連載『lit!』第81回:モーニング娘。、櫻坂46、#ババババンビ、BiS…2023年女性アイドルベストソング
BiSと同じくWACK所属のASPが8月にリリースした「I HATE U」は若手注目ユニット・SATOHが手掛けています。アイドルの表現するロックサウンドは一般に“一体感”“エモい”などの形容に結びつくことが多い印象ですが、ハイパーポップを取り入れたクールなサウンドメイクはそれらとは無縁で、ポップすぎずラウドすぎず、かと言ってマニアックにもなりすぎずきちんとキャッチーさが残るという稀有なバランスが魅力的でした。メンバーの表現力の向上にも目を見張るものがあり、BiSH以降のWACKを引っ張っていってほしいグループです。
インディーズシーンに目を向けてみると、ボカロを経由したロックサウンドに定評のあるRingwanderungの「失墜の夏」は、これまでのイメージとひと味違う切ないソウルナンバーでした。ゴージャスなストリングスアレンジが印象的なこの曲を手掛けたのは、J-POP、アイドル、アニソンなどジャンルを超えて活動するクリエイター・きなみうみ。昨年の年間ベストに選出した東京女子流『ノクターナル』収録の「Viva La 恋心」「コーナーカット・メモリーズ」を生み出したと考えると合点がいきます。Ringwanderungはここ最近の作風の広がりを踏まえたアルバムを早く聴いてみたいところです。
結成20周年を迎えたNegiccoの「お久しぶりです・お元気ですか」は小西康陽(ex.PIZZICATO FIVE)が「アイドルばかり聴かないで」以来10年ぶりに提供した楽曲です。「慎吾ママのおはロック」をはじめ、小西作品でしばしば見られる自己紹介的なスタンスの楽曲ですが、メンバー全員の産休を経ての再始動というタイミングで改めて挨拶をするという内容には20年の重みを感じざるを得ず、Negiccoがこのタイミングでリリースするからこそ生まれた楽曲であることがよくわかります。「東京は夜の七時」「不景気」「万事快調」などPIZZICATO FIVEの名曲からの引用も楽しい1曲です。
福岡を拠点に活動する5人組・九州女子翼。アルバム『UNIVERSE』のリードトラック「キミは太陽」はプロデューサー・筑田浩志の代表曲と言えるGALETTe(2016年解散、2024年に2日間限定で復活を予定)の「じゃじゃ馬と呼ばないで」を彷彿とさせる王道ディスコファンクです。洗練された楽曲を真っ直ぐにパフォーマンスする姿は、どこか奇を衒ったものや刺激の強いものが目立ちがちな昨今のシーンにおいて逆に新鮮にも思えてきます。アルバムとしても佳曲揃いでメンバーのスキルも高く、こういったグループがきちんと活動を続けられるアイドルシーンであってほしい、とつくづく感じました。
今年目立ったのが、アイドルシーンにおいて一定の実績を持つメンバーで構成された新グループです。来年に向けて注目したいselfishにも、メンバー5人全員に俗に言う「前世」(以前の活動歴のこと)があります。「My pace」はプロデュースを手掛けたONIGAWARAが得意とするちょっぴり懐かしさを感じさせるメロディに清涼感のあるコーラスワークが印象的な1曲です。彼らにはWHY@DOLLやukkaなどに楽曲提供の経験があり、アイドルとの親和性も抜群と言えるでしょう。selfishはデビューライブからバンドセットを用意するという気合いの入れようで、アイドルらしい爽やかさと良質なポップセンスを損なわないままバンドサウンドもしっかりと楽しめる、いいグループになる予感がします。2024年の活動に期待したいところです。