『RIKI 8Bit GAME Collection』発売記念鼎談 RIKI×hally×ヒゲドライバーが語る、“8bit”音楽の歴史と普遍性

『RIKI 8Bit GAME Collection』特別鼎談

三人が語る“8bit”の魅力

――皆さんにお伺いしたいのですが、8bitの何が人を惹きつけるのでしょうか? 細野晴臣さんが1984年にアルバム『ビデオ・ゲーム・ミュージック』をリリースしていますが、当然ながらこの時は“ノスタルジー”とは無縁だったわけですよね。8bitがたびたびマスに届く様子を見ると、何か普遍的な物語を見出せそうな気もします。

hally:古くはすぎやまこういちさんもおっしゃっていたことですけど、音楽って3音だけでも成立するわけですよね。それくらい音数に制限がある中でも、普遍的に素晴らしい音楽を作りうることは、バッハの時代から証明されているんです。その普遍性が「単純波形むき出しの電子音」という、それまでの電子音楽では敬遠されてきた、逆にいえばゲームのサウンドでしか聴くことのできない音色と出会ったところに、他では味わうことのできない魅力や親しみやすさが生まれました。その後、ゲーム音楽が16bitや32bitに進化していく過程で、8bitの良さは一度忘れられてしまいました。でも後から振り返ってみると、あの時代のゲーム音楽はもう一種のポピュラー音楽でさえあったよね、と気付かされるわけです。たとえば『スーパーマリオブラザーズ』の音楽なんて、間違いなく世界でもっともよく聴かれた電子音楽ですからね。そういう気付きからチップチューンのような発想が生まれてくる。まず海外で火がついて、僕がその潮流を日本に紹介していったところから、日本でもチップチューンが盛り上がり始めました。

――海外は8bitの何を評価していたのでしょう?

hally:国や地域によって違うので一概には言えないんですけど、たとえばヨーロッパだとファミコンよりも同じ時代のコモドール64というパソコンのほうが影響力が大きいんです。その音源チップはファミコンよりもっとシンセサイザー寄りのしっかりとした分厚い音が出せるんですが、やはり3音しか出せないので、その制約の中で「シンセとしてどこまでやれるか」みたいなところを主に面白がっていました。一方で日本のファミコン音楽はシンセ的な作り込みと同じかそれ以上に譜面的な完成度に重点を置いていて、作り込んでいない素朴な矩形波であっても、それはそれで喜ばれた。そういう違いがあったと思います。でもインターネットの時代になり、日本的な8bitの価値観と西洋側の8bitの価値観が混ざり合うようになってきて。

――ヒゲドライバーさんは恐らくそれ以降から音楽を作り始めているのではないでしょうか。価値観がミックスされた後の世代として、8bitのどういった部分に魅力を感じますか?

ヒゲドライバー:僕は元々ゲームが好きだったっていう根本がありつつ、ヒゲドライバーとして「ピコピコやろう」と思った背景に、好きな要素としてメロディがズバっと入ってくる、っていうところがすごくあって。やっぱり昔のゲーム音楽、たとえば『マリオ』にしろ『ドラクエ』にしろ、メロディが強いから口ずさめるんですよね。今の派手なオーケストラの音楽とかってそういうことができないじゃないですか。単音で耳に入ってくるあのメロディの感じがずっと好きなんですよね。パソコンでピコピコした音楽を作れると知って、これ面白いから自分でやってみようって始めたんですよね。その影響なのか、ポップスをやる時にもまずメロディに惹かれるんです。

RIKI×hally×ヒゲドライバー(撮影=三橋優美子)

――まさに「MONKEY MONKEY」はその極致なのではないでしょうか。

ヒゲドライバー:そうかもしれない(笑)。ほかの参加アーティストの曲を並べて聴いた時に、自分はポップスの人間なんだなと改めて思いましたね。先ほど言ったようなゲーム音楽のコンポーザーと育ち方が違っている点とあわせて、自分の出自を再認識しました。

RIKI:繰り返しになっちゃいますけど、ヒゲドライバーさんの8bitは本当にキラキラしてるんですよ。音がとにかく気持ち良い。

ヒゲドライバー:それは僕の気分が出ているのかもしれないです(笑)。ピコピコをやっていい場所を与えられると、よっしゃー! って気分になります。やっぱり自分はピコピコやってる時が一番楽しい。

RIKI:前から聞いてみたかったんですけど、ヒゲドライバーさんが幼少の頃プレイされていたゲームって何だったんですか?

ヒゲドライバー:王道の作品は一通りとおっています。その中で、一番音楽とゲームの内容にハマったのが『ファイナルファンタジーIII』(FF3)ですね。

RIKI:ファミコンも通ってるんですね!

ヒゲドライバー:時期としては後期なので、厳密には多分スーパーファミコン世代だと思います。でも一番影響を受けたのは『FF3』で、いまだにずっと好きですね。

RIKI:少し話は変わるんですけど、ヒゲドライバーさんは最近シューティングゲームを作っていませんでしたか?

ヒゲドライバー:そうなんですよ。RIKIさんを真似してじゃないですけど、ゲームボーイの環境でゲームを作ったんです。

RIKI:映像じゃなくて本当に作ったんですか!? すごい!

ヒゲドライバー:音楽も自分で作りました。でも効果音とのバランスを考えたりと、難しさがありました。試行錯誤しながらではあるんですけど、どうにか完成させられました。あやんちゅくんっていうレトロゲームの制作をしているアーティストがいるんですけど、彼が「ゲームボーイの環境で作れそうなんで一緒にやりましょう」と話を持ち掛けてくれて。

hally:『8BIT MUSIC POWER』以降、ミュージシャンが8Bitのソフトを作るようなことは他でも散見されるようになってきたので、その意味でもターニングポイントだったと言えそうですね。『キラキラスターナイト』や『8BIT MUSIC POWER』には実はもうひとつ大きな功績があって。趣味的に作った8Bit実機用カセットをしっかりとコマーシャンルな商品に仕立て上げ、しかも全国流通に乗せたということです。RIKIさんの一連の作品以前には、そんなことは不可能だった。つまりRIKIさんが、こういったソフトがちゃんと商売になる土台を作ったんですよね。

ヒゲドライバー:僕も、RIKIさんの作品がなかったら辿り着けていないと思います。

hally:あまり指摘されないんですけど、実はそういう意味で『キラキラスターナイト』はものすごく大きな革命だったんですよね。

RIKI×hally×ヒゲドライバー(撮影=三橋優美子)

『RIKI 8Bit GAME Collection』は“触れるアルバム”

――こういった流れがもっと大きなムーブメントになって、ゆくゆくはライブイベントができたりなんて……。

RIKI:それはもう、売れ行き次第でしょうね(笑)。

hally:そういう話はいつもしてます(笑)。

RIKI:コロナ禍前の『8BIT MUSIC POWER』や『8BIT MUSIC POWER FINAL』の頃はライブもやってたんです。それ以降はすべての状況が変わってしまったのでできてないんですけど、確かにイベントもやりたいですよね。

hally:コロナ禍が明けたあともなかなか状況が変わらず、チップチューンのライブイベントもずいぶん減りました。これが上手く売れてくれるといい打ち上げ花火になるんじゃないかな(笑)。

RIKI:それができたら何よりまず自分が行きたいですねぇ。

ヒゲドライバー:わかります(笑)。そして、こういう音楽がなるべく若い子に届いてほしいなっていう思いはあって。やはり“ピコピコ”っていうとノスタルジーだったり、レトロだったりってイメージがつきまといがちですけど、今の子たちってもうそういう偏見や見方みたいなものがなくなりつつあるようにも思うんです。さっきも話に出てたけど、RIKIさんのデザインだったり、やろうとしてることって、やっぱりノスタルジーとも違う気がして。“新しいピコピコのあり方”を模索している感じがあるので、そこが上手く若い子たちに届いてほしいと思います。

hally:若い人にリーチしてほしいという点は僕も全く同感ですね。そういう意味では、Nintendo Switch用のソフトとしてリリースされるということにも期待しています。ヒゲドライバーさんがおっしゃるように、8bitは『キラキラスターナイト』が出た頃に比べると珍しくなくなって、誰でも馴染みやすいものになっているように感じるので、今からこの作品に触れる人には “8bitの魅力”よりも“RIKIさんの作品としての魅力”が先に届くと思うんですよ。だからまずそこを存分に感じていただいて、その中で8bitへのこだわりがどういうふうに輝いてるのかを楽しんでほしいですね。

RIKI:『キラキラスターナイト』は1ステージ1分、『アストロ忍者マン』も2~3分ぐらいでクリアできるように設計しています。だから時間がないユーザーにもオススメしたいですし、『8BIT MUSIC POWER』、『8BIT MUSIC POWER FINAL』、『8BIT MUSIC POWER ENCORE』の3タイトルでは音楽アルバムでできないことをやったつもりです。チャンネルを任意に消すこともできるので、“触れるアルバム”って感じなんですよね。ノイズと三角波だけにしたりとか、2、3周できる内容になっているので、色んな楽しみ方を見つけてもらえればと思います。中にはヒゲドライバーさんの素敵な曲が2つ入っていて、hallyさんにいたっては『アストロ忍者マン』以外の全作品に参加してくれています。もちろんお二人以外にも数多くの楽曲が収録されていますし、これだけの個性が揃った音楽作品は歴史的にもそう多くないと思うので、ぜひ手に取ってみてください!

 

■製品情報
ゲームソフト『RIKI 8Bit GAME Collection』
2024年11月28日(木)発売

ジャンル:8ビットゲーム集
プラットフォーム:Nintendo Switch
開発・発売:シティコネクション

特装版特典:
・描き下ろしイラスト仕様BOX
・アートブック
・下敷き
・サウンドトラックCD

© 2024 RIKI ALL RIGHTS RESERVED Developed and Published by 2024 CITY CONNECTION CO., LTD.

『キラキラスターナイト 8BIT MUSIC POWER - RIKI Collection -』
『キラキラスターナイト 8BIT MUSIC POWER - RIKI Collection -』

■リリース情報
『キラキラスターナイト 8BIT MUSIC POWER - RIKI Collection -』
2024年12月25日(水)発売

仕様:CD4枚組、ブックレット8P
レーベル:クラリスディスク
発売:株式会社シティコネクション

商品詳細・購入ページ:https://clariceshop.com/products/m_clrc-10094

© RIKI Manufactured by CITY CONNECTION CO., LTD.

■関連リンク
公式サイト:https://city-connection.co.jp/riki8bit/

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