マカロニえんぴつと『忘却バッテリー』、“青春”以外の共通点も EDテーマ「忘レナ唄」がフィットする理由
マカロニえんぴつが、4月10日に新曲「忘レナ唄」をリリースした。
2024年4月9日テレビ東京系列でスタート、放送直後にPrime Videoでも配信されるアニメ作品『忘却バッテリー』のエンディングテーマとして書き下ろされた曲である。原作は、マンガアプリ「少年ジャンプ+」の人気野球マンガ。このたび立ち上げられたアニメ版の公式サイトに、はっとりは以下のようなコメントを出している。
「MAPPA作品に携われたことが光栄です。忘却バッテリーは野球ファンのみならず、かけがえのない一瞬を追う者に強く刺さる素敵な作品だとおもいます。マカロニえんぴつがパッションを込めて書き下ろした【忘レナ唄】も作品と合わせて是非聴いてください」(※1)
で。同曲を紹介するこのテキストの、編集部からの依頼にあったのは、「マカロニえんぴつのこれまでの楽曲にもみられた“夢を追いかける姿を通して描かれる青春”がこの曲の中でも描かれている。そのような視点から『忘却バッテリー』とマカロニえんぴつの相性について考えることはできないか」というものだった。
はっとりが言うところの「かけがえのない一瞬を追う者」というのが、編集部が言うところの“夢を追いかける姿を通して描かれる青春”にあたるわけですね。なるほど。しかし。そこだけが『忘却バッテリー』と「忘レナ唄」の、もっと言うとマカロニえんぴつというバンドの、共通点ではないのではないか。他にもあるのではないか。という考えが、この曲を何度も聴いているうちに湧いてきたので、ちょっと書いてみたい。
まず、『忘却バッテリー』の高校生たちの野球マンガ、というジャンル自体は、少年マンガ誌&青年マンガ誌の王道を行くものだが、昔も今もとっつきやすいそのフォーマットの中に、これまでの野球マンガでは描かれなかったテーマや、これまでの野球マンガには導入されなかった手法を、あらゆる角度から大量に盛り込んだ作品である。
5年前に廃部になったが最近再開されたばかりの、発足したばかりの都立高校の野球部に集まった新入生たちが、甲子園を目指すべく強豪校たちと戦っていく、という物語の始まりは、それこそ大昔の『キャプテン』『プレイボール』の時代からの、少年野球マンガの王道である。
が、たとえば「天才とは他者に絶望を与える存在である」ということが、その物語の中での裏テーマになっている。あるいは、野球の強豪校とはどういうものなのか、そこで野球をする高校生たちはいかに歪な人生を送っているのか、ということが異様にリアルかつ精緻に描かれていたりする。
登場人物たちそれぞれのバックボーンを描いていく過程で、「自分のミスでチームが敗北してしまった後、その選手はどうなるのか」にスポットを当てたり、日本のスポーツ界が異様な縦社会構造で成立していることに言及したり、イップス(ミュージシャンで言うとジストニアだ)に関して踏み込んだり──というふうに、さまざまな問題について描かれていく。
かと思えば、「記憶喪失の捕手が天然ボケを連発し視点人物のキャラがモノローグでつっこむ」という手法によるギャグマンガとしての側面も、とても充実していたりするし、でありながら、野球部が軌道に乗ってからのストーリーは「試合そのものを描く」という王道野球マンガとして、やたらとおもしろかったり──。
要は「すさまじく重層的」という点で、過去になかった野球マンガであり、おそらく、であるがゆえに、こうしてアニメ化されるほどの人気を博しているわけだと思うのだが。
この「すさまじく重層的」な感じって、マカロニえんぴつに通ずるものがありません? たとえば、1曲の中に4曲分ぐらいの展開やアレンジをぶちこまずにはいられない曲の作り方。たとえば、現在のヒットチャートのトップの一角に入るほどの「今だからこそ」なポップミュージックでありながら、今やあきらかに「非効率」で「面倒」で「前時代的」なものである、ロックバンドという手法ににこだわり抜いている、言わば泥臭い存在でもあるという事実。
たとえば、CMで15秒切り取られても人の耳に強くひっかかるキャッチーさと、フル尺で聴くと最後にどこに連れていかれるのか予想がつかなくなる混沌さを、楽曲が併せ持っている点。などが、挙げられると思う。
アニメーション映画『FLY!/フライ!』日本版主題歌として書き下ろし、本作の1カ月前(3月8日)にリリースされた「月へ行こう」と「忘レナ唄」を比較すると、後者は、一聴すると、シンプルでストレートなポップソングに思える。が、よく聴くと、「アレンジしすぎ」「曲展開多すぎ」「情報入れすぎ」な、とにかく常にやりすぎるロックバンド=マカロニえんぴつの、面目躍如な仕上がりになっているのだった、やはり。
歌詞も、〈走って走って、端を知った/「そうか、ここまでか」〉〈追いかけすぎたぜ、夢のあとで〉などと、この作品のテーマに絶妙に寄り添いながらも、たとえば〈ぼくらの涙なら空に埋めよう〉なんていう、はっとりならではの言い回しもさらっと出てきたりする。「空に」と来たら「放とう」もしくは「飛ばそう」でしょ。何よ「埋めよう」って。さすがはっとり。好きです、こういうところが。
『忘却バッテリー』の原作は、これを書いている時点では、単行本が17巻まで出ていて、現在も「少年ジャンプ+」で連載中である。
で、マカロニえんぴつは、メジャーからの2ndアルバム『大人の涙』を2023年8月にリリースし、9月から12月まで6都市10公演のアリーナツアーを行った、と思ったら、3月23日に次の23都市27公演のホールツアーが始まっていて、それを回りながらこうして「月へ行こう」「忘レナ唄」と、新曲を連続リリースしている。
それらの曲は、紅茶花伝のCMで、はっとりが小芝風花と向かい合って弾き語っている新曲「poole」とともに、5月29日リリースの新EP『ぼくらの涙なら空に埋めよう』に収録されることが発表になっている。
で、ホールツアーが終わると……いや、終わる前から、各地の夏〜秋フェスへ出演することも、続々とアナウンスされている。今年は2回目となる『FUJI ROCK FESTIVAL '24』にも出演する。どこまで、いつまで、このペースで走り続けていくのか。今後も追いたい。
※1:https://boukyaku-battery.com/news/index00250000.html
■リリース情報
「忘レナ唄」
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