GRAPEVINEが鳴らす現実と重なり響く言葉たち レアなセットリストで臨んだ『SPRING TOUR』中野サンプラザ公演
GRAPEVINEが『SPRING TOUR』と銘打って、3月17・18日は東京・中野サンプラザホールで、21日はNHK大阪ホールでワンマンライブを行った。筆者は18日の中野サンプラザホール公演を訪れたのだが、アルバムなどのリリースタイミングではない、コンパクトなツアーのために組まれたセットリストによるライブは、いつにも増して手応えのあるものだった。
桜も咲きそうな暖かい日が続いた後に氷雨が降った夜、たくさんのオーディエンスとともに楽しむライブはちょっとした非日常だ。そこで聴くGRAPEVINEの曲は想像力を刺激して様々な思いを呼び起こす。それは非日常的でありながら現実と地続きなのだ。GRAPEVINEは声高にメッセージを歌うバンドではないが、彼らの曲には日々生きていたら思わざるを得ないことが歌い込まれている。“新しい日常”という言葉の新鮮味が薄れる中、東欧での戦火が連日報じられて騒然とした空気が漂う日々に聴く彼らの曲は、恐ろしいほど現実と重なり示唆的に響いた。
オープニングナンバーは「虎を放つ」。田中和将(Vo/Gt)がゆったりしたテンポでギターを弾きながら〈ここまで来たのなら覚悟はいいかい〉と歌い出す。12作目『愚かな者の語ること』収録曲だが、取り上げたのは寅年だから、というだけではあるまい。〈星は涙に〉〈涙は虎に〉と歌う田中を集中して観ていると、短くブレイクを入れたアウトロの一瞬の緊張感から一転、軽やかな「Alright」に。これは楽しい音楽ですよといわんばかりに田中はハンドクラップをし、亀井亨(Dr)のドラムが力強くビートを鳴らした「EVIL EYE」で盛り上げた後に最初のMCになった。
「『SPRING TOUR』と題してやってますけど、真冬に逆戻りしたような寒さでお足元の悪い中、集まっていただき感謝感激雨あられでございます。各々がたのマスク姿にもこの2年ぐらいで慣れまして、もう私にも皆さんの顔がすっかりわかるようになりました。皆さんの心の声も聞こえるようになって参りました。今日も我々はいつもと変わらず心を込めて演奏しますんで、いい演奏をしたら最大限の拍手と最大限のマスクの下の笑顔をよろしくお願いします」
冗談めかした謝辞が田中らしい。大きな拍手の中で始まった「目覚ましはいつも鳴りやまない」では、キレのいい演奏がソウルフルな味わいを増しているなと思っていたら、田中は終盤にフェイクで歌いながらスティーヴィー・ワンダー「Sir Duke」のサビのメロディを差し込んでいた。
ギターリフから現実逃避めいた歌になる「Metamorphose」では、ちょいとサイケな西川弘剛(Gt)のギターソロに引き込まれ、高野勲がシンセで静謐かつ緊張感のあるイントロを奏でた「雪解け」では、〈虹を見たのかい〉という歌詞に合わせて虹のようなグラデーションで照明が輝いた。「ジュブナイル」ではバンドらしい生々しい演奏が印象的に響き、「BABEL」では起伏に富んだ演奏で聴かせ、クールな浮遊感のある「Neo Burlesque」では田中のボーカルがエロティックに響いた。CDでは歌から入る「ねずみ浄土」だが、イントロがついてライブならではの広がりが加わった。エンディングの〈好き嫌いはよせ〉では全員でのコーラスが見事に決まり、客席から大きな拍手が送られた。
ドラマチックな「KINGDOM COME」は、歌詞を伝えるというより自分の中の何かを吐き出すように田中は歌い、カラフルな照明と共にサイケデリックな雰囲気を醸し出しながらも、どこか覚醒した演奏だった。亀井の重量感あるドラムが曲を色づけた「世界が変わるにつれて」、西川が味のあるボトルネックギターを聴かせた「アナザーワールド」は、3曲で1つのドラマを描いていた。
「こんな感じで『SPRING TOUR』寒いバージョンをお送りしておりますが、いかがでしょうか。今回はアルバムツアーではないので、新曲ばっかりでお送りしております。あと、重要なことを発表しないといけないんですよ。我々、メジャーデビュー25周年です! 皆さんのおかげ、これからも頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします」
このツアーは新作を帯同したものではなく、新曲を披露してもいないが、久々に演奏した曲も多くサプライズ感は十分だ。そのことを田中流に表現したのだろう。こんな言葉で煙に巻きながら田中はガッツポーズを決めたが、西川と亀井は知らん顔で楽器の準備に勤しんでいた。