汐れいらという“新しい才能”の誕生 1st EP『No one』創作秘話、物語の紡ぎ方に迫る

汐れいら、『No one』創作秘話

 2002年生まれのシンガーソングライター、汐れいらは“すごい”。いわゆる、実体験に頼らない創作への向き合い方が独特であり、それでいて解像度の高い、共振力ある物語を紡いでいく驚異の表現者である。取材当日、発せられた言葉の一つひとつに魅了され、つい夢中になりすぎて時間をオーバーしてしまうほどに創作秘話の一編一編が気になった。8月14日にリリースされた1st EP『No one』の登場で、汐れいらの存在はより名を馳せていくべきだと確信した瞬間だ。ぜひ、汐れいらが音楽へと向き合った渾身の作品集『No one』(CD + LIVE Blu-ray映像 + 小説風ブックレット)に触れて、その作品力の凄みを立体的に体感してほしい。新しい才能の誕生だ。(ふくりゅう)

“座布団スタイル”の路上ライブに至るまで

――まず、汐さんが音楽を好きになったきっかけから教えてください。

汐れいら(以下、汐):小さい頃から音楽が身近な環境だったんです。親がよく連れていってくれたのが、音楽BARのようなところで。当時は、ずっと音楽が鳴っているし、あまり喋っちゃダメみたいな空気を感じていたりはしたんですけど(苦笑)。幼少期から歌うことはずっと大好きだったんですが、逆に小学生ぐらいからはただカラオケが好き、という感じに落ち着いて。特に音楽を聴く習慣もなく、歌って褒められるから歌うのが好き、みたいな感じでした。

――自分で詞曲を作って、自己表現をするようになったきっかけは?

汐:高校生の頃に軽音部に入ったんです。周りが曲を作り始めたっていうのもあるんですけど、自分たちのバンドはコピーが苦手というか下手だったんです。それで、自分の歌いやすい音程でメロディと歌詞を作ったら、周りからも“オリジナル曲のほうがいいよ!”って言われるようになり、絶対にこの方向性でいった方がいいなって。それから自分で作るようになりました。

汐れいら(撮影=三橋優美子)

――その後、芸術系大学の文芸学科へ進まれたそうですね。物書きへの目覚めも早かったんですか?

汐:小説を書きたいと思っていたのは小学生の頃です。でも、だんだんと世間的に狭き門だということに気づかされるんですね。自分で話を書くのは好きだけど、それを仕事にして受け入れられるかはまた別だなと。音楽もそうなんですけどね。でも、音楽の方が好きだった。文芸学科に入ったのは歌詞に役立てたいなって思ったことがきっかけです。お話を書くこと自体は好きだし、芸術学部は他の学科の講義も受けられるのが強みだったんですよ。でも、コロナ禍のタイミングに重なり、リモートばかりになっちゃって。「これって意味あるのかな?」って思いつつ、大学に通いながら働いていたら音楽をする時間すらなくなってしまいました。小説は好きだけど、小説家になりたいわけじゃないし……。楽しかったけど、学校に通っている意味あるのかなと思って。そんなことを考えていたときに、今の事務所に声をかけてもらいました。

――そうなんですね。声がかかったのは、いろいろな活動をしているなかで?

汐:バンドをやっていたので、その頃ですね。最初は趣味でいいと思っていたんですけど、趣味の感覚でやっている人たちが集まると、やっぱりバンドとしての活動は滞っていくというか。多少本気じゃないと続かないよなって思うようになって。そんな頃に、声をかけてもらったんです。大学も辞めようと思っていたし、ちょうどいいタイミングでした。

――“座布団を敷いて胡座をかいて歌っていた”という路上ライブは、それから?

汐:それからですね。

@ushio_29

路上はお座布団スタイル #汐れいら #センチメンタル・キス #路上ライブ

♬ センチメンタル・キス (Acoustic ver.) - 汐れいら

――路上ライブの経験は大きかったんじゃないですか?

