『狼と香辛料』の壮大な物語を彩る新人アーティスト Hana Hopeとは? 希望を歌う凛とした表現力
昨年リリースした1stアルバム『HUES』で、その豊かな感性を遺憾なく発揮し、Z世代の心象を体現するアーティストとして並々ならぬスケール感とポテンシャルを見せつけたHana Hope。彼女の最新曲「旅のゆくえ」が素晴らしい。
ライトノベル原作のTVアニメ『狼と香辛料』(テレビ東京系)のオープニングテーマとして制作されたこの曲は、彼女の天性の声の魅力と確かな表現力が堪能できる、非常に聴きごたえのある曲に仕上がっている。
『狼と香辛料』はラノベ時代から多くのファンを擁し、2008年にはTVアニメ化されて評判を呼んだ名作。現在放送中のアニメはオリジナル版から15年の時を経て作られた新作版である。物語は、少し陰のある行商人 クラフト・ロレンス(CV:福山潤)と、狼の化身である孤独な少女 ホロ(CV :小清水亜美)が共に旅をし、道中さまざまな出来事を経験しながら交流を深めていくファンタジーだ。
オープニングで披露されるHana Hopeの伸びやかな、それでいてほの暗い声は、物語に内省的な要素や波乱があることを予見させ、寂寥感をたたえたサウンドは孤独を抱えた主人公たちが織りなす作品の世界を見事に表現している。
ちなみに今回のアニメ、主人公の2人は前作と同じ声優が務めている。すでに確立した世界観をできるだけ引き継いだニューバージョンには、オリジナル版への敬意やファンへの配慮が感じられるが、オープニングテーマ「旅のゆくえ」も、前作のオープニングテーマだった清浦夏実「旅の途中」にあった大陸的な雰囲気を継承しているようにも思える。物語がロードムービーなので「旅」という言葉が出てくるのは当然だし、制作スタッフも一部重なっているので不思議はないのだが、Hana Hope自身も前作から連なる『狼と香辛料』の世界観を最大限に反映させられるよう、この作品の本質を深く理解して歌っていることが伝わってくるのだ。
歌詞には〈怖さ〉〈涙拭って〉〈かなしい記憶〉〈不安〉〈出口の見えない〉など一見暗く寄る辺のない心情を表わした言葉が並ぶが、感情を巧みに抑制した彼女の凜とした声は、転調後の広がりのあるサウンドと相まって不思議とポジティブな印象を残す。不安なこともあるけれど目の前に開けている新しい世界に飛び込まずにはいられないという、まさに旅に出る前の心境を巧みに描いた楽曲は、壮大な物語のオープニングにふさわしい。感情を過剰に込めないボーカルゆえ、さまざまな解釈の余地を残すバッファがあるのもいい。Hana Hopeの表現力の真髄を見る思いがする。
さらにいえば、「旅のゆくえ」にはイントロがない。例えばAdo「新時代」や、Mrs. GREEN APPLE「ケセラセラ」「ダンスホール」、YOASOBI「アイドル」「群青」など、イントロがない曲は昨今よくあるわけだが、それでもいきなり歌が始まる曲というのは難曲に違いなく、確かな歌唱力、および特徴のある声を持った歌い手でないと成立し得ない。その点、Hana Hopeは“奇跡の歌声”と賞賛されるだけあって、その声自体が内包する多面性や複雑な表情が聴くものの心に確かなエッジを残す。特に「旅のゆくえ」では一つひとつの言葉が丁寧に歌われているので、歌詞で描かれている心情、情景が切々と伝わってくることだろう。