世界各国のフェスが抱える制御不能な問題 『グラストンベリー』でのSZAの“集客不足”から考える

世界各国のフェスが抱える制御不能な問題

各国のフェスティバルを悩ませるヘッドライナー問題

 「じゃあ、誰なら良かったのか?」と考えてみると、ブッキングへの苦戦が囁かれる今年のフェスティバル事情と、これまでに書いてきたような『グラストンベリー』との相性を踏まえると、かなりの難問であるように思える。少なくとも、現状のラインナップでSZA以外のアーティストをこの枠に当てはめるのは(個人的には)違和感を感じてしまう。

 また、実はヘッドライナー以外においても、今年のグラストンベリーでは動員を巡る混乱が相次いでいたと報じられている。アヴリル・ラヴィーン(The Other Stage、7万人収容)やSugababes(West Holts、3万5,000人収容)のようなベテランのステージや、チャーリーXCX(Levels、 7,000人収容)やBicep(IICON、1万5,000人収容)といった話題のアーティストのDJセットにおいてステージのキャパシティを超えて観客が殺到し、一部のステージでは中断する事態にまで陥っていたという。「誰をどこに配置するのか」というのはフェスティバルにおいては避けては通れない問題であり、日本でも活発に議論されるトピックだが、『グラストンベリー』は歴史の面でも実際のキャパシティにおいても巨大な存在であるためにその難易度がさらに高くなっているように思える。

アヴリル・ラヴィーン
アヴリル・ラヴィーン(『Glastonbury Festival』Day 5, UK - 30 Jun 2024)

 そもそも、「ブッキングへの苦戦」というのも、稼働するアーティストの不足はもちろんだが、ヘッドライナークラスのアーティストについてはフェスティバルよりも単独公演が優先されたり、(仮に検討できたとしても)出演料の高騰によってフェスティバルが呼べる限界を超えてしまっているという背景も大きいだろう(まさに前述のマドンナが、あくまで噂ではありつつ、分かりやすい例の一つだ)。おそらく、現在のポップミュージックにおいて最も渇望されるヘッドライナーはテイラー・スウィフトとビヨンセだが、ともに凄まじい規模の単独公演を世界中で大成功させていることを踏まえると、よっぽど特別な機会でもない限りは両者がフェスティバルのヘッドライナーを務める光景を想像するのは難しい。「Beychella」はもう6年も前の出来事であり、音楽業界の景色はすっかり変わってしまった。

 また、最近ではアデルやU2、レディー・ガガのように、ワールドツアーやフェスティバルの頻度を抑え、一つの場所で長期的にステージを披露するレジデンシー公演を選ぶアーティストも増えている(これはブルーノ・マーズの来日公演にも絡められるだろう)。数年前であればラインナップの目玉となっていたような、誰もが知るビッグネームによるサプライズは『Cruel World』や『Sick New World』、『When We Were Young』といった時代&ジャンル縛りのフェスティバルの台頭によってすっかり薄れてしまった。コンサート市場の拡大や、公演の在り方やフェスティバル自体の多様化が進んだ今、「ヘッドライナー」という存在について考えるのは、以前よりも格段に難しくなっているように感じられる。

 こうした状況は、規模こそ違えども日本においても共通するものだろう(円安や市場規模を踏まえれば、さらに厳しい状況であると言ってもいいはずだ)。その点では、SZAのキャンセルに対して僅かな期間でThe Killersのブッキングを成功させた『FUJI ROCK FESTIVAL』や、両日のヘッドライナーをフェスティバルやオーガナイザーとの繋がりも深い比較的若いアーティスト(Måneskin、Bring Me the Horizon)で揃えた『SUMMER SONIC』は、とても器用にこうした状況に対応しているように感じられる。

 『コーチェラ』(『Coachella Valley Music and Arts Festival』)を筆頭に、『Lollapalooza』や『Governors Ball Music Festival』といった著名なフェスティバルのチケットの売上が例年よりも不調だったり、チケット自体は例年同様に完売したとしても、『グラストンベリー』のように各ステージの動員を巡って騒動が起きたりと、今年のフェスティバルの様子を眺めているとどうにも落ち着かない。とはいえ、ここまで書いてきたように、これが今年だけの現象だと考えるのは難しい。むしろ、来年にはさらに悪化しているのではないかとすら感じてしまう。制御不能な状況の中で、フェスティバルはどこへ向かっていくのだろうか。

※1:https://www.telegraph.co.uk/music/concerts/glastonbury-festival-2024-highlights-sunday-day-3/
※2:https://www.officialcharts.com/charts/end-of-year-singles-chart/

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