女性ファンの獲得なくしてブレイクはない アイドル現場の変化とシーンの未来
アイドルが1年間に発表した曲を順位付けして楽しもうという催し『アイドル楽曲大賞』。12回目となる2023年度の『アイドル楽曲大賞』インディーズアイドル楽曲部門では、2022年の「熱波」に続き、fishbowlが「八月」で2年連続の1位を獲得。10位以内にはRingwanderung、タイトル未定、いぎなり東北産、ばってん少女隊、Task have Funといった『アイドル楽曲大賞』常連組のほか、Merry BAD TUNE.、 jubilee jubileeが初ランクインを見せている。
リアルサウンドでは今回も『アイドル楽曲大賞アフタートーク』と題した座談会を開き、イベント主宰のピロスエ氏をはじめ、コメンテーター登壇者からはアイドル識者の岡島紳士氏、宗像明将氏、ガリバー氏に参加してもらった。
なお、今年もランキング10位までのアイドルをメインに扱い、20位以内に同じアイドルが複数ランクインしている場合は、それらの楽曲にも言及している。ラストには11位から20位までの気になる楽曲をピックアップ。終盤で話題になっているK-POPのノミネートに関しては、グループに日本人メンバーがいるか、いないかで扱いが変わり、例えばSAKURA、KAZUHAの日本人メンバーを擁するLE SSERAFIMはノミネートされているが、NewJeansはノミネートされていない。(渡辺彰浩)※本取材は2023年1月30日に実施。
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fishbowl、Ringwanderungらソウル・ファンクナンバーが堅調
1位 fishbowl「八月」
9位 fishbowl「九天」
19位 fishbowl「尻尾」
宗像:「八月」には、Earth, Wind & Fire「September」の〈ba-dee-ya〉という歌詞のメロディをオマージュしていて、完全にソウルの構造なんですよ。それでいてタイトルが「九月」ではなく「八月」というウィットの利き方も含めて上手いなと思いました。
ピロスエ:配信でリリースされた時のジャケットが、はっぴいえんど『風街ろまん』のパロディになっていたりしていて。さらに「September」から引用されている、〈バーディア〉というフレーズはスキャットの一種で、その言葉自体に意味はないらしいんですけど、Negicco「ねぇバーディア」が2015年の『アイドル楽曲大賞』の楽曲部門1位だったわけで、〈バーディア〉を引用した曲が1位になることができるという定説をここで唱えたいと思います(笑)。
宗像:「九天」はfishbowl×ディスコミュージックがたまらない。我々はヤマモトショウさんの手のひらで喜んで転がされている。19位の「尻尾」は、fishbowlとしては大人っぽいソウルナンバーで、この3曲だけでもいろんな表情を見せてきますよね。今年に入って、元ラストアイドルの佐佐木一心さんが加入することが発表されて、もう一人の新メンバーの齋藤ザーラチャヒヨニさんはSNSを一切やらないスタイルというのも面白いと思います。
岡島:結成当初からテレビ静岡が絡んでいたり、母体もしっかりしています。その上でヤマモトショウさんが楽曲提供をしているので、楽曲派グループとしての安定感がすごい。
宗像:地元では大人気だってみんな言うし。
ガリバー:メンバーが抜けたから補強したわけでもないし。静岡での知名度が高いというのは、地元の人みんなが言いますよ。静岡のヒーローというポジションは確固たるもので、グループの公式サイトを見てもらえれば分かりますけど、メンバー個人に静岡県内の自治体や企業がスポンサーシップについているんですよね。適度に東京でライブをしたり、『TOKYO IDOL FESTIVAL』(以下、『TIF』)に出たりしながら、基本的には地元にとどまっているのはいいなと思います。変わらないスタイルで活動をしているし、むしろメンバーを2人増やす真意が分からないくらいで。グループ自体に心配な部分は全くないですね。
2位 Ringwanderung「Lily」
11位 Ringwanderung「Adam」
