Bring Me The Horizon『NeX GEn』がもたらすポジティブな衝撃 壮絶さの奥に広がる“理想郷”

 2020年、パンデミックの最中にリリースされたBring Me The Horizon『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』(以下、『PHSH』)は、リモートワークを通じて制作された、まさに先行きの見えない時代を生きる恐怖について描いた作品だった。バンドは同作を皮切りにした「POST HUMAN」という、4枚のEPで構成されるプロジェクトの構想を明らかにするが、それもあくまでパンデミックという状況自体を前提としたものであったと記憶している。

 おそらくは、リスナーである私たちだけではなく、バンド自身にとっても「POST HUMAN」の第二弾となる作品がリリースされるまでに4年もかかるだなんて思ってはいなかっただろう。しかも、本来はEPサイズの予定だった作品は、蓋を開けてみればバンド史上最多の16曲を収録したフルアルバムとなっていた。それが、5月24日にサプライズリリースされた『POST HUMAN: NeX GEn』(以下、『NeX GEn』)である。結果として同作は、バンドの歴史において最も紆余曲折を経たであろうこの4年間の記録が封じ込められたものとなり、だからこそバンド史上最も突き抜けた堂々たるロックアルバムに仕上がっている。

Bring Me The Horizon - Top 10 staTues tHat CriEd bloOd (Official Video)

 『NeX GEn』の詳細について語る前に、バンド自身が経験したこの4年間について触れておく必要があるだろう。高い評価を獲得した『PHSH』を経て、Bring Me The Horizonは間違いなく現代における最高峰のロックバンドとして認められる存在となった。それは、2023年の『Download Festival』において、MetallicaとSlipknotとともにヘッドライナーを飾ったという事実が何よりも証明している。2021年には名曲「Can You Feel My Heart」がTikTokを中心にバイラルヒットし、(元々、若い層がファンベースの中心とはいえ)新たなオーディエンスを獲得していたのも印象深い。

 一方で、『PHSH』の次作を制作するにあたって、バンド自身がある種の模索状態に陥っていたのも確かだろう。次作の存在自体は明らかにされていた一方で、2021年9月にリリースされた「DiE4u」を皮切りに、「sTraNgeRs」(2022年7月)、「LosT」(2023年5月)とシングルばかりが積み重なっていき、作品の状況については不透明なままという状態が長らく続いていた。同時期におけるmgk(マシン・ガン・ケリー)からSigrid、エド・シーランに至るまでジャンルを越境したコラボワークスの数々を踏まえても、この時期の彼らが何か新しいものを掴もうとしていたことは容易に推測することができる。

Bring Me The Horizon - sTraNgeRs (Official Video)
Bring Me The Horizon - LosT (Official Video)

 『NeX GEn』への道が開かれる大きなきっかけを挙げるのであれば、それは間違いなく、2023年におけるDAIDAI(Paledusk)の制作チームへの加入、そして『Sempiternal』(2013年)以降のバンドの音楽面を支えていたジョーダン・フィッシュ(Key)の脱退になるだろう(近年のBring Me The Horizonは、ボーカルのオリヴァー・サイクスとジョーダンがプロダクションの中心となっていた)。ジャンルにとらわれないボーダーレスなDAIDAIがもたらす独創的でカオティックなアイデアの数々は、バンドに計り知れないほどの刺激を与えるが、一方でこれまでのバンドを支えてきた音楽的な支柱の一つが失われてしまったのだ。

 だが、結果としてこの出来事が、バンド全体が楽曲制作に関わるスタイルへの移行を促し、メンバー同士の一体感と、より自由な音楽的発想をもたらすことになったという(※1)。『NeX GEn』が数え切れないほどの音楽的アイデアを詰め込んだ作風でありながらも、同時にバンドとしてのグルーヴをしっかりと感じさせる仕上がりになっているのは、模索を重ねた果てに、バンドの自然な在り方に辿り着くことができた影響も大きいのだろう。それは、新体制となって最初の楽曲として発表された「Kool-Aid」の凄まじいヘヴィネスからも感じることができるはずだ。

Bring Me The Horizon - Kool-Aid (Official Video)

 『NeX GEn』を聴いていて驚かされるのは、先行シングルの時点で感じ取ることのできた既存のスタイルにとらわれない自由な音楽的発想が、あくまでほんの序の口にしか過ぎなかったということである。本作に無理やりジャンルをあてはめるのであれば、それはおそらく“メタルコア”になるのだろうが、少なくとも筆者はこんなエクストリームなメタルコアを聴いたことがない。どの楽曲も間違いなく何かしらのパラメータが振り切れており、音単位で衝撃的な展開が次々と襲いかかってくる。それでいてどの楽曲も一発で頭に叩き込まれるくらいにはキャッチーであるというのが、本作の恐ろしいところだ。

Bring Me The Horizon - YOUtopia (Lyric Video)

 例えば、アルバムの実質的なオープナーを飾る「YOUtopia」は破壊的なロックギターのリフで幕を開ける一方で、同時に恍惚的なウォール・オブ・サウンドに魅了されるアンセミックな楽曲であり、随所に仕掛けられたハイパーポップ的な意匠と壮絶なドラミングがエモーショナルなメロディと歌唱をさらに引き立てる。Deftonesをさらに絶望の底へと突き落としたかのような叙情的なヘヴィネスが響く「liMOusine (feat. AURORA)」では、AURORAの妖艶な歌声がさらなる絶叫と破滅へと誘う壮絶な展開に圧倒されるし、オルタナティブロックからの影響を色濃く感じさせるフォーキーな「n/A」のイントロがプレイされた時、まさか楽曲の中盤でグリッチノイズ寸前の破壊的な展開が待ち受けているなんて想像だにしなかった(終盤にはグロウルボイスまで響き渡る始末だ)。

Bring Me The Horizon - liMOusIne (Lyric Video) ft. AURORA

 本作は聴くたびに新たな発見があり、そのたびに「どうしてこれが成立するのか」という困惑と興奮を味わうことができる。実際、ここまでエキサイティングなリスニング体験を味わうのは本当に久しぶりだ。

Bring Me The Horizon - n/A (Lyric Video)

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