w.o.d.×キタニタツヤ、真逆のスタイルと共通のロック観 対バン前に語り合う、メジャーで示す在り方

w.o.d.×キタニタツヤ 対談

キタニタツヤ、“ネット出身”としてライブシーンで示したい背中

――w.o.d.としてはどうですか。

Ken:俺はバンプをそんなに通っていなくて。

サイトウ:バンドなんで、1人が受けた影響だけが出るわけじゃないから。

キタニ:どうやってもミクスチャーになるんだよね。いいよなあ、バンドって。それぞれ好きな服の系統とか、好きな映画や漫画も違うんだろうし。Kenさんはもともと『BLEACH』を全く知らなかったんでしょ?

Ken:俺は全然……(タイアップが)決まってから観た。

元良:(Kenは)ジブリ映画もまだ観たことないんだって。

Ken:うん。

キタニ:ええ!?

サイトウ:ジブリ観たことないのがかっこいいと思ってる(笑)。

キタニ:ほら穴で暮らしてたの?(笑)

一同:はははは!

Ken:それでも立派に育つことができました(笑)。

キタニ:まあそんな人のエッセンスも曲に入るわけじゃないですか。サイトウさんの作った種が、絶対に想像つかないものに育つよね。

Ken Mackay

サイトウ:バンドのグルーヴって不思議で、同じメンバーでずっとやっているからこそ出るものがあるんだよね。上手/下手だけじゃないものが。

Ken:俺も(結成から)15年経ってようやくそれがわかってきた(笑)。レコーディングでも、ライブでも、スタジオ練習でも。

元良:どんなに疲れてて、誰か1人はやる気の出ない日があっても、大体同じ演奏になる感じがあるよね。

Ken:そう、グルーヴが高まってきたなと思う。

元良:昔はサイトウさんが作ってくれた曲に対して、「こういう気持ちなんだろうな」っていうのがわからないと噛み合わない気がしてたんだけど、最近はそこを無理に汲み取ろうとしなくても、もっと自然な感じでわかるようになってきた気がする。

キタニ:俺はもともと1人で全部作っちゃうから、「こういうヤツがベースを弾いたらどうなるかな?」っていうのがごっこ遊びにしかならなくて、化学反応をフルパワーで楽しめない寂しさはちょっとある。だからバンドがめっちゃ羨ましいですよ。今、『ぼっち・ざ・ろっく!』にハマってて、「バラバラな個性が集まって一つの音楽になって、それが結束バンドの色になるんだから」っていうセリフ聞いて、めちゃくちゃ泣いたもん(笑)。バンドの本質ってそれだよねって思うし。俺は高校生の頃にやりたいことに見合う実力を持った人と出会えなくて、ちょうどそのタイミングで「パソコンで1人で音楽作れるじゃん」ってことに気づいたから、そっちにシフトしてやってきているので。でもやっぱりバンドが好きだし、憧れはずっとあります。チバユウスケくらいボーカリストとして力が強い人でも、ミッシェルとROSSOとThe Birthdayで全然別物になるくらいだから、あのメンバーじゃないとそのバンドにならなかったんだなって思うし。

Rapport / キタニタツヤ from One Man Tour “BIPOLAR” Live at Zepp Haneda 2022.07.02

――今はボカロP出身のアーティストがどんどんライブの現場に出て行ってるタイミングだから、w.o.d.と対バンするのは、キタニさんにとっても有意義なことなんじゃないかと思いました。

キタニ:僕はそのことにすごく感動していて。ネット発のミュージシャンって、やっぱりライブがダサいんですよ。1つの曲を緻密に作り込んでいく力がどんどん磨かれていく反面、フィジカルが弱いのはどうしても弱点で。Adoさんとかは身体表現も歌も超ド級にすごいんだけど、それってディーバ的な観点でのすごさだから、いわゆるバンド的なフィジカルの強さってまだまだネットシーンにはなくて。その中で俺は絶対に舐められたくなかったんです。「俺がネットミュージシャンだからライブできないと思ってるヤツ、全員ぶっ飛ばしてやる!」と思ってたから(笑)。自分のバンドメンバーも俺がライブハウスやネットとかで見つけてきたかっこいいと思うメンバーだし、基本的に同じ編成で少しずつ上がって行こうと思ってやってきていて。だから、w.o.d.みたいな叩き上げのバンドに対バンしようぜと声をかけてもらえたのは、感慨深い出来事なんですよ。これからネット出身でライブの現場に出て行きたいと思ってるミュージシャンは、こういうバンドと戦うことになるわけですけど、絶対どこかでくじけるタイミングがあると思うんです。だから俺は先陣切って自分の背中を示したいなとずっと思っていて。

元良:すごい。背負ってるんだね。

キタニ:勝手に背負ってるだけなんですけどね。別に下の世代からそんな風には思われてないと思うけど。

元良:でも、背負っている人がやることは絶対に外れないと思う。

中島元良

w.o.d.、シンプルな音楽の奥にある“揺らぎ”の情報量

キタニ:元良さんは福岡の方だと思うんですけど、2人(サイトウ、Ken)は神戸じゃないですか。女王蜂のアヴちゃんから、1つのビルに複数のライブハウスが入ってる場所が神戸にあって、ライブがつまんないと客が(ほかの階に)移動しちゃうみたいな話を聞いた。アヴちゃんはそこでのし上がったって。「神戸はそうやってバンドを戦わせるのか、怖っ!」と思った(笑)。