汐:大きかったですね。最初からライブハウスでやるよりも緊張しませんでした。でも、大勢の方に観てもらえるときと観てもらえないときの差はもちろんあって。ライブ本数的には、そんなに多くなかったと思うんですけど、路上ライブのおかげで、ライブハウスでのライブも自然にやれるようになりました。

ある一面だけを見て、「それが汐れいらだ」と決めつけられたくない

――なるほど。そうやってライブを重ねるなかで生み出された作品の創作コンセプトやテーマが面白いと思っていて。シンガーソングライターだけど、自身の体験にこだわらずに創作するスタイルなんですよね?

汐:はい。

――そこに至ったのは、どんな考えがあって?

汐:私、逆に体験してることで曲が書けなくて……それだと、簡単な言葉になっちゃうんですよ。自分が体験した感情を書こうとすると、みんなが言うような“面白い”とか“楽しい”、“嬉しい”みたいな言葉になってしまって、細かい表現に繋がっていかないんです。体験せずに、想像する方が書けるんですよ。

――ちなみに曲は、どのようにして作られるんですか?

汐:メロディからが多いですね。メロディの色が自分の中にあって。“何色っぽいな”みたいなところから、メロディや文字から感じる色を混ぜ合わせながら描いたり。“これを書こう!”って決めて書くより、連想ゲームみたいな感じで少しずつ描いていくと、勝手にお話ができてくれるみたいな感覚なんです。

――登場人物の設定は考えたりしますか?

汐:それも書いているうちにできていきます。こんな主人公っていう人物像もだんだんできてくるので、ざっと書いて少しずつ直して、って感じですね。

汐れいら(撮影=三橋優美子)

――今回、汐さんご自身で手がけた楽曲それぞれの書き下ろしストーリーが短編小説のようにブックレットに収録されています。その物語は、楽曲が出来上がってから広げた感じですか? それとも、最初からイメージとしてあったのでしょうか?

汐:大まかにはあったんですけど、細かいところは後から読みやすいように繋げたりしました。ほとんどは曲ができたときに一緒に自分の中でストーリーも書いているんです。

――歌詞の解釈を伝えてくれる機能にもなっていて素敵だと思いました。こういう曲や歌詞を書きたい、という具体的なものはあるのでしょうか?

汐:私、“こういう曲をやってるよね”というのが共通してほしくないというか、共通認識でありたくないっていう思いがあって。みんなには、それぞれ楽曲ごとに異なるイメージで見えていてほしいなと思っています。

――いわゆる、キャラクター色の強いシンガーソングライター像とは異なるタイプですよね。

汐:ある一面だけを見て、「それが汐れいらだ」と決めつけられたくないという気持ちがあって。自分的には“わかった気になられない”のが、いいなと思っています。

汐れいら / センチメンタル・キス Acoustic ver. (full)【Official Music Video】

――なるほど、少し見えてきた感じがしますね。また、コロナ禍という大変な状況の中、ABEMAの恋愛リアリティ番組『彼とオオカミちゃんには騙されない』がトリガーとなり、「センチメンタル・キス(Acoustic ver.)」でバズが起きたことはいかがでしたか?

汐:う~ん、本当に実感がなくて。他人事じゃないですけど、自分の曲じゃない気分になって、“えーっ!”みたいな。もちろん嬉しいんですけど、客観視しちゃうというか。「センチメンタル・キス」で知ってくれたファンの方に声をかけてもらったことがあったんですが、そのときに「あ、すごい!」と思いましたね。

――作品に対して俯瞰の視点をお持ちなんですね。ファンやオーディエンスとコミュニケーションがとれるライブとは、汐さんにとってどのような場ですか?

汐:SNSへコメントしてくれることも嬉しいんですけど、その人自体を認識できないとなかなか実感がわかないんですよね。なので、ライブは“見える”から嬉しい。聴いてくれる人たちが少しずつ増えてきて、聴かれ方も聴かせ方もだんだん増えてきていることが、すごいなあと思っています。

――ライブをやることで、作品が成長する感覚もあるんじゃないですか?

汐:それはありますね。

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