Creepy Nuts、タイアップ作品への強靭なアンサー 『不適切にもほどがある!』で「二度寝」が果たした役割

Creepy Nuts「二度寝」が果たした役割

 Creepy Nutsが3月20日にリリースした両A面シングル『二度寝 / Bling-Bang-Bang-Born』。「Bling-Bang-Bang-Born」が世界的なスマッシュヒットになっていることは周知の事実だが、今年1月期のドラマのなかでも注目された『不適切にもほどがある!』(TBS系)の主題歌として書き下ろされた「二度寝」も、ドラマ本編の最終回(3月29日放送回)で映画『Back To The Future』のダンスパーティーシーンよろしくCreepy Nutsのふたりが登場し、そのエンディングにおいて大きな役割を果たしたことも話題となっている。

『不適切にもほどがある!』× Creepy Nuts「二度寝」 劇中パフォーマンス切り抜き映像【TBS】

 その話題の2曲に両者に共通するのは、“タイアップ”という“お題ありき”の構成という部分だろう。Creepy Nutsのこれまでの流れをアルバムを基準にしてさっくりと考えると、内発やコミカルという自由度の強かった『クリープ・ショー』(2018年)周辺作、自傷的とも言えるほどの自己言及と内観を展開した『Case』(2021年)周辺作、そして“物語”という脱自分化表現も獲得した『アンサンブル・プレイ』(2022年)周辺作という、通底するテーマ性があったと思う。その流れで考えると、今回のシングルは“お題とその回答”という、ある意味では“大喜利”的なテーマ性と性質があるだろう。もちろん、これまでにも数々のタイアップをCreepy Nutsは手掛けてきたわけだが、今回の2曲はドラマやアニメの内容を敷衍/演繹しながら、それをCreepy Nuts作品として帰納させるという性格が強く、有り体に言えば、タイアップ元と作品との連動性が強い。

Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」 × TV Anime「マッシュル-MASHLE-」
Collaboration Music Video #BBBBダンス

 「Bling-Bang-Bang-Born」とアニメ『マッシュル-MASHLE-』(TOKYO MXほか)の関係性については、すでに執筆しているのでそちらをご覧いただきたいが(※1)、「二度寝」はより明確に『不適切にもほどがある!』のメッセージに寄り添っているし、それは「ドラマの台本を読んでから作品制作に入った」というコメントからも窺い知れる。

 そして、両者に共通しているのは、前述の通り“Creepy Nuts作品として帰納させている”部分だ。ビートに関しては、「ビリケン」以降、Creepy Nutsはジャージー・クラブを作品の中心に置いているが、「Bling-Bang-Bang-Born」ではキコキコ音(Bed Squeak)やラップの口気持ちよさというその聴感的特徴を明確にし、「二度寝」はこれまでのCreepy Nuts作品とより繋がるコード感やメロディアスさによって、ジャージー・クラブを薬籠中物のものとし、現在の彼らのシグネチャーといえるサウンドを提示している。

 リリックに関しても、“タイアップ”という、提供先と楽曲が連携する形であるが、もしそれが分かれたとしても、Creepy Nuts作品として独立して存在する強度をしっかりと担保している。『マッシュル』と「Bling-Bang-Bang-Born」で言えば、『マッシュル』の主人公の“脳筋”具合と、Creepy Nutsがラップ力/ビート力で勝ち上がった部分が繋がっているが、両者を分離させたとしても、「Bling-Bang-Bang-Born」のメッセージは損なわれない。同時に『不適切にもほどがある!』に描かれたコンプライアンスやモラリズム、時代の変化をどう捉えるかという部分に、「二度寝」のメッセージは非常に強く影響を受けているが、「二度寝」だけを取り出したとしても、そこに描かれるメッセージは棄捐されない。それは両曲とも、彼らがこれまでに書いてきた言葉や意識との“整合性”があるからだろう。

 「二度寝」で特にそれが強く表れているのが〈warning warning 不適切な語録/カチカチ気づきゃ火がついてく/yummy yummy ここ掘れと笑う/めでたしのその先で構えてる yeah〉からのパートだろう。これは如実にCreepy Nutsのことを想起させる。Creepy Nutsは楽曲性に加えて、『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)などでの軽妙なトークでも注目を集めるきっかけを作った。もっと言えば“軽口”が魅力でもあったわけだが、それは同時に“不適切な語録”へと転じてしまう場合もあったし、生放送のような“チェックや編集を経ないダイレクトな発信”を現在は基本的には控えているように思えるのは、それが影響しているだろう。同時に、R-指定に関して言えば、MCバトルという“コンプライアンスやモラルを考えるよりも先にラップや言葉を発しないと負ける”というゲーム/アートフォームの猛者であったし(その形態や表現自体の是非については今回は問わない)、それらに関してはこれまでも「デジタルタトゥー」などで表現されてきた。また、その状況を「二度寝」では〈カチカチ〉と表現する。これは『カチカチ山』からきているのだと思うが、『カチカチ山』のたぬきは自分の背負った薪に火が着き大ヤケドをする。その意味でも〈不適切な語録〉は“自分が背負った薪=燃料”であることにも自覚的なことも興味深い。

 そういった先にある“トップスターとしてのCreepy Nuts=「めでたしめでたし」”に対して、さらに「ここ掘れ」と落とし穴を掘り、蹴躓くのを待ち構えている人間もいるだろう。その状況に対して、Creepy Nutsは〈日に日にアップデートされてく/マサカリみたいに振りかざす/正しさに怯えながら生きる/いつかのお利口さん〉と自嘲とも取れる発言をつなげていく。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる