米津玄師のKing Gnuカバーがそっくりすぎる 生成AIで揺れる“歌わせてみた”文化の是非

“AI歌わせてみた”の歴史

 本来歌唱を想定せずに収録された様々な人物の音声データを、手動で切り貼りしピッチ調整を加えオフボーカル音源に乗せる。そんな二次創作活動もVOCALOIDの登場と同様00年代から、すでにインターネットの局所的な界隈では盛んに行われていた。

 AIカバーとの相違点はAIの使用有無のみならず、主に二次元キャラクターの声を活用したものが多かった点だろう。元よりVOCALOIDカルチャーと密接した文化のためニコニコ動画への投稿が中心だったが、現在は非常に多くの動画がYouTube上にもアップされている。従来であればそれを楽しむのはややニッチな二次元カルチャーを愛好する、昔ながらの“オタク”な人々に限られたものだった。しかし近年周知の通り、オタクという属性の大衆化によって「人力VOCALOID」の概念が三次元アーティストにも持ち込まれたこと。加えてAIの急速な発達で質の高い歌唱模倣データが作れるようになったことで、著名シンガーの歌唱動画を二次創作する風潮がここまで広まったのではないだろうか。

 このように、潮流を辿ればけっして直近数年の興隆のみに留まらないAIカバー。しかし冒頭から再三述べるように、法的な是非については現状二元的な判断が非常にしづらいものとなる。本来なら動画コンテンツの拠点プラットフォームともなりやすいYouTubeは、生成AIコンテンツに対して今年11月に新たなガイドラインを設定。AIを用いて作った動画に関しては明示を義務化し、カバーAI楽曲のような音楽コンテンツについては権利者からの削除要望を出せるよう機能を拡充し始めている。そんな背景から、未だ生成AIの規制要綱が整いきらないTikTokなどの限定的な場所のみで、今回の流行が発生した形とも言えるだろう。

 重ねて著作権の側面のみならず、今後この生成AIによる音声データが対象のアーティストに対し好意的な層のみに利用されるとも限らない。AIによる質の高いフェイク画像が社会問題となっているように、この生成AIによる音声データは「本人が言ってないことをあたかも本人が言っているような音声を作れる」危険性だって当然孕んでいる。場合によっては愛するアーティストに対する名誉棄損を、自身が無自覚のうちに行う可能性があることも頭の隅に必ず置いておくべきだろう。

 しかし一方で、先述のような著名シンガーの歌声データを公式的にAI活用した歌唱ソフトとしてリリースする前例は、これまでにも多数存在する。アーティスト本人の意志や方向性も加味する必要はあるが、彼らの歌声の価値を守りつつ人々が音楽や創作をより楽しむコンテンツとして、上手に生成AIを活用する道も確かに存在しているのだ。

 年々技術が進歩し、様々なシーンで我々が想像もできなかった進歩を遂げる機械やAI。娯楽・エンタメに関わるクリエイティブの面においても、人間と機械の共存に対する折衷案は今後まだまだ改善・対策の余地がある。良い面と悪い面どちらにも目を向けつつその合間を探ることが、今後創作に関わる人々の抱える命題でもあるのかもしれない。

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