大森靖子は“あなた”と一対一で向かい合う 声を枯らす絶唱がファンの熱狂を生んだ生誕祭ライブ

 そしてステージにシンガイアズが登場。メンバーは畠山健嗣(Gt)、あーちゃん(Gt)、えらめぐみ(Ba)、sugarbeans(Key)、カメダタク(Syn)、ピエール中野(Dr)だ。そしてステージに現れた大森靖子は、「ミッドナイト清純異性交遊」のイントロが鳴るなか、「マジックミラー」を歌いだし、そこから「ミッドナイト清純異性交遊」へ。会場後方からフロアを見ていると、落ちサビでのピンクのサイリウムの海は圧巻だった。これと同じ光景を、大森靖子はステージから見ていたのだろう。さらに「ANTI SOCIAL PRINCESS」「愛してる.com」と続けた。

 MCでは、大森靖子が「大森」と叫ぶと、ファンが「靖子ー!」と叫び、大森靖子が「本名を呼んでくれてありがとうございます」と言ってファンを笑わせ、ピエール中野をいじる一幕も。そして、言うのを我慢していたという「死にたい」という言葉を絶叫すると、「ドグマ・マグマ」が始まった。「JUSTadICE」「7:77」は激しいロックが続くゾーンだ。

 この日発売された『THIS IS JAPANESE GIRL』の収録曲は、「小悪魔的ッ☆相当キレてる」「絶対運命ごっこ」でようやく披露された。ただし、「小悪魔的ッ☆相当キレてる」は先行配信済みで、「絶対運命ごっこ」はMAPAへの提供曲と、ともに既発曲であるところに生誕祭の性格が表れている。代表曲を優先するのでもなければ、ニューアルバムの新曲を優先するわけでもない。

 私はここ最近、「絶対運命ごっこ」のMAPAバージョンと大森靖子バージョンをともに繰り返し聴いていた。この日に公開された、私による大森靖子のインタビュー(※)の中で、「絶対運命ごっこ」を『THIS IS JAPANESE GIRL』に追加収録した意図について、大森靖子は「自分で縁に始末を付ける曲」と語っていた。その潔さと、歌詞に滲む葛藤は深く胸に刺さる。淡く血がにじむような感覚に陥る。だからこそ繰り返し聴いてしまう。そして、生誕祭であえて「絶対運命ごっこ」を歌うことに胸が震えた。この日のハイライトだと感じたほどだ。そのカタルシスは、山崎育三郎への提供曲「光のない方へ」でも続いた。

 「アナログシンコペーション」「S.O.S.F. 余命二年」と続くなか、大森靖子の声が枯れはじめていた。終演後に聞いたところ風邪だという。それなのに「VOID」は2度繰り返し演奏された。「VOID」は、若い女性ファンの声が会場に響く、今の大森靖子の現場を体現する楽曲だ。しかも2回目の「VOID」ではBPMが上がっていた。

 アンコールに応えて再び大森靖子が登場すると、すっと右手を上げた。それを見て、次の楽曲を察したファンたちが、sugarbeansのピアノとともに歌いだす。「オリオン座」である。〈ボリューム上げた〉という歌詞のところで、ファンの歌声のボリュームも上がる。大森靖子と一対一で向かい合っているかのような感覚、今この瞬間だけでも世界のすべてがここにあるかのような感覚に包まれた「オリオン座」だった。

 「オリオン座」が終わっても、ファンの「靖子」コールは止まらず、大森靖子はいつものようにステージに深く頭を下げて去っていった。大森靖子の誕生日はまるで約束の日のようであり、『大森靖子生誕祭 2024』の余韻をそれぞれに噛みしめ、多少の波乱があったとしても、また次の生誕祭での再会を求めて1年を過ごすのだろう。ファンも、大森靖子も。

※:https://realsound.jp/2024/09/post-1783888.html

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