Cö shu Nie、“どんな自分”も愛するまでの道のり 孤独に温かな光を照らしたZeppツアー『Wage of Guilt』

Cö shu Nie『Wage of Guilt』レポート

 開演とともに場内が暗転すると、ステージを覆う大きなスクリーン上でロールプレイングゲームの如く「Continue」ボタンが選択され、オープニング映像が流れ始める。カオスな物語の渦中へと強制的に身を投じられたような不思議な感覚。そしてオープニング映像が終わるとギターを鋭くストロークする中村未来(Vo/Gt/Key/Manipulator)のシルエットが映し出され、地鳴りのような演奏からライブがスタート。この東阪Zeppツアーに至るまでに海外公演や定期公演(『Cö shu Nie presents “Underground”』)で培ってきたエネルギーが、のっけからフルスロットルで炸裂しているように感じられた。

 『Cö shu Nie Album Release Tour 2024 “Wage of Guilt”』、9月7日のZepp DiverCity (TOKYO)公演。劇的なオープニング映像に驚かされたが、最新アルバム『7 Deadly Guilt』のコンセプトに則したツアーであることを思えば、妙に合点がいった。我々は常に人生というゲームを生きている。挫折を味わい何かを諦めながらも、誰かと出会って己の可能性を知り、経験というアイテムを手にすることでレベルアップしながら、過去の全てを未来への糧に変換していくーーそんな物語チックな“ゲーム”だ。Cö shu Nieは2時間のライブを人生の一部に見立てて、我々をその“ゲーム”の中へと誘い込んだのではないだろうか。

中村未来

 孤独ゆえの逃避について歌った「Where I Belong」が1曲目を飾る。中村による切り裂くようなテクニカルなリフに、松本駿介(Ba)の強烈なスラップベースが絡み合い、Zeppは一気にディープな音世界へと沈み込んでいく。1コーラス歌い切るまでステージがスクリーンに遮られ、メンバーの姿が見えないままだったこともあり、〈海の底から見上げているようだ〉〈ひとりでいいんだって/どれだけ言い聞かせた〉といった隔たりを感じさせる歌詞が、より一層リアルなものとして響いてきた。だが、そこから中村の軋んだギターリフがメタリックな爆発力を誘発する「Deal With the Monster」や、怒り狂ったようなベースラインに妖艶な歌声が絡み合う「絶体絶命」では孤独な心に確かな意志が宿ったように思えたし、泳ぐようなグルーヴの上で流麗なギタープレイの美しさが輝く「Lamp」「アマヤドリ」では、それが誰かと繋がり合う尊さの歌へ転換していった。そんな足取りを照らし出すように、「Lamp」ではステージ上のランプが小さく灯り、「アマヤドリ」では鮮やかな照明演出が輝く。

 サポートメンバーの堀越一希(Dr)はタイトなドラミングで、beja(Gt/Pf)はギターや鍵盤の奥行きのあるプレイによってCö shu Nieの表現幅を拡張していく。とりわけ「Deal With the Monster」の焦燥感を煽るビート、「no future」での感情が昂っていくようなギタープレイが随所に散りばめられている感じはかっこいい。その「no future」では、松本のベースが気だるいアンサンブルに図太いグルーヴを与え、ポストロック調な「私とペットと電話線」でもベースラインが自在な緩急を生み出す。「病は花から」での狂気的なグルーヴは奇妙な自意識を際立たせ、「Artificial Vampire」では情報化社会に脳内を侵食されるような不気味さを松本のベースラインが見事に表現し切っていた。

松本駿介

 中盤、特に胸を打たれたのは「I am a doll」のアカペラ歌唱。中村によるピアノ弾き語りで披露されるだろうと思っていただけに、無音の中で歌い上げられた同曲には静かな衝撃を覚えた。ステージ中央にポツンと立つ中村の切なげな表情と歌声からは、曲の主人公である“人形”の救われない気持ちが浮かび上がる。しかし、再びステージ上のランプが小さく灯った「iB」はそんな孤独にそっと寄り添うように歌い上げられ、ミラーボールの光が会場中を美しく包んだ「give it back」では、誰かの優しさに触れることで自身の光を信じられるようになるという実感が、ストンと手元に落ちてきたような気がした。中村による独創的なピアノのフレーズはいつも以上に優しく美しい肌触りで、替えの効かない今この瞬間を祝福するように空間をそっと鮮やかに彩っていく。居場所を失った人間が、生きている感覚を手元に引き寄せるまで。静謐な演奏で聴かせるしっとりとしたパートだったが、この中盤こそ本ツアーの大きな見せ場だったのではないだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる