高岡早紀、自分らしい表現で歌う楽しさ デビュー35周年を経て高まるシンガーとしての意欲
「私は私の色で、いろいろな表現があっていい」
——新曲「トーキョームーン」(作詞:森雪之丞 作曲・編曲:小泉P克人)の場合は、歌の世界をどのように解釈していたんですか?
高岡:雪之丞さんに歌詞をお願いしたときに、「どんな詞にしたいのか、取材したい」とおっしゃってくれて。1stアルバム『Sabrina』に入っている「太陽はひとりぼっち」(作詞:森雪之丞 作曲:加藤和彦)という曲があるんですが、「あの曲のなかに出てくる少女は、今どんな雰囲気の女性になっているのかな」というのが私の一番のオーダーだったんです。先にできていた曲はシティポップのテイストだったので、「東京タワーの〈タワー〉、〈月〉、〈雲〉というワードを入れてほしいです」とお願いもしました。あとは雪之丞さんが最近の私を画面越しに見て感じていること、「太陽はひとりぼっち」のフランスの香りなどもミックスされて。デビュー当初からお世話になっていた雪之丞さんに歌詞を書いていただけたことも感慨深かったし、素敵な曲ができ上がったこともすごく嬉しいですね。
——イメージを共有しながら楽曲の世界を作り上げていく楽しさもあった?
高岡:すごくありました。小泉Pさんとも10年間ライブをやってきて、何曲か書いてもらってもいて。私の歌唱法もよく知っているし、長年一緒にやってきたからこその「トーキョームーン」だなと思います。積極的に歌手活動ができているなという自負もありますね。
——ご自分の歌唱についてはどうですか? 歌手活動再開からの10年間で、歌い方や表現も変化していると思うのですが。
高岡:そこは自分ではなく、周りの人を信じてやっていますね。これは女優としての活動で培われたものでもあるんですが、とにかく監督のOKがすべてなんですよ。自分が「ちょっと失敗したかな」と思っても、監督がOKを出せばそれでいいので。「本当にすみません、もう1回やっていいですか」ということがあっても、それが監督のOKテイクを上回るかといえば、そうとは限らないじゃないですか。音楽もそうで、ディレクターやプロデューサーが「OK」を出してくれたら、それを信じるだけなんですよね。自分が納得できるまでやったら、何日かかるかわからないし(笑)。
——それくらい信頼できるスタッフと一緒に制作しているということですね。
高岡:それもあるし、自分で判断すると、すごく幅が狭まると思うんです。歌でも芝居でもビジュアルでもそうですけど、「自分はこれが好き」というところで決めると、いつも同じようなものになってしまうというか。デビューした頃、加藤和彦さんにディレクションしてもらったことがあるんですけど、加藤さんはピッチがずれているテイクも面白がっていたんです。そのほうが可愛かったり、ビビッドな表現になっていることもあって。だから私、譜面通りに歌うということをあまり考えずにやってきたんですよ。別に自分に甘いわけではなく、私は私の色でいいというか、いろいろな表現があっていいんじゃないかなと思ってます。
「いわゆるアイドルは私には合わないだろうと思っていた」
——初回限定盤のDVD『35th Anniversary All Time Video Selections』には、これまでに制作されたMV、ライブ映像から厳選された作品が収録されています。1989年10月に青山スパイラルホールで行われたデビューライブの映像も入っていますが、まるで舞台作品のような雰囲気ですね。
高岡:会場を森に見立てて、木や川のセットを作ったんです。会場に入った瞬間に鳥のさえずりが聞こえてきて、その世界に吸い込まれるような。(客席には椅子がなく)お客さんには体育座りして観てもらったんですけど、当時のファンの方たちは「伝説のライブ」と言ってくれてますね。私、そんなにたくさんライブをやってなかったんですよ。当時は学園祭が盛んだったから、何カ所かお邪魔したことはありますけど。あとは中野サンプラザでやったくらいかな。
——1stアルバム『Sabrina』収録曲のライブ映像、とても貴重だと思います。今聴いても素晴らしい名盤ですが、高岡さんにとってはどんなアルバムですか?
