汐れいらという“新しい才能”の誕生 1st EP『No one』創作秘話、物語の紡ぎ方に迫る
1st EP『No one』に込めた想い&収録曲の歌詞を解説
――そして、ライブで育ってきた曲が今回リリースされた1st EP『No one』にはたくさん収録されています。タイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか?
汐:これは、収録されている全ての曲の主人公が違うということですね。“誰のことでもない”、“誰もいない”という意味の“No one”と、1st EPなので“No.1”と読めるよう。そして、自分の中で1番を目指すという意味の“ナンバーワン”。ジャンルに囚われず、誰かわからない自分になりたいというか、そんな作品を作り続けたいなという思いでつけました。
――作品との距離感の取り方、自分というアイデンティティの捉え方が独特な気がしますね。ちなみに、子どもの頃はどんなお子さんでしたか?
汐:超主観人間というか。自己中というわけではないですけど、逆に客観的に見ることが一切できない子でした。感情も率直に言えたし、嬉しいっていう感情もストレートに捉えられていたと思いますね。いい意味でも悪い意味でも。それがだんだんと、気がついたら客観的に自分を見るようになって……冷静だねって言われるようになりました。自分としてはそういうつもりはないんですけど、昔と比べるとたしかに変わったなって。
――何かきっかけになった出来事があったんですか?
汐:生きていくにつれて、人間って信じられないなと思うようになって。本当に信じられないし、信じた私が悪かったなと思うことがあったんです。だから、何に対しても常に疑っていて……。一生自分が疑っていれば傷つかないし、期待しなきゃ失望しないじゃないですか? いろいろ考えていたら、今みたいな考え方に辿り着きました。
――そんな状況から、俯瞰の視点からの物語が生まれたと。
汐:はい。
――そういう部分に、ご自身が救われる面もありますか?
汐:自分の機嫌取りのために曲を書くことが多いんですよ。嫌なことがあったときに、いい曲ができるとテンションがあがるからいい曲を書こう、と。嫌なことを歌詞にするワケではないんですけど、気持ちが沈んでいるからいい曲を書いて盛り上げようみたいなところはあります。
――1st EP『No one』は、現時点の集大成であり、スタートラインにたった表現者、“汐れいらの名刺”となる作品集だと思いました。完成してみていかがでしたか?
汐:EPを作れると決まったとき、これもあまり自分ごとのように捉えられなくて。マネージャーさんのほうが喜んでくれたんですよ、「やったね!」みたいな感じで。でも、いざ作るとなるといろんな方々が関わってくれているし、、私も考えることがたくさんあって。いざ完成したら「すごーい!」ってやっと実感できました。応援してくれているファンの方に届いてほしいなって気持ちになりましたね。
――配信やライブでこれまで聴いていた曲も、あらためてこの曲順でパッケージ化されることで付加価値が高まるような気がしました。
汐:たしかに。1曲ごとにっていうよりは、並べて聴くと全部違う。歌い方もなんですけど、特に雰囲気が違うなと思っています。なので、曲を知ってくれている方でも、続けて聴いて“違い”を感じてほしいですね。私は「センチメンタル・キス」の印象が強いと思うんですけど、それだけじゃなくて、もっとカオスになればいいなって思っています。
――それこそ1st EP『No one』は、短編小説のような感じもありますが、そういった意識もありましたか?
