アイナ・ジ・エンドは只者ではなかった BiSH解散以降の大躍進、さらなる高みを目指す貪欲な姿勢

アイナ・ジ・エンド、2023年の活躍を総括

 アイナ・ジ・エンドが新曲「帆」を本日12月31日0時にサプライズリリースした。6月にBiSHを解散して以降もほぼ歩みを止めることなく、ソロアーティストとしての精力的な楽曲リリースはもちろん、ダンス留学や映画/ドラマ出演、バラエティ番組への出演など活躍の場を広げてきたアイナ。今回の新曲は、そんな彼女がまっすぐに未来を見据えて前へ進もうとする強固な意志を力強く歌ったエッジィなダンスチューンだ。改めて2023年の彼女の動きをざっと振り返りつつ、それを踏まえたうえで新曲「帆」の持つ意味について考えてみたい。

アイナ・ジ・エンド / Red:birthmark [Official Music Video](TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2 ED)

  BiSH在籍時よりソロアーティストとしても本格的に活動してきていることは周知の通りだが、今年の大きな動きとしてはまずアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』Season2 への参加があった。特筆すべきは、TK(凛として時雨)が作詞・作曲・プロデュースを手がけたSeason2 エンディングテーマ「Red:birthmark」のみならず、アイナ自身が書き下ろした「宝石の日々」も最終回挿入歌として起用されている点だ。同一作品に複数楽曲で関わるというのは、アニソン専門のアーティストにとってさえも比較的珍しいケース。『水星の魔女』自体がクオリティ面や内容面でアニメファンのみならず幅広い視聴者から高評価を得た作品ということもあり、アイナのシンガーとしてのポテンシャルを従来のファン以外の層にまで広く知らしめる結果となった。

アイナ・ジ・エンド - アイコトバ [Official Music Video](TVアニメ『薬屋のひとりごと』EDテーマ)

 ちなみにアニメ関連ではほかにも10月より放送中の『薬屋のひとりごと』で石崎ひゅーいの手がけた「アイコトバ」が第1クールエンディングテーマに起用されており、アニソンにおける地位も着実に固まりつつある状況だ。また、アニメではないがNetflixのリアリティシリーズ『韓国ドラマな恋がしたい』にも主題歌「華奢な心」を書き下ろすなど、タイアップ全般が好調を維持していると見ることができる。

 そして今年一番のトピックといえば、やはり岩井俊二監督の映画『キリエのうた』で主演を務めたことだろう。このことがもたらしたインパクトは計り知れないものがあり、2023年に限らず将来的にもアイナ・ジ・エンドという表現者のキャリアにおいて重要な意味を持つ事象になっていく公算が大きい。少なくとも『水星の魔女』と同等かそれ以上に、いわゆる一般層の脳裏にアイナの存在感を植えつけた一作であることは間違いないだろう。

Kyrie(アイナ・ジ・エンド)- キリエ・憐れみの讃歌 [Official Music Video](映画『キリエのうた』主題歌)

 アイナは本作で“歌うことでしか声を発することができない住所不定の路上ミュージシャン”という役柄に挑戦し、第48回報知映画賞の新人賞を受賞している。また主人公・キリエ(Kyrie)名義で主題歌「キリエ・憐れみの讃歌」をはじめとする劇中歌を多数担当し、10月には同名義でのアルバム『DEBUT』もリリース。役名名義での作品ではあるが、アイナ自らが手がけたオリジナル楽曲も多数収録されており、“自身3作目のオリジナルアルバム”と捉えても差し支えないほどに力と愛情が注がれた充実作だ。また、Kyrieとして小林武史、名越由貴夫とともに出演したYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」も250万回再生を超える大きな反響を得た。

 岩井監督の手がける音楽を軸とした映画作品は過去にも『スワロウテイル』(1996年)や『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)が広く知られており、映画のヒットをきっかけにCharaやSalyuといったアーティストが一躍ブレイクを果たしていることも周知の通りだ。“YEN TOWN BAND”や“Lily Chou-Chou”という劇中名義での音楽活動が付随するスタイルも“Kyrie”として踏襲されており、そこには多くの共通点を見いだすことができる。今年10月にはそのYEN TOWN BAND、Lily Chou-Chou、Kyrieが一堂に会するライブイベント『円都LIVE』が開催されたことも記憶に新しいところだが、アイナにとってのKyrieが将来的にCharaにとってのYEN TOWN BANDやSalyuにとってのLily Chou-Chouのような特別な存在になっていったとしても、それはまったく不思議なことではない。

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