高岡:思い入れも思い出も深いですね。加藤和彦さんをはじめ、プロデューサーやディレクターの方々が本当に一生懸命に作ってくださって。デビューシングル『真夜中のサブリナ』は加藤さんのスタジオでレコーディングしたんですけど、最初に録ったのは(カップリング曲の)「NON! NON! NON!」だったんです。「真夜中のサブリナ」とどっちをデビュー曲にするか? みたいな話もあったし、白鳥英美子さんが仮歌を歌ってくださったり、とにかくいろんな思い出がいっぱい詰まっていて。当時は本当に忙しくて、眠い目をこすりながらレコーディングしていた記憶もあるし……懐かしいですね。
——ヨーロッパのポップスのテイストだったり、アンニュイな歌声も含めて、元気で明るい同時代のアイドルとは完全に一線を画していて。
高岡:そうですね。本当に今だから言えることですけど、もし、“ブリブリのアイドル”みたいな形でデビューさせられていたとしたら、私は今ここにいないかもしれないですね。いわゆるアイドルに憧れていたわけではないし、私には合わないだろうなと思っていたので。
——当時は女の子のファンも多かった印象があります。
高岡:わかりやすいアイドルではなかったから、男の子にとっては「高岡早紀が好き」って言いづらかったんじゃないですか(笑)。私、今もたぶん女性のファンの方が多いんですよ。
——DVDには2021年のCOTTON CLUB公演や2022年のブルーノート東京公演の映像も収録されています。ライブに対するモチベーションも上がっているのでは?
高岡:はい。先ほども言ったように若い頃はあまりライブをやっていなかったから、ライブの楽しさを全然知らなくて。でも私はとにかく生の舞台が好きなので、これからも続けていきたいと思ってます。最近、ギターを始めたんですよ。歌うこと以外にも何かやりたいなと思って、ギターはどうかなって。以前ちょっとだけ手にしたことがあったんですけど、金属の弦が痛くて。指先が固い女優ってどうなのかな? っていうのもあったし(笑)、今はナイロン弦にしています。
——確かにガットギターのほうが、高岡さんの音楽性には合ってると思います。
高岡:そうですよね。去年のライブで「イパネマの娘」を弾いたんですけど、すごく楽しかったです。
——いきなり「イパネマの娘」はハードル高いですね! テンション系のコードも多そうだし。
高岡:そうみたいですね(笑)。バンドメンバーの吉田サトシさん(Gt)に教わったんですけど、コードから覚えようとすると、全然進まないんですよ。なので「時間かかっちゃうから、まず曲を教えて」ってお願いして、「イパネマの娘」だけを練習して。これからもライブで弾こうと思ってるので、ぜひ聴きに来てください!
◾️リリース情報
高岡早紀『Decade -Sings Cinematic-』
2024年1月31日(水)リリース
・限定盤(CD+DVD):7,000円(税込)
・通常盤(CD):3,300円(税込)
<収録曲(CD)>
[SUNNY SIDE]
01. ラブ・スコール(feat. TOKU)
02. サニー
03. 太陽はひとりぼっち(feat. Yohji Yamamoto)
04. ひとつだけ
05. 私の彼氏は200歳
06. アワ・デイ・ウィル・カム
07. シャム猫を抱いて
[RAINY SIDE]
08. みずいろの雨
09. トーキョームーン
10. ミッドナイト・ラブ・コール
11. 黄昏のビギン
12. 君待てども ~I'm waiting for you~(ピアノ:山下洋輔)
13. エヴリタイム・ウィ・セイ・グッバイ(ピアノ:山下洋輔)
[BONUS TRACKS]
14. SUNNY(English Ver.)
15. ラブ・スコール (CEE's VCR Remix)
<収録曲(DVD)>*限定盤のみ
[35th Anniversary All Time Video Selections]
・眠れぬ森の美女(MV)
・真夜中のサブリナ(Live)[1989.10.10, 11 Spiral Hall]
・野蛮な憂鬱(Live)[1989.10.10, 11 Spiral Hall]
・悲しみよこんにちは(Live)[1989.10.10, 11 Spiral Hall]
・薔薇と毒薬(Live)[1989.10.10, 11 Spiral Hall]
・セザンヌ美術館(MV)
・Ni-ya-oo(MV)
・君待てども ~I'm waiting for you~ [Short Ver.](MV)
・アゲイン [Live at JZ Brat, 2014 Dec 5](MV) ピアノ:山下洋輔
・ラブ・スコール [Making](MV) feat. TOKU
・愛のムコウガワ(MV)
・Ni-ya-oo(Live)[2021.12.15 COTTON CLUB]
・私の彼氏は200歳(Live)[2021.12.15 COTTON CLUB]
・ミッドナイト・ラブ・コール(Live)[2022.6.27 BLUE NOTE TOKYO]
・やりかけの人生(Live)[2022.6.27 BLUE NOTE TOKYO]
・太陽はひとりぼっち(MV) feat. Yohji Yamamoto
■イベント情報
『高岡早紀アルバム発売記念インストアイベント』(特典会)
日時:2024年2月4日(日)18:00~
会場:タワーレコード新宿店 9Fイベントスペース
内容:特典会(本人よりミニサイン色紙お渡し)
※タワーレコード新宿店にて、予約者優先で対象商品アルバム『Decade –Sings Cinematic-』初回限定盤または通常盤を購入すると「特典会参加券」を先着でお渡し。
特典&イベント詳細:https://www.jvcmusic.co.jp/-/News/A000372/7.html