2024.06.29 12:00

w.o.d.×キタニタツヤ、真逆のスタイルと共通のロック観　対バン前に語り合う、メジャーで示す在り方

文・取材＝信太卓実、写真＝山川哲矢

w.o.d.、“やり切った”からこそ迎える変化の瞬間

――制作スタイルの違いは歌詞にも表れていると個人的に思っていて。「スカー」と「STARS」は同じことを歌ってるという話もありましたけど、入り口としては「スカー」は“孤独やちっぽけさ”、「STARS」は“変化と焦燥”という感じで、個性の違いが出ているような気がするんです。

キタニ：確かに「スカー」は1人でいる人の歌ですけど、「STARS」はのっけから〈オーマイダーリン〉という問いかけから始まって、〈あなた〉がずっといますからね。でも結局はどっちも1人の頭の中で、あーだこーだ考えている歌ではあると思います。

サイトウ：曲作りやプロダクションを1人でやってる生活と、最終的にバンドで演奏するっていうスタイルの違いゆえなのかもしれないですね。「STARS」は人混みの中という感じだけど、「スカー」は部屋の中の孤独という感じがする。

――元良さんが思わず感心するくらい、キタニさんって話し上手だと思うんですけど、どうして孤独を歌い、1人の作業に没頭するんだと思います？

キタニ：なんでだろう……1人なのは、やっぱり自分で舵を取りたいからなんですけど、そもそも人との化学反応に対する信頼を最初は持てなかったから。歌詞が孤独なのも、他者の力をあまり信用できなかったというのが根源にある気がします。自分以外に寄りかかる勇気がないんですよね。結局、自分がどう思っているか、“自分と世界”みたいな構図にしかならなくて、「この人がいて、この人もいて、それで俺がいる」みたいなところまでたどり着けなくて。そういう歌詞も少しずつ書けるようになってきたかなとは思うんですけど。

元良：キタニくんのマンパワーがすごいから、自分でどうにかできちゃうんだろうなと聞いていて思った。

キタニ：今まではそうでした。ただ、それにも飽きてくるから、そろそろ人と手を取り合っていかなきゃなって。

元良：自分1人じゃやっていけないからじゃなくて、“飽き”のほうが大きいんだ？

キタニ：どっちもあるけど、飽きの方が微妙に大きいかもしれない。

ずうっといっしょ！ / キタニタツヤ - ALWAYS BE WITH YOU XD / Tatsuya Kitani

サイトウ：キタニくんはめっちゃバイタリティがあるんやなと思う。俺はあまり行動力がないんですよ。ものによっては自分で全部やりたいなと思ったり、デモを作り込んで持っていったりする時もあるんやけど、そのまま行き切るほどの行動力がない。曲を作る時も1人でいる時の自分とは違っていて、w.o.d.としての自分をイメージして書いてるので。

キタニ：バンドという強制力があるから進めると。それはめっちゃ羨ましい。バンドが運んでくれるから自分も頑張らなきゃ、ってなれると思うので。俺は「締め切りを設定してくれ」「俺を運んでくれ」と、周りの大人たちをメンバー的に考えているところがあるけど（笑）。

サイトウ：ボカロPもよく聴いてたから、1人で作り切ったり、自作自演し切ることへの羨ましさや尊敬もめちゃくちゃあるけど、大変すぎて俺には無理やし。そもそも中学の頃からKenと一緒にやってるから、1人でやる必要がなくて。運よくバンドを続けられているという感覚かな。

キタニ：でも、ずっと同じメンバーでやってると、変化をつけたいタイミングがあるじゃないですか。w.o.d.は中野さん（中野雅之／BOOM BOOM SATELLITES、THE SPELLBOUND）と一緒にやったりして外部からのエッセンスを取り入れてると思うけど、バンドで小回りの利いた変化をつけるのって難しいんだろうなと。

サイトウ：これまでは俺らの手の届く範囲で作ってたんやけど、前作（『感情』）でそれもやり切った感があるから、今はプラスαに挑戦するしかないなって。半分は勝手に動いてる船に乗ってて、もう半分は自分たちで漕いでいる感じ。意識的にチャレンジする時は「やってみたいよな」っていう会話を普段からすることで、なんとなくバンドがそういうモードに動いていくかな。

