2024.02.26 18:00

ゆある、「また聴きたい」の声に押された背中　初投稿からメジャーデビューまでの軌跡

文・取材＝荻原梓

投稿を待ってくれていたリスナーたちの言葉が支えに

ーー活動をする中で、メジャーデビューを志すようになったのはいつ頃ですか？

ゆある：もともと志していたわけではないんです。実はもっとはやい段階で、そういったお話自体はいただいていたんですが、仕事の関係で辞退せざるを得なくて。ただちょうどいろんなタイミングが重なった時期があって、気づいたら話が進んでました（笑）。

ーー歌い手としての夢を捨てきれなくて……ということともちょっと違う？

ゆある：夢だったかと言われると正直、夢とまではいかなかったと思います。それまで、いわゆるレールに沿った普通の人生を歩んできていたので、夢としての選択肢に食い込んでくることはありませんでした。前向きに考え始めたのは、社会人になって3、4年目の頃です。ちょうど仕事に対する悩みや葛藤があった時期でした。やりたいことがあるのに、やりたくないことに全力を注いで消耗していくのが自分の人生なのか、と。徐々に余裕を失って“歌ってみた”から離れてしまいました。同じような時期に「アスノヨゾラ哨戒班」や「アトラクトライト」の再生がピークだったみたいで。

ーー音楽から離れてる時にも、聴いてくれている人たちがいたと。

ゆある：そうですね。元々歌い手のなかでも活発に活動してるほうではなくて、リスナーのみなさんに「次の投稿も待ってます」と言っていただくことが多かったんです。「アスノヨゾラ哨戒班」を投稿した直後はあまりに反響がありすぎて、自分のなかで「これ以上の音源を作ることができない」というプレッシャーから3年間動画を投稿できなかった時期がありました。でも、ずっと待っててくれた方がいたんですよね。

ーーリスナーの存在が自分の背中を後押しした面もあるというわけですね。

ゆある：自分が趣味の範囲で自由にやっていることではあるんですけど、リスナーの皆さんの「また聴きたい」という言葉に支えられた自分がいました。

「タイムフレーム」はこれまでの軌跡を反映した曲

ゆある - タイムフレーム / Music Video

ーーそうしたこれまでの思いが込められているのが今回のデビューシングル『タイムフレーム』なんですね。タイトルの「タイムフレーム」という言葉はあまり馴染みがないですが、このワードを選んだ理由は？

ゆある：“時間の経過”という意味の“タイム”と、“捉え直す”という意味の“リフレーム”を重ね合わせました。辛かった時の自分も肯定できるように、そうやって悩んでいたからこそ今があるよ、という思いを込めています。

ーー楽曲制作を担当したのは、多くのJ-POPを手掛けている作曲家の重永亮介さんですね。

ゆある：そうです。重永さんの楽曲は、実は高校生のときからよく聴かせていただいていました。今回ご一緒できたこと、とても光栄に思っています。

ーーレコーディングで苦労したことは？

ゆある：サビが高かったので、かなり苦戦しました。

ーーでもその高いメロを必死に歌い上げているのがエモーショナルで、聴いていると胸を打ちますよね。感情剥き出しで歌ってる感じがとても印象的です。

ゆある：ありがとうございます。必死な感じが映える曲調でもありましたね。

ーー作詞にはゆあるさん自身も参加しています。〈誰かの特別になれるわけないなんて／輝く権利を捨てたわけじゃない〉といったフレーズには、本格的に歌手活動に踏み切るゆあるさんの心情が強く表現されていると感じました。作詞はどのように進みましたか？

ゆある：重永さんに自分の持っていたイメージをお伝えして、まずは大枠を作っていただきました。それを噛み砕いて、自分の色に寄せたものに仕上げました。共作詞という形で初めて作詞に挑戦しましたが、自分の思いを音楽にすることができてとても嬉しかったです。

ーーMVも印象的です。夜明けのような暗い空から少しずつ明るくなって、最後に景色が一気に晴れる背景が綺麗ですよね。

ゆある：時間の経過がわかるような構成がいいなということで、緻密に表現していただきました。リリックモーションも効果的に取り入れていただき、より情緒的な仕上がりになったかなと感じています。

ーーこの曲をどんな人に届けたいですか？

ゆある：自分と同じように、何かと何かの間で悩んでいる人ですかね。そういった人たちに、励ますとまではいかなくとも、「大丈夫だよ」と強く寄り添ってあげられたらいいなと思います。

ーーあらためて、この曲はゆあるさんにとってどんな意味を持つ楽曲になりましたか？

ゆある：これまでの自分の軌跡を反映した楽曲でありつつ、ここからまた新たに始まっていくというような、メジャーデビューに相応しい楽曲になったと思います。

今後は作曲にも意欲

ーーアーティストとしての展望も教えてください。

ゆある：自分が音楽を聴くときって、“共感”したくて聴くことが多いんです。たとえば悩みとか。音楽を聴いても、その悩みが根本的に解決するわけではないんですけど、気が紛れたり、こころが救われたりする瞬間があります。自分のなかで音楽って、ある種安らぎをくれるものだったので、”ゆある”というアーティストが、だれかのそういった存在になれればいいなと思います。

ーー今後、何か挑戦してみたいことはありますか？

ゆある：作曲です。時間がかかるとは思いますが、アーティストとして、メロディも自分で考えてみたいなと思っています！

ーーちなみに、ゆあるさんは人前で歌った経験はありますか？

ゆある：ないです。苦手なんです（笑）。

ーーおそらく活動していくと「ライブをしてほしい」という声が出てくると思いますが、期待していいんでしょうか？

ゆある：え……いや、期待しないでほしい（笑）。

ーーこれからも音源で声を届けていきたいと。

ゆある：人前で歌えるタイプだったらそもそももっとオープンにやっていたと思います。自宅でひとり、納得がいくまで何度も同じフレーズを録り直してるのが、私なのかなって（笑）。

ーー歌に対しての完璧主義を感じます。生のライブではなくて、完璧な100パーセントのものだけを聴いてほしいという思いが強そうですね。

ゆある：そうですね。でももし気が変わったら、そのときはお手柔らかにお願いします（笑）。