「大森靖子はいいぞ」同じライブは二度とない『KILL MY DREAM』ツアー sugarbeansとの横浜BAY HALL公演

大森靖子、一触即発のライブ

 大森靖子がツアー『大森靖子 KILL MY DREAM TOUR 2023』を6月17日、横浜BAY HALLで開幕した。ツアーとしては四天王バンドとの『超天獄ZEPP TOUR』以来だが、その後もファンクラブイベントやサーキットライブ、対バン、5月の『歌舞伎町大森靖子祭〜あの街を歩く才能がなかったから私新宿が好き〜』など、現タームの彼女はライブ期と言っていいだろう。今回は10月まで続くツアーで、ホール、ライブハウス、教会など様々なシチュエーションで、弾き語り、sugarbeansとのデュオ、そこに山之口理香子を加えた“自由字架”スタイル、sugarbeans、設楽博臣、千ヶ崎学、張替智広、宇城茉世(MAPA)の四天王バンド、ファイナルは大森靖子+四天王バンドに山之口理香子が加わるオールスターと、スタイルも多彩。かつ、毎公演違うセットリストで開催された、『超自由字架ツアー2022』でも見せた即興ライブも盛り込まれる。弾き語りが即興である彼女が、昨年から積み重ねてきた面々とどこまで一触即発のライブを見せるのかにも自ずと期待値が高まるツアーなのだ。

 『KILL MY DREAM TOUR 2023』初日の横浜BAY HALLは、今回のグッズである「大森靖子はいいぞ」の文言をあしらったピンクのTシャツを着た観客、カジュアルな服装だがヘッドドレスを装着している観客、週末の横浜に遊びにきた佇まいの人と実に多様だ。声出しがまだできなかった昨年夏(『超自由字架ツアー』)、同じ横浜でも関内ホールに漂っていた緊張感が懐かしく感じられるほどだ。

 ステージに近いフロアは椅子席だが、開演前から既に立ち上がって大森とsugarbeansの登場を待つ会場のムードはライブハウスのそれだ。大森本人が演奏し録音した、バダジェフスカのピアノ曲「乙女の祈り」のSEとともに大森とsugarbeansが現れる。オープンナンバーは一際ポップなメロディが冴える「ミッドナイト清純異性交遊」で、サビ前のメロディに合わせてピンク色のサイリウムが意思を持った生き物のように揺れる。観客一人ひとりと目を合わせるようにフロアを指差す大森もsugarbeansも、溢れんばかりの笑顔だ。間髪入れず「絶対彼女」に突入し、久しぶりの〈絶対女の子がいいな〉のシンガロングそのものが歓喜に溢れる。〈農家に感謝!〉と声を合わせる「×○×○×○ン」、MAPAの「蒼夜ミルキーロード」と、カラフルなナンバーを続けて届け、sugarbeansとのデュオは彼女のメロディメーカーとしての才能を最も明快に聴かせるスタイルだと改めて思う。震える声が明快に聴こえる「アナログシンコペーション」はアコギをピアノリフにリアレンジした伴奏で、sugarbeansとビビッドに呼応。観客も大森の指揮を振るアクションに共鳴していく。

 MCでは今回のツアーはコロナ禍で全公演が延期になった『SEIKO OOMORI UGLY DREAM TOUR 2020』から、チームがライブの現場を繋いできたことへの感謝も込めていると話していた。リリースを伴わないツアーというだけでなく、超歌手・大森靖子のライブという日常とはかくも変幻自在で音楽的であることか。それを証明するのもまたライブでしかないのだろう。

 ドスの効いた声にライブアレンジしたAメロ、〈世田谷なんか住んでたまるか〉を〈横浜〉に替えて歌った「超天獄」、オリジナルのポップネスとはまた違うアーティスティックな表情を見せた「TOBUTORI」で、一旦、sugarbeansはステージを後にした。

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