宗像:「Lily」のトラックには、ミネアポリス・ファンクっぽい音が入っていて、投票した人の何人がそれに反応しているかは分からないですけど、ファンクが好きな中年層はピクッと反応する曲ですね。リンワンは特に楽曲派的な文脈では注目を浴びてきたグループで、ファンクの要素を感じさせる曲という意味でも、大きなフックになった曲だと思います。11位の「Adam」はソウルフルですよね。
岡島:順当にグループ人気が上がってきた印象で、この先どこまで規模感を上げていけるかにかかっているところはあります。fishbowlもそうだし、これから触れるタイトル未定もそうですけど、ライブ動員をどこまで伸ばしていけるのか。インディーズの楽曲派界隈を背負っている感じはありますよね。グループとしては昨年の9月にKT Zepp Yokohamaでワンマンライブを開催していて、次は4月にEX THEATER ROPPONGIでワンマンがある。
宗像:1000〜2000人キャパはいけると。
岡島:順当ですけど、楽曲派って大体この辺で頭打ちになってしまうことが多いんですよね。その先を突破できるか。
宗像:シーンの停滞感を、リンワンに突破してもらいたいですね。
3位 タイトル未定「栞」
4位 タイトル未定「花」
17位 タイトル未定「夏が来れば」
宗像:3位の「栞」は、山崎あおいさんの歌詞が良くて、〈恋人じゃない 友達じゃない/だけど特別で仕方ない〉という曖昧な関係性を示す職人技が出た1曲だと思いました。今まで関わっていなかった外部の作家を新たに起用しながらも、タイトル未定の透明感とスケール感をちゃんと維持している。
ピロスエ:山崎あおいさんはハロプロでもいろんな楽曲を書いていて、どれも人気、評価ともに高いんです。2023年の『ハロプロ楽曲大賞』の1位は、Juice=Juice「プライド・ブライト」で山崎あおいさんの作詞作曲の楽曲でした。
宗像:4位の「花」は、タイトル未定っぽさをキープしながら壮大さと疾走感の中に新鮮さがあって、それは17位の「夏が来れば」でも自分達のイメージを維持しながらストリングスがアクセントになっていて、そうした新鮮さの展開の仕方は上手かったですね。
ーー「花」の作曲・編曲を担当している青葉紘季さんはAKB48「365日の紙飛行機」を筆頭に、STU48「暗闇」(aokado名義)、乃木坂46「ひと夏の長さより…」(aokado名義)といった名曲の数々を提供してきた方です。大山聖福さんとはタイトル未定ではお馴染みの共作コンビですが、A-NOTE・S-TONEの名義では櫻坂46「BAN」などを生んできた2人でもあります。
宗像:そういったメジャー楽曲を作る人たちにも依頼していて、それを歌いこなせるようになったっていうところも彼女たちの成長で、ランキングの上位に3曲が入っていることに繋がっているのかなと思います。
ガリバー:タイトル未定にとっての2023年は、グループの季節感であったり情緒感をぶらさずに、作品の質を高め続けられた1年間だったと思います。タイトル未定を僕は北海道のアイドルとして見てしまうんですけど、インディーズのランキング上位で言うとfishbowlやスターダスト勢を除くと、純粋なローカルアイドル組って、今回はタイトル未定とjubilee jubileeくらいなんですよ。メジャーのCYNHNの話にも繋がりますけど、ブランドイメージを壊さずに、質を高め続けるということが実は難しいことで、そこをタイトル未定はブレずに突き進んでいる。インディーズでもメジャー感を出していけるんだっていうことをきちんと示すことができた1年間だったんじゃないかと思います。
岡島:2024年は、2月にZepp Sapporo、5月にZepp DiverCity(TOKYO) でワンマンライブがあって、その先の下半期でどういった展開ができるのかにかかっている感じがします。大きい事務所でもないのに北海道に根ざしながら、着実に階段を登っていったという印象がある。
ガリバー:タイトル未定は、中規模のホールも似合うと思うんですよね。去年、掛川市で『静岡アイドルフェスティバル』が開催されて、実行委員のヤマモトショウさんが地元にフェスで人を呼ぶことができたというポジティブなことで言うと、これは個人的な願望ですけど、タイトル未定が北海道でそれをやってくれたら、僕は新しい動きかなと思いますね。夏の北海道の野外で観たいですね。