bird、25年間におよぶシンガーとしての旅路 大沢伸一や冨田恵一らとの出会い、自分らしさを更新してきた音楽人生
他者とのコラボの中で発見した“自分らしさ”
ーー3枚目のアルバム『極上ハイブリッド』は大沢さんから離れて、初めてのセルフプロデュース作品となりました。山崎まさよしさん、田中義人さん、ピアニカ前田さんらを迎えて楽曲の幅を広げてみせた作品でしたが、いろんな人とコラボレーションすることで自分の新しい面がもっと引き出されるだろうという思いがあったんですかね。
bird:私にとって歌は、喋ることよりも書くことよりも人とコミュニケーションできるものなので、せっかくならもっといろんな人たちと音楽をやってみたい。そういう純粋な理由だったと思います。そうすることでもっと幅が広がるだろうなと。
ーー前の2作は大沢さんが作曲して、ボーカルディレクションもやって、どのテイクにするかの決定も行なっていたわけですが、このアルバムで初めてbirdさんご自身が歌のジャッジをして、テイクの決定もするようになったんですよね。それについてはどうでした?
bird:1枚目と2枚目は歌うことだけに集中していればよかったけど、歌のジャッジを自分でするのはこの3作目が初めてでしたので、ドキドキだったのを覚えています。ギターのテイクひとつとってもそうですけど、自分はどれをいいと思っているかの意思表示をはっきりしないと前に進まない。大変だった部分もあったけど、あの段階でそういう経験をできたことは、今はすごくよかったと思いますし、糧になっている気がします。
ーーアルバム4作目『DOUBLE CHANCE』ではジェシー・ハリス、イヴァン・リンス、川口大輔さん、田島貴男さんらとコラボレーション。初のコンセプトアルバムとなった5作目『vacation』でも田島貴男さん、堀込高樹さんらを迎えていました。大沢さんとの1作目・2作目がざっくり言うとR&B、ジャズ、クラブミュージック的なものだったとしたら、『極上ハイブリッド』からの3作は広くポップスを歌っていた時期という印象です。
bird:田島さんと一緒に作った「チャンス」がロックテイストだったりとか、この時期にジャンルが広がった感じはすごくあって、こういうタイプの曲はこう歌うとこんな感じになるんだみたいなことをいろいろ味わえた時期でした。あと、『vacation』では田島さんから歌詞の書き方のアドバイスをもらって、それもありがたかったですね。『vacation』は仮想の島で一日過ごすというテーマだったんですけど、それだったらもう少し描写を具体的にして、風景とかも書いてみたら?と言われて。それと、マイクの前に立ってどういう感じでモニタリングしながら歌うといいかなど、歌に対する姿勢もいっぱい教えてもらいました。
ーー2006年にはご出産されて、そのあと6枚目のアルバム『BREATH』がリリースされました。
bird:人が生まれて亡くなるまでをコンセプトにアルバムを作ろうと思って、作業を進めていくなかで妊娠していることがわかったんです。だったら産んでから“生まれる”というテーマの曲を作ろうと思って、それでできたのが「ファーストブレス」。そんなふうにして『BREATH』が完成しました。
ーー妊娠~出産を経て、声の変化はありましたか?
bird:お腹がどんどん大きくなって下半身に重心が乗ったときに体感としての安定があって、歌いやすくなったんですよ。なんかこうガッシリかまえられるというか。この感じもなかなかいいなと思ったことを覚えてます。それによって声が太くなったのかどうかは自分ではわかりませんけど、支えがあって歌いやすいなと。
ーー『BREATH』は冨田恵一さん(冨田ラボ)がプロデュースを担当した初めてのアルバムでしたね。
bird:はい。でもその前に『極上ハイブリッド』の「うらら」という曲でご一緒したのが最初ですね。そのあと冨田ラボに呼んでいただいて「道」という曲を一緒に作り、いつかアルバム1枚丸ごとご一緒できればいいなとずっと思っていて、で、壮大なテーマということもあって『BREATH』のときにお願いしたんです。
ーー冨田さんとは後に『Lush』と『波形』という素晴らしいアルバムを2枚作っていますが、2006年の『BREATH』からそのまま共作が続いたわけではなく、2007年にはユニバーサルミュージックに移籍してカバーをやられていましたよね。マルコス・ヴァーリのタイトルで有名なラテンスタンダードの「BATUCADA」、真心ブラザーズの「サマーヌード」といったカバーシングルを出して、カバーアルバムも発表した。あの時期のことはどう捉えていますか?
bird:大学生の頃にアレサとかいろんな人の曲をカバーしていましたけど、真似をしながら上手く歌えればOKという感じだったんです。でもデビューしてからは、どうしたら私の歌はbirdの歌になるんだろうか、どういう歌い方がbirdらしいのかと、しばらく考え続けていた。それがようやく落ち着いたというか、今の私が歌えば自ずと私の歌になるんだ、全部自分に帰ってくるんだから堂々と歌えばいいんだっていうふうに思えたのがその時期で。特に「BATUCADA」が自分のなかで大きかった。あの曲を歌ったことで、気持ちが開けた感覚があったんです。
ーーユニバーサルでのカバープロジェクトが終わると、再びソニーに戻って、2011年にアルバム『NEW BASIC』を発表しました。
bird:その頃はライブをたくさんやっていましたね。で、たくさん一緒にライブをしてた(江川)ゲンタさん、田中義人さん、金子雄太さんと、ライブの流れで作ろうとなったのが『NEW BASIC』でした。
ーーライブ音源とスタジオ音源が継ぎ目なく繋がった作品で。その両方の温度差をなくすようなアプローチでしたね。
bird:3人がThe N.B.3というバンドになって、スタジオでも「せーの」で録音しましたし、ライブテイクのほうはお客さんの声援もめっちゃ入っている。その時期のライブの躍動感みたいなものをうまく作品として残すことができたと思っています。
ーー2013年のアルバム『9』は、The N.B.3改めThe N.B.4と一緒に録った作品で、先にライブで披露していた曲が多く収録されたものでしたよね。
bird:そうそう。ベースの澤田浩史さんがバンドに入ってくれての作品でした。N.B.はニューベーシックの略。すごく面白いチームで、やっていて楽しかったですね。
ーーそのバンドでのライブが活性化するなか、アコースティックライブシリーズ『そうだ 〇〇、行こう。』を始めたのもその頃で(2011年にスタート)。あれはどういうきっかけで始めたんですか?
bird:ギターの樋口直彦さんにはそれを始める前からライブでお世話になっていて、イベントとかにふたりで出ることもあったんですけど、あるとき樋口さんが「もっと細かくいろんなところを回って、2時間くらいのセットもふたりだけでやってみようよ。ライブハウスだけじゃなくて、その土地土地のいい雰囲気のところがあったらそこに行ってやってみようよ」と言ってくれて、それで始まったんです。
ーーあのシリーズを始めたことはbirdさんのなかでかなり大きなことだったんじゃないかと思うんです。ツアーではなく、もっと身軽にいろんな場所へ行って、その土地の人たちと触れ合いながら歌をうたう。暮らしと歌うことがより近いものになったんじゃないかと。
bird:本当にそうなんですよ。それ以前は、アルバムを作る、プロモーションをやる、ツアーをやる、少し休んでまた作るみたいなサイクルがあったのが、『そうだ』のシリーズを始めてからは年中どっかに行ってライブをやって、そのなかでゆっくり作品を作るというサイクルに変わっていった。そうなるとライブと日々の暮らしがより密着する感じになり、演奏も来てくださった人たちとの距離がすごく近いところでするので、みなさんとのコミュニケーションもより楽しくなって。と同時に、私の歌と樋口さんのギターだけでやるから精神的にも肉体的にも鍛えられるんです。どっちかが倒れたら終わりというような緊張感もありますから、必然的にグッと力がこもる。そういう意味でも自分のなかですごく成長できる場所なんですよね。いつも「まずはやってみよう」と言って背中を押してくれる樋口さんの存在はやっぱりすごく大きいなと感じます。
ーー2015年には冨田恵一さんとガップリ組んだアルバム『Lush』をリリース。そして2019年にはこれも冨田さんと組んで『波形』という傑作をリリースしました。このふたつは連作のようなところがあり、エレクトロ~ジャズR&B的なサウンドはその当時のUSの最先端の音楽ともシンクロしていて、めちゃめちゃかっこよかった。新しい音楽、時代に合ったクールな音楽をやりたいという意識がbirdさんのなかにあったのでしょうか。
bird:冨田さんは常にいろんな音楽をいっぱい聴いている方なので、そういう意図はあったと思います。でも私自身はそういう意識はあんまりなかったですね。今アメリカでどういうサウンドがかっこいいとされているのかとか、正直そういうことには疎くて。それよりも、これをどうやって歌ったらいいだろう? とか、そっちに意識がいっている。時代に乗れているかどうかといったところは、自分はそんなに考えていないんです。本当はもっと意識したほうがいいんでしょうけどね。
ーーデビュー20周年のときに出た2枚組ベストアルバム『bird 20th Anniversary BEST』のブックレットにも書いたことですが、2000年代の初め頃にインタビューした際、birdさんがこう言っていたのをよく覚えているんですよ。「“時代に乗らな”みたいな感じはまったくなくて、それよりも“自分のタイミングに乗れ“って感じですかね」。デビューして1~2年の頃の発言ですけど、ずっとその感じでここまでやってきたんだな、一貫してるなって思って。
bird:そんなこと言ってたんですね(笑)。でも、そうなんでしょうね、きっと。って、他人事みたいに言うのもなんですけど、そこはこれからもそんなに変わらないと思います。そういうスタンスは変わらないけど、でも自分の声との向き合い方に費やす時間は歳を重ねて確実に増えているので、そこは自分でも興味深い。
ーー声の変化ということですか?
bird:変化だったり、それとどうつきあっていくかだったり。やっぱり長く歌っていると、カラダと共に声の変化というのは当たり前にあることで。それがいい方向に出ることもあれば悪い方向に出ることもあるわけですけど、でもそこが面白い。面白い楽器だなぁって思いますね。買い替えはできないので、それとどう上手くつきあって続けるのかということをよく考えるようになりました。当然20代の頃のようには歌えない。じゃあどう歌うのか。立ち止まって向き合う時間が増えましたけど、それは自分にとってすごく興味深いことだし、追求しがいのあることなんです。
ーーでは9月18日に出る『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』の話も少しだけ。re-edit bestということで、これまでの代表曲や人気曲をショート・バージョンにリエディットして収録しているんですよね。CD1枚に少しでも多く曲を収録するためにこうしたんですか?
bird:90年代や2000年代初めの頃の音楽って、1曲が長いんですよ。7分以上の曲とかもけっこうあって、傾向としてそういう曲がいいとされていた時代だったんだと思うんですけど、今はもっとコンパクトになってきて、3分台の曲だったりが主流になっている。短い曲のほうが多く聴かれる傾向にあるみたいです。今回のベストで初めて私の曲を聴いてくださるという人もきっといるでしょうし、今まで私がどんな曲を歌っていたのか知ってもらいたい気持ちもあるので、それならば短くして軽やかに聴いてもらうのがいいんじゃないかと。リエディットされたことで私自身も新鮮な気持ちで聴けるし、今まで聴いてくださっていた人たちも軽やかに楽しんでもらえるものになっていると思います。
ーー因みにジャケットの写真が左を向いたbirdさんの横顔で、デビューアルバム『bird』を想起させますね。
bird:1stアルバムのときは私の鳥の巣ヘアが前にせり出してましたけどね(笑)。まあ、「SOULS」も新しくなって入っていますし、1stアルバムを知ってくださっている方は「おっ!」って思っていただけるんじゃないかと。
ーー確かに。そして25周年を記念してのライブもビルボードライブであるんですよね。
bird:はい。『“25th Anniversary Best” Live!』ということで、長くおつきあいしているミュージシャンのみんなと、いろんな曲をやりたいと思っています。
ーー最後にもうひとつ。もう新しいアルバムを作っていると、先ほどスタッフの方から聞いたんですが。
bird:そうなんですよ。詳細はまだお伝えできないんですけど、実はもうほとんど完成に近づいてまして。今回は今まであんまりしてこなかったことをやりたいというのがあって、コラボレーションをやってみているんです。「feat.bird」というふうに誰かの作品に呼んでいただくことは多かったんですが、自分の作品にお呼びする機会はあまりなかったので。
ーーコラボアルハムということですか?
bird:ではなくて、アルバムの何曲かで私が一緒にやってみたいと思っていた人をお招きして。
ーーそれはめちゃめちゃ楽しみ!
bird:かっこいいものができそうなので、楽しみにしていてください。
■リリース情報
bird『25th anniv. re-edit best + SOULS 2024』
発売中
パッケージ版価格:¥3,500(税込)
CD 1枚
<収録曲>
1. SOULS (Main) 【2024 re-edit】
2. BEATS (Original) 【2024 re-edit】
3. マインドトラベル 【2024 re-edit】
4. マーメイド3000 【2024 re-edit】
5. 桜 【2024 re-edit】
6. flow 【2024 re-edit】
7. フラッシュ 【2024 re-edit】
8. ふくらみ 【2024 re-edit】
9. ハイビスカス 【2024 re-edit】
10. 夕暮れの少年 【2024 re-edit】
11. ファーストブレス (Original Ver.) 【2024 re-edit】
12. SPARKLES 【2024 re-edit】
13. パレード 【2024 re-edit】
14. Flowers 【2024 re-edit】
15. RUN 【2024 re-edit】
16. 明日の兆し【2024 re-edit】
17. タイドグラフ (2024 re-edit)
18. ミラージュ 【2024 re-edit】
19. 記憶のソリテュード 【2024 re-edit】
20. LIFE 【2024 re-edit】
21. SOULS 2024 Shinichi Osawa ver.
■ライブ情報
『25th Anniversary Best 2024』
公演日時
【ビルボードライブ大阪】(1日2回公演)
2024年9月18日(水)
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 / 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
【ビルボードライブ東京】(1日2回公演)
9月27日(金)
1st Stage Open 17:00 Start 18:00 / 2nd Stage Open 20:00 Start 21:00
詳細:https://www.110107.com/s/oto/page/bird25th
birdデビュー25周年特設サイト:https://www.110107.com/bird25th
bird official site https://www.bird-watch.net/
bird official X https://twitter.com/birdwatchnet
bird official Instagram https://www.instagram.com/birdwatchnet
bird official YouTube Channel https://www.youtube.com/@birdfromkyoto
bird official Facebook https://www.facebook.com/birdwatchnet