連載『lit!』第94回:COVAN、BLYY、Sweet William……独自の感性で在り方を示す国内ヒップホップ
Only U『JET SET RADIO』
独自の世界観を貫きながら、孤独と狂乱の間に生まれる確からしいものを掬い上げるOnly Uの音楽は、何よりも刹那的である。新作『JET SET RADIO』もエネルギッシュな作品なのは間違いない。Only Uの音楽は常に動き続けているようだ。止まることはない。1曲目「BODY & SOUL」から勢いよく、ポジティブな感覚に溢れながら、人の持つ弱さや脆さを見放すことなく、そこも含めて受け入れようとしている。レイジやジャージークラブの要素を取り入れながら突き進む本作は、勢いを携えながら、パーティやセルフボースト、バレンシアガのことについて歌う裏で、時間の儚さや孤独な感情の話をしていると言えるだろう。Only U自身の歌唱における歌い上げ、あるいは歌い下げの緩急が、エモーショナルなドラマを作り出し、1フレーズ、1ラインの複数回の繰り返しが、個の存在を強調する。ベッドルームの寂しさから、クラブフロアの享楽、インターネットの過剰さの全てが詰め込まれながら、その中で、他者の存在を見逃さないこと。実存を確かめ合うという行為の美しさを手放さないこと。そういった優しさのようなものがOnly Uの音楽には刻まれているのだ。
Neibiss『Daydream Marker』
新作『Daydream Marker』はNeibissらしさに溢れた、まさに別の世界に連れて行ってくれるような想像に浸りたくなる作品である。それはどの型にもハマらないスタイルで、どこかにあるようでいて、しかしどこにもないような、現実と夢が曖昧になるような、そんな感覚に基づいた音空間だ。前作『Sample Preface』は、レールから外れるような奇妙な瞬間が忘れられない作品だった。例えば「カメレオン」のクリーピーなトラックを思い出してほしい。そこに乗るhyunis1000とratiffの、自由なラップが生み出すケミストリーには、病みつきになるような中毒性があったし、思い通りに動かないことで、理想的な時間が作り上げられるような、そういう不思議な感触があった。本作においても、同じような奇妙で美しい瞬間は散りばめられているが、そこには定型から外れるような屈託のなさが影を潜めている。そういった“逸脱”こそ、Neibissの音楽の快楽なのだと、本作を聴いてもわかることだろう。例えば、7曲目「Soulful World」の言葉の刻み方、スローで酩酊的なテンションは、前述の「カメレオン」と同じ理由で中毒的な魅力を持っている。自由気ままなラップは、感覚的にその場に身を委ねることを享受しており、何よりも楽しさが溢れる。RIP SLYMEなど所々の引用で、このリラックスしたラップの文脈的なヒントをチラつかせながらも、その逸脱感において独自の世界観を体現している。身軽にスムースに、シーンを転換させていく様は、アルバムの流れとしても気持ちがよく、何よりも、“こうあるべき”というのに疲れ切った人には、極上の逃避になること間違いなし。そこにこそ、理想的なものが転がっているかもしれないのだから。
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