テイラー・スウィフトの歴史的快挙、ジェイ・Zの異例スピーチ…『グラミー賞』名場面を振り返る
テイラー・スウィフトが4度目の年間最優秀アルバムを制し、スティーヴィー・ワンダー、フランク・シナトラ、ポール・サイモンと並んでいた記録を塗り替えた歴史的な瞬間。昨年に新設された「ドクター・ドレー・グローバル・インパクト賞」を受賞したジェイ・Zによる、ひとりのラッパーというよりも音楽業界のエグゼクティブ目線の本音満載スピーチ。『第66回 グラミー賞』でもっとも話題を集めたのは、この2つのシーンだ。そのほか、ドラマと音楽ファンに響くパフォーマンスが次々と放映され、目が離せなかった。
今年はとにかく女性が強かった。主要部門のノミネートの顔ぶれから予想はできたが、最優秀新人賞がR&Bのヴィクトリア・モネ、年間最優秀楽曲がビリー・アイリッシュの「What Was I Made For? [From The Motion Picture "Barbie"]」、年間最優秀レコードがマイリー・サイラスの「Flowers」、そして、年間最優秀アルバムがテイラー・スウィフトの『Midnights』という結果に。たしかに2022年の9月から23年の8月まで、大きな話題を呼んだり、切り口が新鮮だった女性アーティストが多かったので、順当だろう。
会場は例年通り、ロサンゼルスのクリプトドットコム・アリーナ。昨年に引き続いてノミネートされたアーティストやミュージシャン、関係者をアリーナのステージ前に設えた円卓に座らせるレイアウトだった。『GUTS』のロック度数が話題になったオリヴィア・ロドリゴの隣がレニー・クラヴィッツだったり、2021年にグレイス・ガマーと再婚したプロデューサーのマーク・ロンソンが義母となった大女優のメリル・ストリープと並んで座っていたりと、華やか。司会は4年連続のトレバー・ノア。
本編はグラミー賞で初披露となったデュア・リパの「Training Season」からスタート。続く最優秀ポップ・パフォーマンス(ソロ)のプレゼンターとしてマライア・キャリーが登場したときに、全体のムードが決まった。姿を現しただけでスタンディング・オベーションが起こり、マイリー・サイラスは「隣にいてください!」とダメ押し。マライアのシンボルでもある蝶を、「Flowers」はジタバタせずに待ったら自然に鼻先に蝶が止まった曲、と引っかける見事なスピーチを披露した。『第66回 グラミー賞』は、世代を超えて互いを評価し、リスペクトする場面がよく見られたのだ。
たとえば、カントリーのルーク・コムズによる「Fast Car」カバー。「幼い頃から大好きな曲」と紹介すると、オリジナルを歌うトレイシー・チャップマンがサプライズで登場してデュエットしたのだ。1988年のメガヒットを合唱する場内。“グラミーマジック”が宿った瞬間だった。20歳のオリヴィア・ロドリゴが2回目、60歳差のジョニ・ミッチェルが実は初めてグラミー賞のステージで歌うという逆転現象も。アルバムの世界観をそのままステージセットに持ち込んだSZAとトラヴィス・スコット(+プレイボーイ・カーティ)の演出は、生放送の限界まで挑戦していた。ナイジェリアのバーナ・ボーイは、ブランディの「Top of the World」をサンプリングした「Sittin’ On The Top of The World」で、ブランディとリミックスに参加した21サヴェージとともに登場。アフロビーツの盛り上がりを世界に伝えた。