汐:曲を書いてるときには、小説というかお話にもなるようなことを考えていましたね。お話にならないと完成しないんです、曲が。だから、曲とともにお話はできていきましたね。
――ちなみに1曲目の「糸しいひと」は、どのようなきっかけから生まれましたか? 物語の展開において、漢字の読み方がキーとなっていますよね。
汐:普段から頭の中で引っかかっていたことがあったんです。たとえば、音読みはそれだけじゃ意味がわからないものを音読みといい、意味がわかるものを訓読みっていうんですね。“愛”って文字も“愛しい”だと、“愛しさ”みたいなことで意味が通るけど、“愛”だけだと伝わらないっていう。そういう音読みと訓読みの違いを調べたことがあったんです。
――「糸しいひと」における創作の源泉に。
汐:言葉だけじゃ、全部を伝えきれないっていう考えがどこかにあって。たとえば、好きな人に言われる言葉って自分を幸せにしてくれるけど、そのぶん不幸せにもするよなと思ったり。そんなことを歌詞の文字を編みながら情景が浮かんで書いていったんです。曲の中で、男の子側は音読みみたいなわかりづらい愛を伝える、女の子側は訓読みみたいなわかりやすい言葉にして愛を伝える、という恋の話になりました。
――なるほど。
汐:だから、この歌詞の中でも“愛”が“イト”って読まれるときと、“アイ”って読まれるときがあって。男の子側からの愛を歌詞に書くときは音読みになるようにして、女の子側からは“愛”で“イト”って読ませるように書いたんです。
――わあ、面白いですね。構造、考察含め、物語を原稿用紙から離れて、俯瞰的にプログラミングのように構築されている凄さがある。
汐:いつか歌詞の解釈本を書きたいなってぼんやり思っていたので、こういう形で聞いてもらえて嬉しいです。
――続いて2曲目。「味噌汁とバター」は、ライブでも盛り上がる人気ナンバーです。詳細な情景が浮かぶ描写の細かさ、説得力ある筆圧にやられました。
汐:これは自分の中でも歌詞がよく書けたなって。今だったら書けないかも。全部そうなんですけど、1回書いた歌詞は、もう2度と同じようには書けないなって思うんです。
――毎回スタート地点に戻るというか?
汐:やりきって、いざ出来上がったら、「これ誰が書いたんだっけ」みたいな(苦笑)。歌詞に関しては「自分、ラッキーだな」って瞬間的に思いつくことが多いんです。〈緒切れた朝なら気分は最高!〉も、生まれたときから死ぬときまでを書くと決まったあとに、この〈起きれた朝〉とへその緒が切れて生まれたときっていう〈緒切れた朝〉のダブルミーニングができることに気付いて。〈かみのみそ汁話〉もそうだし。〈欲張らないのがミソ〉とかも、そうですね。
――味を噛み締めながら曲と触れ合うと、汐れいらの凄みに沼ります。次の「うぶ」はバージンロード、結婚を描いたいろんな目線からのバラード。物語もドラマのようですね。
汐:最初はラブソングを書こうと思っていたんですけど、やっぱり一辺倒に見せたくはなくて。そうなったときに、1番はお父さん目線で好きな人に書いて、2番からは好きな人との子供のことについてのラブソングにしようと書いている間に決まったんです。お父さんが人生でグッとくるときっていつだろうと思ったときに、娘が結婚するときかなって。バージンロードを歩きながら娘を思っているシーンが浮かんで書いていきました。あとは、歌詞での〈幾千の言葉より〉とか。幾千ってよく使われる言葉だけど、ちょっと臭いなぁと思っていて、それをどうやったら臭くない状況にできるのかなって考えました。ただのラブソングだったら、私が歌わなくてもいいじゃないですか?
――聴く人によって、さまざまな視点から心に刺さる曲なんですよね。すごい曲だなと。
汐:「うぶ」っていう、曲名のイメージができたのもラッキーでした。初々しさが生まれる瞬間がいいなと思って。
――そして、続いては一転してダンサブルかつ切ない「踊り場のサーカスナイト」へ。
汐:これはクラブに行ったことがなかったときに書いた曲です。クラブって個人的に少し怖いイメージがあって、ナンパとか性欲にあふれるイメージというか。想像で書き始めたら、メロディができたときにタイトルの「踊り場のサーカスナイト」という言葉が出てきたのでこれを使おう! って。そこからクラブのシーンへ結び付けて広げていきました。
――だから、ダンサブルなビート感やアレンジがハマっているんですね。
汐:サーカスっぽいというか、ダークな感じにしたくて。“踊り場”ってイメージだとアコギだけでは表現ができなかったのでああいうサウンドになりました。
――続く、低音が効いたアレンジメントがインパクト大きい「グレーハートハッカー」もイントロからドープでカッコいいですよね。
汐:もともと「ビーボーイ」って曲があって、それみたいなカッコよさが欲しくて。
――その流れなんですね。「ビーボーイ」も好きです。
汐:また、あの感じを作りたいという思いが、ずっと自分の中にあったんです。これは他の曲よりも遊んでるというか、特に最初の方は、リズム感を大事にして作っていきました。最後にはどんでん返しで落とした女の子がハッカーだったっていう。何においても、物語の結末はどんでん返しが好きなんです。そういう部分は曲の歌詞だけ読んでも絶対にわからないから、これはぜひ短編を読んでほしいな。物語に助けられているなと思います。
