女王蜂、「狂詩曲」で魅せる真骨頂 アヴちゃんが紡ぐ生と孤独の深層、“あなた”を守る楽曲の数々

女王蜂「狂詩曲」で魅せる真骨頂

 女王蜂の新曲「狂詩曲」(読み:ラプソディ)は、誰かに与えられたセリフを読むのではなく、自分だけの詩を詠むようにして生きるすべての不器用で美しい魂を祝福するような曲である。映画『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』の主題歌でもあるこの曲でアヴちゃんは、〈ただたのしく当然でさみしく誇らしいの〉――こんな混濁した感情を、儚くも華やかなサウンドに乗せて歌っている。人の温もりを知るがゆえの寂しさ、生の断崖絶壁のような場所で「自分という人間はこの世界にただ1人しかいない」ということを深く自覚した時の、キリキリとした痛みと湧き上がる気高さ。〈わたしは初めてあなたのことを忘れたわ〉という冒頭の歌詞が聞こえてきた瞬間に、悲しみと清々しさが混ざり合う現実を突きつけられるようで、息を呑む。これまでの楽曲がそうであったように、この楽曲でも女王蜂は、清濁併せ呑んだうえで人間への肯定を歌う。押し付けるようなメッセージではなく、支配的な関係を生み出そうとするのでもなく、ひとえに生きることの悲しさ、わからなさ、喜びを音楽として奏で、深く深く命を潜った場所で、あなたに出会いたいと願っている。

『狂詩曲(Rhapsody)』 Official Lyric Video

 透明感のあるピアノの音、重く響くベース音。メロディアスでありながらダイナミックな躍動感も持つサウンドは幻想的で、同時にとても肉体的だ。美しいバラードのようだが魑魅魍魎と交信するような壮大さがあり、ダンスミュージック的でありながら「みんなで一緒に踊りましょう」というユニティ感ではなく、1人きりで人生を歩く、その歩調に寄り添う優しい孤独感がある。アヴちゃんの天性のリズム感、音と言葉の律動をしなやかに操る音楽的運動神経のよさによって、女王蜂の音楽は特定のジャンルに縛られることもなければ、限定的な受け止め方を聴き手に求めることはない。音も、言葉も、自由に波打ち、飛び回る。それに「こう楽しめ」と断定しないのは、音楽をただの機能や装置として扱わず、“命の表現”として扱うがゆえに生まれる繊細な温度感ゆえとも言えるだろう。昨年リリースされたシングル曲「01」のシャープな疾走感や、「バイオレンス」の獰猛さ、「火炎」の燃え上がるようなドープネス、「HALF」のハードロックなテイストなど、女王蜂といえばアグレッシブなサウンドを思い浮かべる人も多いかもしれないが、このバンドの音楽的な海はそこには留まらず、広く、深い。「狂詩曲」の、1曲の中で豊かなグラデーションを描くサウンドは、その事実を証明する1曲とも言えるだろう。

 女王蜂には「狂詩曲」にも通じるメロウなテイストの名曲たちがこれまでにも数多く存在する。例えば2015年リリースのアルバム『奇麗』収録の「売春」は特筆すべき1曲だ。今聴けば思えば「狂詩曲」へと至る女王蜂サウンドのプロトタイプとも言えるようなメロウかつダンサブルな1曲。“普通”な世界からの離脱を試み、2人だけの最果てを目指すカップルの壮絶な生き様を、一人二役を演じるアヴちゃんの2つの魂を往還するような歌唱によって表現したこの名曲は、後に「売旬 feat. 篠崎愛」、「売旬 feat. 志磨遼平(ドレスコーズ)」という2つの共演にも発展した。

女王蜂 『売春』(オフィシャルビデオ)

 昨年リリースされた8thフルアルバム『十二次元』に収録された「回春」も、女王蜂のメロウサイドを象徴する1曲。この「回春」は、曲のタイトルや歌詞のストーリー性、さらに「売春」のフレーズがさりげなく引用されていることをみても、世界観的には「売春」の後日談を描いた1曲として捉えることができる。豊潤なアンビエンスと打ち付けるビートが誰にも止めることのできない時の流れの残酷さを演出し、この世界から逃れ、最果てを目指した2人の切ない現在地を暗示する。どれだけ「大人」と呼ばれるレッテルを張られようとも、人はただ霧の中を彷徨う迷子のように生きる。アヴちゃんが一人二役を演じたこの曲にも、「回春 feat. 満島ひかり」という新たな声を取り入れたバージョンが存在する。

女王蜂『回春(Rejuvenation)』Official MV

 アルバム『十』のオープニングを飾る「聖戦」は、ストリングスを取り入れたドラマチックなサウンドが映える1曲だ。狂おしく鳴り響くストリングス、叫びのようなギター……そんな生々しい楽器の響きが、曲全体を荒れ狂う大海原のように激しく演出する。先に紹介した「売春」や「回春」のようなポップサウンドやストーリーテリング的な歌詞の世界観とは違う、より剥き出しの音と言葉によって、この曲は詩情を伝える。〈いつか笑える気がするわ〉、〈いつか笑える日が来るさ〉と繰り返す歌が突きつけるのは“1人の人間が生きる”ということのシンプルな壮絶さ。過去は消えず、未来は見えず、それでも消えることのない“生”への希求。リアルな生命力が発露するこの曲もまた、女王蜂の1つの側面を象徴する楽曲と言えるだろう。

女王蜂 『聖戦(Holy War)』Official MV

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