Adoが国立競技場で叶えた夢とは何だったのか? 歩んできた物語のすべてを詰め込んだ一夜を振り返る
その後のアンコールでも驚きが待っていた。ステージにスポットライトが当てられたかと思えば、そこにいたのはAdo……ではなく、なんとB'zの松本孝弘。積み上げられたアンプをバックにレスポールを弾くギターヒーローとともに歌われたのは、もちろん「DIGNITY」だ。大きなバラのバルーンの上で歌うAdo。松本の弾くエモーショナルなギターとAdoの情感豊かな歌が強烈な相乗効果を生み出した。
さらにそこから、カラフルに光る鳥籠のようなゴンドラに乗って場内を一周するというパフォーマンスが披露される。「行方知れず」、「逆光」、「FREEDOM」とオーディエンスのすぐ近くで歌声を届けると、再びステージに戻ってきたAdoは、「しつこいかもしれませんが」と前置きしつつ、「私がここで生きているのは、歌い手とボカロのおかげです」と自らの出自を語り始める。そしてボカロと歌い手の架け橋になりたい、という願いを口にして、「その瞬間を今から作ります」と宣言とともにスクリーン上に初音ミクが現れた。リアルとバーチャルの垣根を超えたデュエットで歌われたのは、この日初お披露目となったまふまふ書き下ろしのコラボ曲「桜日和とタイムマシン」。歌い手であるAdoとボーカロイドであるミクが呼吸を合わせるように踊り、そこにふたりの声が重なる。彼女のルーツ、ここまで辿ってきた道のり、すべてが投影されたコラボレーションに、場内は割れんばかりの歓声に包まれたのだった。
Adoが再び語り出す。「私はもともと自分のことが大嫌いで、自分を大切にするということもわかっていませんでした。歌うことは好きでしたが、誰も認めてくれるはずがないじゃないかと思っていました。それでも私が歌い続けられたのは、小さな画面の向こう側にいたボカロと歌い手のおかげでした。私の愛する文化が、私の未来を信じさせてくれました。そして私は今この瞬間、その望んだ未来に立っています!」。感極まりながら叫ぶAdo。「今宵のライブが、ボカロと歌い手への恩返しになれば、何かの未来につながるきっかけになればとても嬉しいなと思っています。今日は私の歌を聴きにきてくれて、本当にありがとうございました!」。そして手拍子が鳴り響くなか、「心という名の不可解」が歌われる。自分の心と向き合い、細い糸をたぐるようにしてたどり着いた未来で響きわたるAdoの歌声は、ひとりの人間の苦しみも喜びもすべて体現するようで、とても人間的で美しかった。
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