キタニ：ちゃんと意思統一をやっているんだね。

Ken：3人で同じ音楽を聴くとか、一緒にいる時に流す音楽をちょっと変えたりするだけで、バンドのモードが変わったりするよね。

キタニ：え、3人で一緒に音楽を聴くことがあるの？

Ken：全然ある。

キタニ：何それ、めっちゃ仲良しじゃん！　友達同士でもなかなかやらないのに。どういう時に聴いてるの？

Ken：ライブ前とか。

元良：撮影前の衣装を着たり、メイクをしたりしてる時とか。

キタニ：いいな〜。中学時代みたいだ。

サイトウ：俺とKenはホンマに中学の同級生やから、感覚があまり変わってなくて。

Ken：「これ好きだろうな」とかもお互いにわかるし。

サイトウ：それがカチっとハマる瞬間がたまたまあったりして。『感情』を録ってるあたりでPrimal Screamが3人ともガッと入ってきて、俺らがそれをやるにはどうすればいいかを考えた時に、プライマルと同じ時代に現地にいたのはBOOM BOOM SATELLITESだよなって、なんとなく流れが見つかっていって。そういう意味ではバンドの変わりにくさもあるけど、やり切れたなら別に変わってもよくない？　って感じかな。

キタニ：しかも「めっちゃ変わるよ」というタイミングでメジャーデビューってすごいね。

w.o.d. - エンドレス・リピート [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

メジャーを掲げて成し遂げたいこと、変わらないこと

――メジャーシーンでの今後についてはどのように考えているんですか。

キタニ：俺はこのままどんどんデカくなって、お茶の間に浸透していきたいですね。自分の書いた歌詞とか、好きなメロディとかサウンドを、音楽を全く知らない人にちゃんと知ってもらいたくて。俺らは音楽好きとして育ってきたから当たり前だと思ってるけど、テレビの向こうにいる人ってそんなに音楽に興味ないんだよなって思うんです。だから、なんとかして「こういういい音楽があるよ」と知ってもらいたい。そのためにはデカくなる必要があって。この間、初めて武道館ワンマンをやれたんですけど、本当は東京のデカいハコでやるよりも、いろんな地方の1000〜2000人くらいの市民会館をちゃんと埋められる存在になりたいとずっと思っていて。俺がそこに行けばちょっとした祭りみたいになるのが、真のお茶の間アーティストじゃないかなって。スタジアムを埋めるのもかっこいいけど、それはご褒美であって目標ではないと俺は思ってます。だって田舎の金ない音楽好きの中学生は、そこまで来れないから。そういう人にライブを観てもらわないと音楽の未来につながらないと思うので、そういう場所まで自分が行ってあげたいなと。

――自分自身を深く知ってほしいというよりも、まずは音楽自体を知って楽しんでほしいという願望が強い？

キタニ：俺は自我も強いし、自分が認められたいっていうのがまず先にあって。「今のままやっていけば、いい音楽の宣教師になれるかもしれない」というのは後から気づいたことですね。その順番はあるけど考えてる割合自体は50:50だし、達成できるように大きくなっていきたいです。

――w.o.d.はどうですか？

元良：今の時代にメジャーかどうかって関係あるのかなっていうのもあるから、「メジャーデビューってわざわざ言う？」みたいな話になったんですけど、俺は「めでたいからいいじゃん」と思いました。祭り好きだし。おめでとうっていう言葉もたくさんもらえたから嬉しかったよね。

Ken：うん、楽しく音楽やれたらいいかなというのは変わらないので。

サイトウ：もともとそれぐらいの「楽しく音楽やれたらいいな」っていうスタンスでやってるのが根底にあるからね。今の事務所に入るかどうかっていう頃に、とりあえず決めた目標が「グラストンベリー（『Glastonbury Festival』）に出る」「Led Zeppelinになる！」で。せやからメジャーデビューしてお客さんが増えて、グラストンベリーに出れたら最高！

――“w.o.d.のままどこまで遠くに行けるか”っていうのは初期の頃からずっと話していたと思うので、メジャーを掲げるというのは、ある意味変わらないでいることの意思表示なんだと受け取りました。

サイトウ：そうですね。昔は奇跡の1曲が生まれて、めっちゃヒットして、生活の仕方がわからなくなって、自殺するんじゃないかってことまで妄想してたんですけど、全くそんなことはなくて。地道にただただバンドを続けて、生活していくだけなんですよね。だからメジャーデビューとは言ったものの、俺らが変わらずにいれたら、そこまで変わらないのかなと思っていて。あとは周囲からどう見られて、どう消費されるかをあまり気にしないで、本当にその時やりたいことをやれたら。めちゃくちゃマスを意識して作ってるわけじゃないし、逆にそれぐらい、ちょっと偏ってる方がいい気がしていて。やっぱり中学生の頃の俺みたいな人が好きになってくれるのが一番嬉しくて、それが広がっていくことに対しては「そうなったら結果的にはいいな」くらいの感じ。そこが希望やから。今まで聴き続けてくれた人がいるおかげで自信が持てているし、俺らがちゃんと自分の好きなことをやれば、その人たちは離れていかへんやろうなと思っている。だから気にせず、楽しく音楽をやるだけなのかなと思ってます。

w.o.d.×キタニタツヤ、撮り下ろし写真一覧