ラ行、濁点、特殊表記、サブタイトル……“V系バンド名” 独自の美学とは 変遷から見出す時代ごとの傾向

 また、2000年代後半〜2010年代に差し掛かると、上記のシンプルな単語に加え、綴りや表記でオリジナリティを生み出す手法が台頭する。“悪友”という意味の「Thug」の綴りを変えたSuG、“独裁的な雰囲気”という意味である英語“Dictatorial Aura”を縮めて一つの単語にしたDIAURA、vista(視覚)+lip(聴覚)を組み合わせた造語であるvistlipなど、さまざまな例が存在する。

SuG「SICK'S」MV

 このように多様な単語や熟語がバンド名として採用されるなか、2010〜2020年代にはそれまで採用されることがなかったような言葉がバンド名に使われるようになった。0.1gの誤算、甘い暴力、生憎の雨。、MAMIRETA、ザアザア、nurié、鐘ト銃声、色々な十字架などがいい例だ。彼らのバンド名の特徴は「単語自体は一般社会に浸透しているが、それまでヴィジュアル系バンドのバンド名には使用されることはなかった」ということだろう。簡潔な言葉で自分たちの音楽性を表現し、かつ言葉の響きも大切にする。そういった「シーンの流れを踏襲しつつ差別化も図る」という精神は、このシーンにおいて非常に重要な姿勢であろう。

0.1gの誤算「利己的メルヘン症候群」MV

 こうして見ていると、ヴィジュアル系のバンド名は全体的に見るとシンプルなものが多いのだ。声に出したときの文字数は特別な例を除き、10文字以下であることが大半である。そんな共通項も見えてきたが、ではヴィジュアル系バンドにおいて、長く愛されるバンドになるための“バンド名命名法”は存在するのだろうか。そこで、BUCK-TICK、GLAY、LUNA SEAといったレジェンドたちから見出したのが、「既存の単語に一手間加えてオリジナルの表記にする」という手法だ。

 「爆竹」に独自の英字表記ををあてたBUCK-TICK、「灰色」という意味の単語「GRAY」のRをLに変えたGLAY、もともと「狂気」という意味の「LUNACY」の表記を変更したLUNA SEAなど、素晴らしい音楽が愛されていることを大前提としながら、バンド名についてひとつの傾向を見出すことができた。昨今でも、XANVALA(「乱れ髪」という意味の「ざんばら」を英字表記にし、「Z」を「X」に変更)、CHAQLA.(CHAKRAの綴りを変えて末尾に「.」をつける)、Sick²(「Sick」の複数形である「s」を「²(二乗)」で表す)、nurié(「塗り絵」をローマ字表記にし、eにアクセントをつける)、ΛrlequiΩ(「N」を「Ω」に置き換える)、Co 'COON(「繭」を意味する「COCOON」の表記を変える)などの例が挙げられ、今後のより大きな活躍が期待される。

BUCK-TICK「JUST ONE MORE KISS」MV
XANVALA「CULTURE」MV

 このように、時代に合わせたトレンドはありつつも、どのバンドもしっかりとシーンに根ざし、それぞれの個性でシーンを紡ぎ合わせている。先陣が敷いたレールを歩みながらも自分らしさを追求する、そういったリスペクトや様式美を踏襲するバンドが後に続くからこそ、長く愛されるシーンへと成長してきたと言えるヴィジュアル系。今後もシーンがどのような変化とともに続いていくのか、いちファンとして期待したい。

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