――そして、「Darling you」は王道なポップバラードでありながら、研ぎ澄まされた表現が魅力な1曲となりました。
汐:EPの中では、一番歌詞を熟考した気がします。この曲は「うぶ」と同じアレンジャーさんなんですけど、その人と“どのメロディを使うかをまず決めよう!”ってなって。この曲は、その中でずっと取っておいた「うぶ」で使われていなかったメロディを使いました。ただ、先にこういう雰囲気で書こうと決めていたので、メロディを指定されて書くのは難しくて。どうしようかなと悩んだんですが、綺麗な大人っぽい女の子をイメージで書いてみて、文字を見てもきれいだと感じる言葉選びにしたいなとイメージを膨らませていく中で歌詞が生まれました。
――言葉が持つ綺麗さが、すごく大事な曲なんだろうなと思いました。
汐:耳って大事だと思っていて。恋人との思い出で一番最初に忘れるのって、声らしいんですよ。声から忘れていくらしいんです。でも、人間が死ぬときも最後まで声は聞こえているっていうじゃないですか? 好きな人を忘れるときも、忘れようとして大事なところから忘れていくのかなと思ったんです。
――それは重いというかグッときますね……。もう一度じっくりと曲を聴き返したくなります。そして、続く「備忘ロック」は本当に音楽ドラマになりそうなスッと入ってくるお話で。物語のラストへの展開が絶妙ですよね。
汐:これは曲ができた瞬間に、一番先にお話ができていました。ただ、小説を書こうと思ったんですけど、ちょっとサボってしまったんですよ(苦笑)。でも、ライブでいつもお世話になっているサポートミュージシャンの方たちと録れて、楽器を一緒に弾いてもらっているので、それが本当に備忘録になった感じがあります。
――そして、本編ラストは「笑ってベイビー」ですね。電話でのトークからお話が展開していく軽快なロックチューン。
汐:もともとは高校生の頃のバンド時代に作った曲で。すっごい前の曲なんですけど、バンドを辞めて弾き語りを始めた頃に、みんなに良いって言ってもらえた曲なんです。それで、久しぶりに歌ったときに「たしかにいいかも!」って自分でも思えて。言葉とか幼さがあるんですけどね。
――その頃に作った曲は、まだいろいろありますか?
汐:うん、いろいろありますね。
――一度手離れした曲に、また手を入れたりもするんですか?
汐:1回できちゃったものは、手直しできなくて。1個変えると、他のところも変えなきゃってなっちゃうんですよ。
――では最後に、本作を携えてツアーも控えていますが、どんな感じになりそうですか?
汐:9月に『Ushio Reira One Man TOUR 2024 「No one」』を東名阪で開催します。まず、自分が今まで以上に楽しむことが大事かなって。まだツアーも2回目なんですよ。なので、1回目とは違う私を見せられたらなって思っています。楽曲もそれぞれ違うので、それぞれの作品に感情移入しながら1回1回切り替えができるように、ライブを楽しんでいきたいですね。
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■ライブ情報
『Ushio Reira One Man Tour「No one」』
9月7日(土)名古屋 HeartLand
OPEN 17:30/START 18:00
9月8日(日)大阪 梅田 Shangri-La
OPEN 17:00/START 17:30
9月14日(土)東京 代官山UNIT
OPEN 17:15/START 18:00
ローソン:https://l-tike.com/ushioreira/
イープラス:https://eplus.jp/ushioreira/
ぴあ:https://w.pia.jp/t/ushioreira-24/
『汐れいら Acoustic Tour ナラタージュ F/』
11月2日(土)札幌 musica hall cafe
OPEN 17:30/START 18:00
11月4日(月・祝)仙台 カフェモーツァルト
OPEN 18:00/START 18:30
11月15日(金)横浜 THUMBS UP
OPEN 18:30/START 19:00
11月22日(金)広島 Live Juke
OPEN 18:30/START 19:00
11月23日(土)岡山 岡山城下公会堂
OPEN 16:30/START 17:00
11月30日(土)名古屋 Live & Lounge Vio
OPEN 16:30/START 17:00
12月12日(木)京都 磔磔
OPEN 18:30/START 19:00
12月14日(土)福岡 ROOMS
OPEN 16:30/START 17:00
12月15日(日)熊本 ぺいあのPLUS
OPEN 16:30/START 17:00
12月18日(水)東京 duo MUSIC EXCHANGE
OPEN 18:30/START 19:00
チケット先行:https://l-tike.com/ushioreira/
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