連載『lit!』第81回:モーニング娘。、櫻坂46、#ババババンビ、BiS…2023年女性アイドルベストソング

 アニメ『【推しの子】』とそのオープニングテーマであるYOASOBIの「アイドル」が人気を博した2023年。アイドルとは何だろうか、と改めて考えた人も多かったのではないでしょうか。今日のアイドル像とは数々の先人達が築きあげてきたものの集積であり、現代のアイドルもまたそれを拡張、更新していく存在です。今回の「lit!」では、多様なアイドル像を提示した10組が今年リリースした楽曲を挙げながら、2023年を振り返ってみたいと思います。今年選んだ10曲は、以下の通りです。

・「Wake-up call〜目覚めるとき〜」モーニング娘。'23
・「Start over!」櫻坂46
・「バンビーナ」#ババババンビ
・「I.C.Q. feat. MOTSU」HiiT FACTORY
・「LAZY DANCE」BiS
・「I HATE U」ASP
・「失墜の夏」Ringwanderung
・「お久しぶりです・お元気ですか」Negicco
・「キミは太陽」九州女子翼
・「My pace」selfish

モーニング娘。'23『Wake-up Call~目覚めるとき~』Promotion Edit

 1998年のデビュー以来、四半世紀に渡りアイドルシーンの先頭を走り続けるモーニング娘。'23。「Wake-up call〜目覚めるとき〜」はグループの長い歴史の中でも珍しいコライトで制作された1曲で、80'sリバイバル的なレトロ要素のあるトラックが新鮮です。歌詞においては固定観念にとらわれず自分らしく生きることの大切さが描かれていますが、特に痺れたのが〈夜の底で 朝を待つ誰かの心/私が照らしてあげる〉というフレーズでした。この一行にはいつの時代も変わらないアイドルの持つ普遍的な役割を感じます。しかもこの曲にはグループの過去の名曲からの引用が散りばめられており、過去と現在が交錯したある種これまでの集大成のような楽曲です。これまでの歴史を大切にしながら、常に変化し続けることによって最前線で輝きを放つ、そんな彼女たちの今がこの1曲に詰まっています。

櫻坂46『Start over!』

 昨年『第73回NHK紅白歌合戦』への出場を逃した櫻坂46。東京ドーム2DAYS公演を行うなど極端に人気が低迷していたわけではなかったものの、グループにとっては何か起爆剤となるものが必要な時期だったのでしょう。今年は3枚のシングルをリリースし精力的に活動した彼女たちですが、中でも6thシングルの表題曲「Start over!」はベースソロから始まる意表を突く構成で、ジャズの要素を取り入れた攻めの1曲です。「やり直し」の意味を持つタイトル通り、自分自身の弱さと向き合いもう一度立ち上がる姿を描いたこの曲には、欅坂46時代のどこか諦念混じりの世界観のその先のような櫻坂46としての個性がしっかりと感じられます。豊かな表現力を見せたセンターの藤吉夏鈴を中心に一期生・二期生全員(休養中だった遠藤光莉を除く)で見せたパフォーマンスも大きなインパクトを残しました。今年は『第74回NHK紅白歌合戦』への出場が決定。『紅白』だけが全てではないとはいえ、「やり直せる」ことを示したこの1年の櫻坂の躍進はシーン全体にとっても大きな意義があるはずです。

【LIVE映像】「バンビーナ」#ババババンビ|2022年8月14日 Zepp Namba 単独公演|アイドル ダイジェスト

 「Y2K」が『新語・流行語大賞2023』にノミネートされ、2000年前後のカルチャーが注目を浴びた2023年。#ババババンビがインディーズ時代にリリースした「バンビーナ」は布袋寅泰が1999年にリリースしたヒット曲のカバーです。原曲はロカビリーにラップの要素を取り入れた挑戦的な作風でしたが、誰もが口ずさめるギターリフでキャッチーなものに仕立て上げた点が鮮烈でした。#ババババンビによるカバーでもほぼ原曲を踏襲し、現代のJ-POPからすると珍しい長尺のギターソロもわずかにカットするのみ。変えないことによるリスペクトを見せつつ、ただのカラオケにならないのはグループの持つ圧倒的な「陽」のエネルギーがあるからでしょう。アイドルが歌うには少々きわどい歌詞もご愛嬌といった感があり、グループ名とタイトルがリンクしている点も含め、良カバーだと思います。

I.C.Q. feat.MOTSU / HiiT FACTORY

 90年代の小室哲哉サウンドからの影響を全面に押し出した1st EP『AZYL』で今年シーンに衝撃を与えたのがHiiT FACTORYです。続く2nd EP『MYTH』のリードトラック「I.C.Q. feat.MOTSU」にはm.o.v.eの元ラッパー・motsuが参加しており、m.o.v.eの代表曲「Gamble Rumble」を彷彿とさせる高速ユーロビートに、「そっちもいけるのか!」とこれまた唸ってしまいました。リバイバルとは歴史を再編集する動きでもあると言えますが、独自の目線で90年代J-POPを掘り起こしていくHiiT FACTORYは、当時確かにこうした音楽が存在していたことを後世に繋いでいく語り部のような役割を担っていると感じます。またあえてサウンドを現代的にアップデートしようとしないことが他との差別化になっており、当時を知る年齢層にもダイレクトに訴求した要因ではないでしょうか。

「LAZY DANCE」/ BiS 新生アイドル研究会【Hypers kids africaコラボMV】

 再解釈という意味では、ひと味違った切り口で面白かったのがBiSの最新曲「LAZY DANCE」です。この曲はフルカワユタカ(DOPING PANDA)によるプロデュースであり、イントロの時点ですぐにDOPING PANDA「Hi-Fi」からの引用だと気づくのですが、聴き進めていくと何と全編通してリフも構成もほぼ同じであることがわかります。ただしメロディや歌詞は全て書き下ろしという、カバーやオマージュともまた違った新しい表現がそこにはありました。ダンスロック路線もこれまでのBiSとはやや毛色が異なっており、グループの新境地的な1曲です。

ASP / I HATE U [OFFiCiAL ViDEO]

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