Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸「10年はまだはじまりに過ぎない」 “100年”スケールで創造するダンスミュージック

10年はまだはじまりに過ぎない

――逆に、創作がもたらすもので、この10年で変わったことってあると思いますか?

熊木:創作のモチベーションはずっと同じかもしれないですね。「自分の中にあるイメージを外に出してえ」という。逆に今までになかった発想で言えば、基礎的な技術や本質的なものを学習することで自分の世界は広がる、という気づきはあったと思います。それはここ5年くらいで気づきました。どういうリズムだったら自分は気持ちよく踊れるのか? それを日本の暮らしの中で見つけるには、日本語という言語の中で見つけるには、呼吸の仕方や筋肉の動きも含めてどう考えなければいけないのか? 英語のリズム性と日本語のリズム性の違いをはっきりさせて、それを理論だけではなく自分が表現できる動きとして取り入れることができるかどうか?……とか。そういう部分に向き合わず、思いついたものを出すだけだと、骨になる部分が弱くなってしまうような気がして。そこはまだまだ突き詰めたい部分ですけど、そういう普遍的な部分の重要性とか、みんなが音楽で踊ったりパワーをもらったりしている理由をしっかりと考えたい、という気持ちはこの5年くらいで強くなったと思います。

――今回のシングル、表題曲の「実感」というタイトルにはどのような思いを込めましたか?

熊木:「自分は今、面白いものを作っている」という実感をひたすら得ていたいという思いがあって、そこから派生して歌詞を書いたんですけど、歌詞には「実感」という言葉は入れなかったんですよね。しっくりこなくて。でも、タイトルとしてはしっくりきたんです。デモの段階からタイトルは「実感」で、最終的にメンバーと話し合ったときにも「この曲は『実感』だよな」となって。

――歌詞は〈眠らない夜は/100年の春を浮かべて〉というフレーズから始まりますが、「実感」というタイトルが呼び起こす人ひとり分くらいの確かさと、〈100年〉というフレーズが想起させる遙かな時間の重なりにとても惹かれました。

熊木:100年レベルのスケール感のなかで自分は生きている、ということを書きたかったんです。さっき言った技術革新にしても、すごく長い時間をかけて生まれているものだと思いますけど、「そういう長い時間のなかで、今、私はここにいるんだ」という感覚を書きたかった。でもそうは言っても、この「実感」という曲はかなり感覚的に歌詞を書いた曲でもあるんです。整合性を排除して、お客さんが無理くりイメージでつないでくれていいような、そういう歌詞にしたかった。僕らはバンドとして10年目という節目でもありますけど、「10年」という年月が重く曲のテーマとして入ってしまっては嫌だな、という思いもあって。それよりも、もっと感覚的に聴けて、踊れるもの。そのうえで何かを感じてもらえる曲を作りたいなと思って。なので、最初にざっくりと書いた歌詞を結構そのまま採用しています。

――改めて見ても、10年目のシングルで〈100年〉と歌っているのは、素敵ですよね。

熊木:10年って、僕自身としてはそんなに大きなスケールの話だとは思っていないんです。落語みたいな芸事の世界とか、あるいは寿司職人の方でも、10年ってきっとまだはじまりに過ぎないですよね。「そこから自分はどこに向かっていくか?」というラインにようやく立てるのが10年くらいなのかなと思うんです。なので、「このくらいのスケールで私は人生を踊らせるつもりでいますよ」という気持ちが、自然に〈100年〉という大きなワードになって入ってきたのかもしれないです。

――そうした時間の感覚は、歌詞に出てくる〈味蕾〉というワードにも感じました。舌にある味覚を感じるための器官を指す言葉ですが、読み方としては「みらい」で、歌として聴いていると「未来」という言葉にも聴こえる。肉体的な感覚と、それを超越した時間の流れみたいなものが、この一言に重なっているような印象を覚えます。

熊木:舌の感覚って今この瞬間の快楽ですけど、それと「フューチャー」を意味する未来の感覚が一緒に入ってくる単語として、〈味蕾〉という言葉はいいなと思ったんです。長いスパンで考えることと、今を味わうことを両方とも追い求めてきたバンドだと思うんです、Lucky Kilimanjaroは。そういう部分が現れている単語だと思いますね。「長くみんなと一緒に人生を歩んでいきたい」という考えも、そもそも僕のなかにあるものですし。

――音楽を作り、世に出すことは、熊木さんにとっては「一緒に人生を歩んでゆく」ことでもあるんですね。

熊木:僕にとって音楽は、「他の人とどうコミュニケーションをとっていくか?」ということの手段のひとつになっているような気がしていて。歌詞でもよく歌っていますが、他者との関係性において自分をどういうふうに置くか、私には何ができるのか、どういう関係を作れるのか? そういうことを考えることが、自分の活動には自然にあるんです。作るときはそれを踏まえての自分の感情が表出していると思いますけど、音楽活動という面では「他者とどう踊るのか」が大きなテーマになっていると思います。

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