GRAPEVINE、アナログ盤リリースを経た追加公演ならではの手応え この先に続く物語も想像させたステージ

GRAPEVINE、Zepp DiverCity公演レポ

 田中と西川が目線を合わせたイントロのギターで始まった「Ophelia」は、あの有名なミレーの絵が頭に浮かぶ。幻想的な楽器の重なりが川の流れで、田中の歌が水面に浮かぶオフィーリアか。ラストにシンセが響く中、田中がギターを薄く鳴らしながらスキャットを聴かせ、たゆたう物語の幕をおろすと亀井がキリッとしたビートで空気を変え「The Long Bright Dark」に導いた。軽くステップを踏みたくなる曲で田中はマーヴィン・ゲイ風にフェイクを交えながら歌い進めたから、〈What's going on〉と挟んだのも自然だった。

 田中がアコギに持ち替え、高野のピアノで始まった「Loss(Angels)」は、冒頭に書いたようにアナログ盤に加えられた新曲。このツアーがライブでの初演奏だけに、じっと聴き込んでいる人が多かったようだ。落ち着いたテンポで、じんわりと歌が沁みてくる。西川のギターソロも優しく、穏やかな空気が流れていく。弱々しい強がりを歌っているのだが、最後の〈帰って来てよ〉を繰り返したのが切実に響いた。

 ギターを変えて田中が「今やった曲は、アルバムのアナログ盤に追加されて入ってます。そこでしか聴けません」と言った後で「サブスクがあるか。今時は怖いですね」と笑わせた。そして4月、5月にイベントがあると伝えてから「あと700億曲やるぜ!」と曲のタイトルをコールして「Goodbye, Annie」へ。グルーヴィーなギターリフが鳴ればフロアが揺れ出し、遊び心満点の歌にオーディエンスの手が上がる。演奏も互いに会話をしているような感じになり、間奏はシンセとギターが面白くせめぎあった。ポーズをとりながら田中が「お台場のアモーレたちよ」と呼びかけて始まったのは「実はもう熟れ」。80年代風のダンサブルな演奏に田中もステップを踏み、ライティングも往年のディスコのような色合いに。〈「キスは命の火」と〉歌った後で田中が「アモーレ! ユリカモーメ!」と叫んだのはご愛嬌。それを受けて西川のギターソロがいいムードを盛り上げた。

 お遊びタイムはひとまず終わり、どっしりしたテイストの「Glare」、スピード感のある「Scare」、定番曲の一つ「超える」とGRAPEVINEらしい曲を続けた後で、田中が「今日はどうもサンキュー、サンキュー・ソー・マッチ! また渋谷で会おうぜ!」と告げて、新作からの「Ready to get started?」へ。スタートを切るようなパワフルな曲にフロアも熱気を増し、田中と西川が向き合いギターを合わせたり、それぞれステージ前方でソロを弾いたりと大いに盛り上げた。その熱のまま進むかと思ったら本編のラストは「SEX」。淡々と様々な愛について歌う田中を赤紫のライトが照らし、西川が伸びやかなリフを抑えた音色で弾く。CDではこれがラストトラックであることを思えば、やはり『Almost there』はこの曲が締めになるのだろう。田中は語らないが、世の流れとして無視できないジェンダーやSDGsが作品に反映していることは否めない。ライブで過去の曲と並んで演奏することで、そうした時代感が浮かび上がった気がする。

 アンコールでは金戸が渡すプリントを田中が頭を下げて受け取る仕草に笑いが起こる中で、4月、5月のライブと、夏の日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)と大阪城音楽堂公演を告知。そして骨太な演奏で聴かせた「阿」、バンドらしい一体感に満ちた「God only knows」「Shame」、力強く田中が歌い上げた「Arma」がフィナーレを飾った。このライブ後のWEBなどの告知によると、夏のライブは、今年でスピードスター・レコーズに移籍し10年になることから、その10年を振り返る内容になるだろうとのこと。アンコールの4曲がビクターに移籍後の曲だったことに加え、「Arma」の〈物語は終わりじゃないさ/全てを抱えて行く〉というフレーズが、GRAPEVINEの今を表しているように思えた。この夏も彼らから目が離せない。

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