「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.3:プッシュプルポットの本気が放つ生の実感 剥き出しのまっすぐさ

「石井恵梨子のライブハウス直送」Vol.3

 7月12日、一日中雨が続いた金曜日。こんな夜に蒸し暑い地下室へ誰が足を運ぶのかと思いきや、下北沢SHELTERはソールドアウトしていた。出演はOrganic Callとプッシュプルポット。正確には3rd EPを発売したOrganic Callが、ゲストにプッシュプルポットを迎えたツアーの初日である。ただ、開始からの50分間、少なくとも前半に関して言えば完全にプッシュプルポットのワンマン状態。スタート直後からもみくちゃになり最後はダイバーも続出したフロアの湿度は、雨模様の外よりさらに高い、100%に近いものだった。

 プッシュプルポットは石川県金沢市のバンドだ。ただしドラム・明神竜太郎を除けば地元は別で、それぞれ岩手、滋賀、長野から金沢の大学に進学、サークルで出会ったのが2017年となる。ちなみに岩手出身なのがギターボーカル 山口大貴で、遡ること13年前、彼が中学生の時に起きたのが東日本大震災だ。2019年に登場したデモ音源「13歳の夜」には、〈突然すべて失った〉当時の体験がリアルに綴られている。避難所のラジオで聴いたロックの音に救われて、自分もバンドをやろうと思った。山口にはそんな原体験がある。

プッシュプルポット(撮影=タナベヤスタカ)
山口大貴(Vo/Gt)

 いきなり重たい話になりそうだが、実際のライブは逆だ。「楽しむために来てんだろ?」「目の前に誰がいる? プッシュプルポットがいるんだぜ?」「笑顔にさせてやる! あんたの声が聞きたいんだ!」。曲が変わるたび、いや曲の最中でさえ、山口は終始クソ熱い言葉を投げかける。ライブハウスでなければ言えないセリフばかりだ。少なくとも学校や職場にこんな熱血漢がいたらうざいというか怖い。事実、楽しむためならこの命も惜しくないという目を、山口はしばしばステージで見せていたりする。

プッシュプルポット(撮影=タナベヤスタカ)
桑原拓也(Gt/Cho)

「ライブで遊ぶ。それがバンドをやっているいちばんの理由かもしれない。歌詞を伝えるっていうのはその次。もちろん言葉にもこだわりますけど、その前に楽しい楽曲、楽しいライブが大事。そこは最初から変わってないです」(山口)

 だからこそ、ヒネリのセンスや実験性の高さを誇示するような楽曲は必要なかったのだろう。鳴らすは王道のギターロック。パンキッシュな勢いが強いところが目下の特徴で、音以上に熱いのは剥き出しの人間性である。全員が楽しむことに全力。その楽しさとは、遊んでいるうち本気の追いかけっこになり、汗も気力も使い果たすまで走り切ってみれば、ドクドク波打つ心臓が生の実感を運んでくる、といったニュアンスに近いかもしれない。最も重要なのは、生きていること、である。

プッシュプルポット(撮影=タナベヤスタカ)
堀内一憲(Ba/Cho)

 たとえばライブの一発目「Unity」には〈今日もここで生きてく 会いに行くよ〉という意思表明があり、続く「こんな日々を終わらせて」にはメンバー全員が声を張り上げる〈泣きたくなるような日々を/今日も生きててくれた〉のコーラスがある。唱和しやすいメロディはもちろん、細やかな技巧よりもぶっとい出音で押し切る桑原拓也(Gt/Cho)のギターソロは、若手バンドにありがちな線の細さとは無縁。全体に明確な力強さだけがある。さらには4曲目、「少年少女」でファンが叫ぶ必殺フレーズもすごい。〈少年少女 前を向け〉。よくここまでまっすぐ言えるなと呆れるようなフレーズが、ライブハウスのなかでは美しい合言葉として共有されている事実に、なんだか驚きを禁じ得ないのである。

プッシュプルポット(撮影=タナベヤスタカ)
明神竜太郎(Dr/Cho)

「まっすぐだってよく言われます。まあ、俺らバカなんですよ(笑)。でも、できるならまっすぐ伝えたいし、語彙力を得ていけばそのうち難しいことも書けるだろうけど、それがない状態でも言いたいことは言える。それがぐっち(山口)の武器だと思う」(明神)

「岩手のライブハウスで初めてロックバンドを見た時、正直よく知らないで行ったんですけど、まっすぐすぎて『眩しい!』『かっけえ!』と思ったんですよ。泥臭いことを全力でやるのが格好いい。面白いことも、まっすぐなことも、全力なら格好いい。そこにけっこう惹かれてる」(山口)

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