GRAPEVINE、攻めと安定を組み合わせた絶妙なライブに 『Almost there』携えたツアー東京公演
9月27日にリリースした最新作『Almost there』を携えてのツアーを10月6日の札幌ペニーレーン24からスタートさせたGRAPEVINEが、東京・LINE CUBE SHIBUYAのステージに立ったのは10月26日。9月には『SUMMER TOUR』と題して東京・静岡・大阪を回りウォーミングアップした上でのツアーの7カ所目とあって、十分に仕上がったライブで満杯の観客を魅了した。
大きな歓声と拍手の中ステージに5人が揃うと、「ハイこんばんは! Are you ready? 渋谷!」と第一声を発した田中和将(Vo/Gt)は「OK、今こそ俺に賭けてみろ! You bet on it!」とオープニングナンバーのタイトルをコール。ザクザクと斬りこむようなギターリフとともに「Ub(You bet on it)」を歌い出した。最新作のタイトルの所以でもあり、程よい高揚感を発するこの曲はライブの幕開けにもぴったりだ。Zepp Shinjuku (TOKYO)もこの曲から始まった。そして新宿でも演奏した「スレドニ・ヴァシュター」で空気を引き締めると「Goodbye, Annie」へ。王道オルタナティブロックを下敷きにGRAPEVINEらしい遊び心を感じさせる曲が、ライブを経てさらに面白いことになっていた。
「改めましてGRAPEVINEです」と挨拶した田中は自分で「ヒューヒュー!」と煽って頭上で両手を握り笑顔を振りまく。「ありがとう! ありがとう! ついでに、わてら今年で結成30周年です。そしてアルバム『Almost there』が出ております。東京の人って、みんな聴いてるんじゃないかと個人的には思っております。今日はそのアルバムツアーですから、もし万が一聴いてないという人がいたら、がっくりして着席なさって結構です。そんな感じの2時間、最後までよろしく! とか言いながら新しいアルバムじゃない曲やります。優しい!」
田中らしいシニカルなMCに笑いが起こる中、「聖ルチア」から、田中がアコギを弾きながら軽やかに歌う「Darlin' from hell」へ。そして田中が「初期のヤツやる」と言った曲はデビューアルバム『退屈の花』(1998年)収録の「遠くの君へ」。西川弘剛(Gt)作曲の隠れた佳曲だ。アレンジは大して変えていないと思うがバンドの成長を如実に感じさせる広がりのある演奏に、30年という時の流れを感じさせた。それに続いた「COME ON」は元々ストレートなロックチューンだが、どことなくThe Rolling Stonesを連想させるスタイルに。18年ぶりの新作『Hackney Diamonds』をリリースした大先輩バンドへの敬意だろうか。抑制を効かせて始まり徐々に熱を帯びていく歌と演奏が、ロックやR&Bをベースに始まったGRAPEVINEの骨子を浮かび上がらせた。曲の終わりに高野勲(Key)の弾く穏やかなピアノで着地すると、ホッと力の抜けるような瞬間が訪れた。
新作ツアーと言いながら懐かしい曲が続いて少々焦らされた感があったが、新作からの曲「Ophelia」の軽やかなギターリフのイントロが始まると空気が引き締まった。穏やかな田中のボーカルを一つひとつの楽器がクリアに主張しながら彩っていく。やがてそれらが溶け合って、音の波に歌が浮かんでいるように感じた。この曲のモチーフになったミレーの有名な絵画を音で描いているようだ。この幻想的な空気を受け継いだのは「停電の夜」。暗闇の中で広がる柔らかな時間を軽やかなタッチで進めていく。そしてカーティス・メイフィールドあたりを彷彿させるソウルフルなスキャットから始めた「The Long Bright Dark」を、田中は気持ちよさそうに歌った。バンド名の由来がマーヴィン・ゲイの曲であるように、本来このバンドはこうした楽曲やサウンドが得意なのだ。それを踏襲するにとどまらず自分たちらしく消化して30年、今の彼らがある。
亀井亨(Dr)のドラムだけで歌い出した「アマテラス」は一転してタイトな空気に。田中は腕を振ってリズムをとりながらラップし、サビは全員で複雑なコーラスを聴かせた。演奏も西川のギターと金戸覚(Ba)のベースが別々のメロディで進んでいくような立体感に引き込まれる。曲が終わって田中がローディと何やらせわしなく動いていたが「セーフ!」と小声で言い「何があったかと言いますと、一瞬トラブったかと思ったけどセーフでした」。実は「Ophelia」が終わったあたりから田中はエフェクターやアンプを気にしていたのだが問題なかった様子。一安心とメンバーも気持ちを取り直し、取り掛かった曲は「ねずみ浄土」。亀井の緊張感溢れるドラムから始まり、田中がファルセットで歌い出す。『Almost there』は攻めた構成やアレンジの曲が多いのだが、それは前作『新しい果実』(2021年)から一段と加速してきた感がある。その前作で最も攻めた曲が「ねずみ浄土」だ。ヘヴィなファンクでもありポストロック的なクールネスも湛えたこの曲はGRAPEVINEにとってまさに新たな果実だ。ストイックな演奏もバンドの血肉になっていて小気味いい緊張感を醸し出す。それに続いた「雀の子」は音源で聴くよりダイナミックでまとまりのいい演奏に思えたが、関西弁の歌の軽妙さと裏腹に、複雑な構成の曲だけに全員の緊張感が伝わった。ライブで演奏を重ねても気の抜けない曲はあるものだ。インタビューで西川が「仕掛けばっかり続くので、誰かがコケると皆コケる」とこの曲の難しさを語っていたものだが(※1)、曲が終わると大きな拍手が送られた。そんな緊張感を和らげるように軽やかなリズムボックスの音で始まった「SEX」は伸びやかな田中の歌がリズミカルに曲を進める、広い意味でのラブソング。西川がゆったりしたソロを弾き、空気を緩めていくと田中の歌も一段と伸びやかになった。