Ken:俺ら、そこ(神戸Mersey Beat)が初ライブだったよ。

サイトウ:神戸ってライブハウスのシーンはあるけど、バンドの系統はバラバラで。普通は歌モノ系とか、ルーツロック系とか、固まったりするのが多いと思うんですよ。

――福岡のシーンだとイメージ湧きやすいですもんね。

元良:みんなNUMBER GIRL好きだし。

サイトウ:めんたいロックとかも根づいてたよね。札幌に行くとハードコアシーンがあったりしますけど、神戸には不思議とそれがない。踊ってばかりの国とか、キュウソネコカミとか、女王蜂とか、みんなバラバラやし、AstroAttackっていう俺の大好きなめちゃくちゃかっこいいバンドもいれば、裸になってワーっとやるタイプのコミックバンドもいたりとか。だから対バンで似た雰囲気のバンドを集めようとしても、そもそも周りにいなくて。同じ系統の先輩がめちゃくちゃ年上になったりとか、なぜか歌モノのライブに入れられたりとか。

Ken:「弾き語りイベントに俺ら?」みたいな(笑)。

キタニ:「そのシーンを俺たちで引っ張る」みたいなのがないんだ?

サイトウ:「シーンを作れたらおもろいかな」と思ってた時期もあったけど、結果あまり気にせんようになった。俺らが上京してから、グランジとかオルタナに影響を受けたバンドがなんとなく固まってた時期があって。ROKIとかCRYAMYとか。

――THIS IS JAPANのコンピレーション(『NOT FORMAL ~NEW ALTERNATIVE~』)にも参加してましたよね。

サイトウ:それも面白かった。「俺たちかっこいいじゃん」みたいな気持ちになれたんだけど、気づいたらみんな全然違うことをやり始めたので(笑)。結局シーンのこととか、w.o.d.がどこに属するのかも、周りに言ってもらって感じるくらいで、今は俺ら側から気にしなくてもいいのかなという気がしていて。w.o.d.っぽさを意識しすぎると、そういう音楽に寄っちゃっておもろくなくなるじゃないですか。「STARS」みたいに「あえて俺らっぽいものを作ろう」と狙ってやる時はいいと思うけど。

キタニ:わかる。俺もそういうことを意識してるというよりは、「好きだから次はこれをやりたい」の連続でしかないので。アルバムもその時々の気分のスナップショットとして作ってるから、「この頃の俺はこれが好きだったわ」って後々思い出せるような、気軽な日記くらいの気持ちなんですよね。俺っぽさについてファンの方に言ってもらえることはあるけど、結局キタニタツヤらしさって自分ではわからないんですよ。むしろ自分でそれをわかっちゃって、「これがキタニタツヤらしさですよ」って見せるのは、リスナーからするとなんか白けるだろうなって。だから自分は知らないままでいいのかなと思っています。好きなものをやっていれば勝手にキタニタツヤが浮かび上がってくるだろうし、それぐらいの気持ちです。

――なるほど。

元良:サイトウさんはかっこよさの絶対値みたいなものに反応するだけで、好きになるジャンルはあまり気にしてないよね。

サイトウ:そうだと思う。チャームポイントのある音楽が好きなんですよ。

――チャームポイントというのは?

元良:なんでも当てはまるよね。情けなさだったりするし、クオリティがめちゃくちゃ高いのもチャームポイントだと思う。

サイトウ:そう。決して“上手さ”ではないかな。綺麗な音楽ってことでもないのかも……ブライアン・イーノとか聴いてても、揺らぎがチャームポイントっぽい。

キタニ:あー、w.o.d.の音楽に対して“揺らぎ”ってめっちゃ感じるかも。楽器が3つしかないし、大げさな展開も作らないから、やってること自体はシンプルじゃないですか。なのにこれだけ聴き応えがあるということは、それだけの情報量があるってことだと思うんです。俺も自分の音楽で一定の情報量が出せるように作ってるんですけど、その量の稼ぎ方が全然違うなと。俺はギターやコーラスを10本くらいにして、同時に鳴っている音や楽器を増やすやり方を取っていて、そこから平メロで1本だけにすると、聴いていて如実に印象が変わるというか。転調もやる時はめっちゃやるし、ビートもコロコロ変わるし、そうやって楽譜上の情報量を増やすことで稼ぐんです。けどw.o.d.は……そもそもクリックを走らせてないよね?

元良:曲によってはクリックを走らせている、くらいかな。

w.o.d. - 陽炎 [OFFICIAL MUSIC VIDEO]

キタニ:デフォルトが走ってない状態なのか。ということはテンポが揺れているわけで、楽器も基本的に歪んでるじゃないですか。ノイジーになるということは倍音成分が出ていて、無意識的な領域で情報が増えてるんだと思うんですよ。いいヘッドフォンで「陽炎」を聴いてると、ずっとピーっていうテープ音のノイズが上の帯域で鳴ってるんですよね。それも情報量。ピッチ修正も厳密にはやってなさそうだし、そういう細かい揺れやズレがいっぱいあることで、シンプルなのに複雑で奥深い音楽に聴こえる。俺はわざと嘘のノイズを足したりするけど、w.o.d.は天然で鳴っているから真逆で面白いよね。DAWも使わず、テープのアナログ録音でやったんでしょ?

サイトウ:前作(『感情』)は完全にそうだった。シュイーンってテープが巻き戻るのを待ちながら録って。

キタニ:そんなの『ボヘミアン・ラプソディ』でしか見たことないもん(笑)。昔のバンドはみんなそうやって深い音楽を作ってたと思うけど、今は選択肢が増えたからみんなやらなくなっていっただけで。

元良:キタニくんの話めっちゃ面白い。賢さが伝わってくる(笑)。

キタニ:感心してくれてるなと思ってた(笑)。令和にそういう美学を突き詰めるのはお金も時間もかかるから大変だろうなって思うけど、w.o.d.にはやっていってほしいな。

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