Kroi、火9ドラマ主題歌「Jewel」も好調 初のアリーナワンマンへと向かうバンドの現在
ミクスチャーな音楽性を提示する5人組バンド・Kroiの最新シングル「Jewel」が、TVドラマ『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジテレビ系)主題歌としてオンエア中だ。彼らはこれまでにR&Bやファンク、ソウルなどさまざまなジャンルをかけあわせた楽曲を発表しており、今回はアコースティックギターとピアノから始まるバラードに仕上がっている。この楽曲を通して彼らの音楽に出会ったというリスナーも少なくないのではないだろうか。
Kroiは、今年1月にバンド初の日本武道館ライブを成功させ、6月には3rdアルバム『Unspoiled』をリリース。その発売を記念して横浜赤レンガの特設ステージにて行われた大型野外フリーライブ『Departure』には、全国から6,000人が集結したことも記憶に新しい。本稿では、直近のリリースや来年2月に控える初のアリーナワンマン、ぴあアリーナ公演へ向かうライブにフォーカスしながら彼らの現在地を探る。
楽曲やライブから感じ取れるKroiの“ミクスチャー”ぶり
先述の武道館ライブには筆者も足を運んだが、誤解を恐れずに言えば終幕後3日間ほど燃え尽きていた。渋谷CLUB QUATTRO、Zepp Haneda、LINE CUBE SHIBUYA、NHKホールなど、公演をおこなう箱のサイズを大きくしながら成長していくバンドの姿を追う人間として、ひとつの到達点を迎えたように感じていた。
これまでのライブでは最終兵器のようにプレイされてきた「Fire Brain」をセットリストのド頭に配置し、VJや照明も過去最高のクオリティで、バンドの演奏も圧巻のひとこと。曲順を間違える場面があったものの、それすら演出に代えてゆく凄みがあった。
個人的な話になってしまうが、ライターとしてライブハウスから武道館まで見届けられたアーティストは彼らが初である。リスナー側の視点として、ひとつの物語が完結したような実感があった。この日のライブレポートを噛みしめながら書いたのを覚えている。
そういったバーンアウトしたメンタリティを払拭したのが、その後にリリースされた『Unspoiled』だった。“損なわれていない”という硬派なメッセージが込められた本作は、新規性を確立しながらもKroiらしさを兼ね備えたアルバムである。
そもそも彼らの音楽を指して「らしさ」と限定するのが難しいのだが、最近はそれこそが「らしさ」なのだと感じている。“ミクスチャー”と言っても、彼らの基軸にあるのはR&Bやソウルのように思われ、共振するバンドはHiatus KaiyoteやD'Angelo And The Vanguardあたりだと勝手に定義していたが、本作以降は少し違う景色が見えてきそうな気がしている。
古今東西の音像を取り入れることにより、独特のグルーヴを実現。武道館ライブのあとに、Kroiのベーシスト・関将典はリアルサウンドのインタビューで以下のように語っている。
Kroiはインディーズの頃からずっと「ダサいものってカッコいい」とか「キモイとされてるものって、別に気持ち悪くないよね」みたいな逆転の発想をよくしていて。「Unspoiled」でも「古いと思われているものがじつは新しい」「ダメになっていると思われているけど、ぜんぜんそうじゃない」という価値観を提示したいんですよね。(※1)
台頭してきた2021年頃、彼らはジャンルとしてフュージョンを標榜していた。ジャズシーンでは揶揄されることもあったこの音楽を下敷きにしていた当時を振り返っても、やはりKroiのスタンスは一貫しているように感じられる。ルネサンス的に過去の傑作を換骨奪胎してきたのはこれまでと変わらないが、『Unspoiled』はその幅が極めて広い。それはまるで、インドに傾倒していたジョージ・ハリスンのようでもあり、カート・コバーンからインスピレーションを受けてラップの道に進んだリル・ピープのようでもある。
ではKroiは独善的なバンドなのか? と問われればそれも違う。むしろそれこそが最もKroiのイメージからかけ離れていると言って差し支えないだろう。彼らは常にオーディエンスを見ている。その音楽によってどれほど人々を踊らせてきたのかを考えれば、いかにフロアフレンドリーなのかわかるはずだ。
その証拠に、春は『JAPAN JAM』『VIVA LA ROCK』『METROCK』『GREEN ROOM FESTIVAL』『森、道、市場』『頂』、夏~秋にかけては『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』『RISING SUN』『WILD BUNCH FEST.』『朝霧JAM』、さらにはアメリカの『SXSW』など、今年は例年以上にイベントやフェスにおいて、彼らの音楽が強く求められていた印象だ。加えて、ENDRECHERI.の『ENDRECHERI MIX AND YOU FES』や[Alexandros]の『THIS FES』、氣志團の『氣志團万博』といったアーティスト主催フェスの出演ラインナップを見れば、Kroiの“ミクスチャー”ぶりが伝わるだろう。