『アニポケ』新シリーズ主題歌、“令和感”の正体とは? トレンドを取り入れたアプローチを徹底分析
「アニメ『ポケットモンスター』の新シリーズ主題歌の“令和感”がすごい」。このような声をSNSで目にした。
1997年から放送されている国民的アニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)、通称『アニポケ』。2023年4月から始まった新シリーズでは、それまでの登場人物や設定を大幅にリニューアルし、約26年間主人公を務めたサトシからリコとロイのW主人公へバトンタッチするなど、新たな世代の視聴者を意識した内容へと変化している。
そんな『アニポケ』新シリーズだが、主題歌についても近年の音楽トレンドにリーチするような起用が続いている。たとえば、2024年4月~9月に放送された『テラスタルデビュー』編では韓国の6人組ガールズグループ・IVEが、現在放送中の『レックウザ ライジング』編では韓国の9人組ボーイズグループ・ZEROBASEONEがそれぞれOPテーマを歌唱。どちらも『アニポケ』の主題歌としてしっかり作品に寄せた歌詞や楽曲構成となっているが、“K-POP×ポケモン”という組み合わせはこれまでの『アニポケ』の歴史では通ってこなかった道であったため、視聴者に驚きを与えた。そしてそれ以上に話題となっているのが、ネット発シンガーやボカロPといったSNS世代の若者にも訴求できるような楽曲たちだ。今回は『アニポケ』新シリーズの多様な音楽性について紐解き、この“令和感”の正体を突き止めてみたいと思う。
最初に紹介するのは、2024年10月からオンエアされている最新のEDテーマ「ピッカーン!」である。楽曲プロデュースはGiga & TeddyLoidが務め、作詞はボカロPとしても活躍するDECO*27が担当。この組み合わせはAdoのヒット曲「踊」を手掛けた制作陣でもある。子供だけでなく大人も思わず口ずさみたくなる〈Rise Up, ピッカーン〉というフレーズに、遊び心が抜群なリリックなど、何度も聴きたくなる中毒性の高さが印象的。そしてボーカルを担当した櫻坂46の松田里奈と森田ひかるのキュートな歌声も相まって、ギラギラしたクラブサウンドながら親しみやすさも内包した無二の1曲へと昇華されている。2分46秒という短さながら、聴いた後の満足度の高さはピカイチだろう。
「ピッカーン!」の前にGiga & TeddyLoidが手掛けたもう1曲の『アニポケ』曲が、2024年4月~9月のEDテーマに起用されていた「Let me battle」。POP、ラップ、エレクトロといった様々なジャンルのサウンドを一挙に詰め込み、そこに歌い手・9Lanaのひとつの武器であるがなり声を加えた独創性の高い1曲で、これまた中毒性のある楽曲に仕上がっている。7月~9月の放送分では、歌い手のつぐ、わかばやし、みょみょ、むト、缶缶の5名がフィーチャリングアーティストとして加わり、全3種類の新たなアレンジでこの楽曲を彩ったことでも話題となった。
“SNSで最も使われる歌声”との呼び声が高いシンガーソングライター・asmiと、YouTube再生回数1億3000万回以上のヒットナンバー「グッバイ宣言」を手掛けたボカロP・Chinozoのコラボレーションとして『アニポケ』に書き下ろされたのが、新シリーズのOPテーマ第1弾(2023年4月~10月放送)となった「ドキメキダイアリー」だ。主人公の1人・リコの旅立ちに対するワクワク感と少しの不安を綴った歌詞は、まっさらな物語である『アニポケ』新シリーズの第1弾のOPテーマとして相応しい楽曲であった。特にラストの〈だから旅に出ます/そのうち帰ります〉というフレーズは、サトシが主人公だった時代から続く『アニポケ』シリーズを体現するセンテンスとなっており、アニメのテーマが地続きであることがここからも窺える。
yamaとぼっちぼろまるがタッグを組んだ第2弾OPテーマ(2023年10月~2024年3月放送)「ハロ」は、雲を突き抜けるような爽やかさと疾走感が印象的なアッパーチューン。「ドキメキダイアリー」が最初の1歩を踏み出した楽曲だとすれば、「ハロ」はいくつか歩を進めた旅の途中を描いた1曲であると言えるだろう。歌詞には子供たちを勇気づけるようなシンプルな言葉が多く並ぶが、〈いつかさ ふざけあって/ふたり 歌った 夢の歌/ずっとポケットに入れたまま〉など、時折挿入されるノスタルジックさが感じられるリリックは、むしろ大人にこそ刺さるかもしれない。
さて、ここまで新シリーズの歴代主題歌を紹介したが、そもそも“令和感”とは何なのだろうか? ネットシーン発のアーティストの起用という目新しさの観点では、これまでも佐香智久(少年T)、After the Rain(そらる×まふまふ)といった歌い手が『アニポケ』の主題歌を歌ってきているし、それ以外にもももいろクローバーZ、私立恵比寿中学、ポルノグラフィティ、岡崎体育、西川貴教×鬼龍院翔、からあげ姉妹(生田絵梨花・松村沙友理)、中川翔子といったアーティストも主題歌を歌唱している。そのため、“令和感”とは歌唱者の違いだけではないはずだ。ここからは“令和感”の正体についていくつか考察してみよう。