そらる&まふまふ、ふたりだけの特別な絆 After the Rain『アイムユアヒーロー』から紐解く

 『アイムユアヒーロー』は、After the Rainにとってフルアルバムとしては約5年ぶりの作品。2019年にリリースしたアニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)OPテーマ「1・2・3」の2023年バージョンに加え、After the Rainの代表曲のひとつである「桜花ニ月夜ト袖シグレ」の系譜にある和の世界観も盛り込んだ「折り紙と百景」や「万花繚乱」、シリアスなロックナンバー「モア」といったまふまふの美学で構築された活動休止前の楽曲だけでなく、活動休止後に制作されたバンドへの憧れを込めた「10数年前の僕たちへ」や創作欲求が立ち込める「アイスクリームコンプレックス」など自由度や純度の高い楽曲を収録している。この5年間の歩みが音楽に落とし込まれていると言っていい。

[ポケットモンスターOP]1・2・3/After the Rain(そらる×まふまふ)

 しかし、まふまふが活動休止前に自由度や純度の高い制作がまったくできていなかったのかと言うと、そうとは言い切れない。彼は2020年にリリースしたミニアルバム『7×2つの大罪』限定盤に封入されたインタビューで、制作においてそらるの存在が支えになっていること、ふたりの会話がきっかけで生まれた曲も多いこと、対極の特色を持つツインボーカルというAfter the Rainならではの曲作りがあること、それに対してわくわくできていること、素直な心情を吐露した楽曲があることなど、ピュアな気持ちをたくさん話してくれていた。つまり、まふまふが“自由で純度の高い制作”を求める気持ちを、多くを語らずとも長年支え続けてきたのが、そらるという相棒だったのだ。活動を始めてから「音楽は遊びだ」というピュアな気持ちを持ち続けているそらるが、大きな使命感を背負い続けたまふまふに与えた影響は大きいだろう。

【MV】アイムユアヒーロー/After the Rain(そらる×まふまふ)

 最新アルバムの表題曲「アイムユアヒーロー」には、〈頼りない 君だけのヒーロー〉の姿が描かれている。魔法が使えなくても、必殺技も出せなくても、悲しい時に手を繋いでくれるだけで、隣で泣いてくれるだけで、長雨を凌ぐための傘を差してくれるだけで、人の心というのは大きく救われるものだ。きっとまふまふにとってのそらるも、そらるにとってのまふまふも、そういう存在なのだろう。

 雨が降ったなら傘を差せばいい。雨が上がるまで待てばいい。お互いの真逆な要素に刺激を受け、それに助けられながら友情を深めたAfter the Rainは、雨の輝きも、肌寒さのなかで感じるぬくもりも、雨上がりの爽快感も、美しく描くアーティストへと進化した。

Ado、すとぷりら『紅白歌合戦』の演出はどうなる? “顔出ししない”アーティストへの過去の対応

『NHK紅白歌合戦』が今年も出場者を発表し、紅白合わせて13組のアーティストが初出場することが話題となっている。特に注目されてい…

ハチ=米津玄師&wowakaからEve、まふまふ、バルーン=須田景凪、有機酸=神山羊……本人歌唱で才能を発揮するボカロPの歴史

日本の音楽業界において今や一大シーンを築くジャンル、VOCALOID。遡ると、そのスタート地点はサービス開始からまだ間もなかった…

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる