NewJeansやJP THE WAVYら“最先端”と交わる村上隆 その作家性と精神性、見据える未来とは?
今年7月10日、現代美術家 村上隆とラッパー JP THE WAVYのユニット“MNNK Bro.”が1stシングル『Mononoke Kyoto』を配信リリースした。本作発売を記念したクラブイベント『Mononoke Night -京都編-』も、京都・WORLD KYOTOにて8月23日に開催されている。“コラボレーションキング”とも呼ばれるポップアートの巨匠は、今日までに様々なアーティストやブランドと手を組んできた。ビリー・アイリッシュやカニエ・ウェスト、ファッションブランドのLOUIS VUITTON、アクセサリーブランドのLiquemなど、これまでにコラボした対象を挙げれば枚挙に暇がない。
今年6月にはK-POPガールグループ NewJeansとコラボし、日本デビューシングル『Supernatural』で村上のデザインがアートワークや特典のビジュアルに起用された。本作に収録されている「Right Now」のMVには村上の象徴とも言える“レインボーフラワーさん”が登場し、双方のファンの目を強く引いた。同月、東京ドームで開催されたNewJeansの日本単独公演『NewJeans Fan Meeting 'Bunnies Camp 2024 Tokyo Dome'』では、メンバーと記念撮影を行った村上の姿も公開された。
本稿では、村上の作家性を今一度整理するとともに、それが昨今のポップカルチャーにどのような影響をもたらしているのかを考えていきたい。
日本のポップアートの話をするときに高い確率で重要なトピックとして挙がるのが、村上が1998年に発表した「My Lonesome CowBoy」である。「HIROPON」(1997年)とともに、本作は自身が標榜する“スーパーフラット”を代表する作品に数えられる。男性器から射精された精液をロープのように振り回すアニメ風のフィギュアは、2008年にオークションハウス・サザビーズで1510万ドル(当時の為替レートで約16億円)で落札された(※1)。
“スーパーフラット”の考え方については、ニューヨークとロンドンに拠点を置くメディア『The Art Newspaper』が2023年8月に掲載したインタビューの中で、村上は以下のように語っている。
「私の“スーパーフラット”論とは、太平洋戦争の敗北後、荒廃し、焼け野原となり、完全な焦土と化した国土から立ち直れない日本人の現在、そしてその平坦な荒野から生じる歪んだコンプレックスのことです」(※2)
また、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで発行される英紙メディア『The National』は村上の作家性について次のように述べている。
「戦後の日本で育った村上は、西洋美術における構図の形式や“ハイ”と“ロウ”というヒエラルキーを超越する方法として、伝統的な日本画、版画、アニメを融合させた独特のポップアートのスタイルを確立した」(※3)
対西洋的な見方が重要視されている影響なのか、西側諸国以外にも村上に関する文献は非常に多い。念のため補足しておくと、ここでいう“ハイ”とはハイアート=高級芸術、“ロウ”はロウアート=大衆芸術を示しているのだろう。さらに、“対”とは英語で言う“against”ではなく、いずれも“to”や“for”のニュアンスに近いのだと思う。すなわち、日本のポップカルチャーを西洋に発信/紹介する意図があったと推測できる。日本風のアニメがデフォルメされた例として、ビリー・アイリッシュによる「you should see me in a crown」のMVが分かりやすいかもしれない。
一方で、本人も「自分は日本のクリエイターに嫌われている」と語るように、村上には“オタク文化を流用/盗用している”という批判が度々つきまとう。これに対し、彼は折に触れてアンサーを返しているが、森美術館の公式YouTubeチャンネルにて公開されている「村上 隆 アーティストトーク MY WORK【森美術館 ラーニングONLNE】|Artist Talk “MY WORK” - Takashi Murakami」の中で、村上は次のように語った。
「僕の表現で、日本の方がほとんど嫌いなのが、日本の文化のパクリなんじゃないかって事なんですけど、ちょっと待ってくれと」
「『魔法使いサリー』だって、アメリカのテレビプログラムである『奥さまは魔女』の影響下にあると思うんですよ。影響を受けたものを自分なりに解釈して、違ったルールのところに乗っけるってのがオリジナリティなわけであって、そのオリジナリティの作り方に対する考え方が非常に幼稚というか、理解が浅い。パクリとオリジナルの境界線を短絡的に考えがちなのが、日本のクリエイティブにいる人たちですかね」
当動画の中で「このビデオが30年後とかに意味を発揮してくるのが、僕ら(アート)の世界なんです」と語られているように、村上は常に未来を見ている。彼にラブコールを寄せる一大勢力のひとつがヒップホップであることも、偶然ではないように思える。“サンプリング”という他作品/他ジャンルからの援用を重要な表現のひとつとするラッパー/ビートメイカーは、まさしく村上的なオリジナリティを追求してきた。カニエが村上にアートワークを依頼したアルバム『Graduation』は、2007年9月にリリースされた。本作に収録されている「Stronger」は、Daft Punkの「Harder, Better, Faster, Stronger」を極めて明確にサンプリングしており、自身とは異なるジャンルからの援用の顕著な例として挙げられるだろう。