ではやらないんですよね。ポップな曲の後ろには、すごく病んでる恋愛の曲があったりもするので。「あれ、この人、出会ったときとは違う顔してる」みたいな感じですよね(笑)。
松丸:そうそう。でもそれがDECOさんに惹かれる理由だし、やっぱり何より飽きないじゃないですか。
DECO:うん。光と闇の両面あるからこそ、どちらも深まっていくみたいな感じが自分の中ではあるかな。
ーーアルバムを通して、リリックに関して変化させた部分もありますか?
DECO:去年出した「ブループラネット」で、ミクに〈うるせえ関係ねえ〉って歌わせたんですけど、そういうちょっと強い言葉を使ったのは変化だと思いますね。生身の人間が歌うとけっこう押し付けられる感じにもなりそうだけど、ミクだとそうは受け取られないかなって。その流れで同じ時期に作っていた「宇宙散歩」では“Fワード”を入れてみたり、今回のアルバムに入ってる「あいたい星人」ではサビの頭で〈くそったれ〉って言わせたりしてますね。
松丸:言葉で言ったら僕はやっぱ「サッドガール・セックス」がヤバイと思いましたけどね。これはちょっとダメですよ(笑)。今まではポロリくらいだったのに、「モロに言っちゃった!」と思った。